第47話 去年のトラウマ






「春香、大丈夫?」

「うん。りょうちゃんがいてくれてすごく安心したからもう大丈夫。ありがとう」


2限の授業が終わった後、LINEを開いてみるとまゆ先輩から春香が倒れたというLINEが届いていて僕は慌てて保健室に向かった。どうやらパニックになってちょっと気を失っているだけのようだが、心配だったので様子を見に行くことにした。保健室に入り春香が横になっているベッドに向かうとベッドの横にはまゆ先輩がいてくれた。まゆ先輩はまゆの代わりに手握ってあげてて、そうしたら春香ちゃんも安心できるだろうから…と言い僕と場所を代わってくれた。そして、まゆ先輩はお腹空いたからお昼ごはん買ってくる。と言い大学内にある売店に向かった。ついでに僕と春香の分の昼食も買ってくるね。と言いまゆ先輩は保健室を出て行く。 


まゆ先輩が出て行ってから数分後に春香が目を覚ました。というのが現状だ。


「あ、春香ちゃん、起きたんだ。よかった」


僕が春香を抱きしめていると昼食を買いに行っていたまゆ先輩が戻ってきた。


「とりあえず、春香ちゃんの分もお昼ごはん買ってきたけど食べれそう?」

「悪いけどちょっと食欲ないかな…」

「そっか…とりあえず今日はもう帰ろう。送ってくからさ…りょうちゃん、悪いけど今日は春香ちゃんの側にいてもらえる?」 


まゆ先輩の問いかけに僕は頷いて答えた。今日は3限と4限に授業があるが、仕方がない。それに、初回の授業なんてガイダンスだけだから受けなくてもそこまで影響はないはず…と自分に言い聞かせた。まゆ先輩と春香も3限4限があるようだが、まゆ先輩は3限を欠席して春香と僕をアパートまで送って4限は受けるみたいだ。まゆ先輩の優しさに感謝しながら僕と春香はまゆ先輩の車に乗せてもらった。



「まゆ、わざわざありがとう」


アパートの前に到着して、車から降りた僕はまゆ先輩にお礼を言う。


「全然大丈夫だよ。今日はちゃんと春香ちゃんの側にいてあげてね」

「うん。ありがとう」

「ねえ、まゆちゃん…授業終わった後でいいから今日お泊まりしに来てくれない?」


春香が甘え声でまゆ先輩に言う。まゆ先輩はかわいいな…と呟いた後、わかった。授業終わったら一回家帰って荷物用意してまた来るね。今日は夜ご飯まゆが作ってあげるから春香ちゃんはゆっくりしてるんだよ。と言う。春香はありがとう。と短く答えた。


「じゃあ、また後でね。りょうちゃん、春香ちゃんのことよろしくね」


まゆ先輩はそう言って大学に戻って行った。僕と春香はまゆ先輩を見送ってから部屋に入る。



「何があったか話せる?」


リビングに入り、春香と並んでソファーに座りしばらくして僕は春香に尋ねた。春香は怯えるように僕の腕をギュッと抱きしめた。


「ごめん。辛いなら無理して言わなくて大丈夫だよ」

「ごめんね。りょうちゃんには言わないといけないことだった。だから話すね…」


春香はそう前置きして一旦落ち着くために水を飲む。そして再び僕の腕を抱きしめて話を始めた。


「私、去年ストーカーの被害に遭ってたの」

「え!?」


初耳だったので僕は驚いた。春香は申し訳なさそうな表情をした後、話を続ける。


「相手は私と同じ学年の石垣拓磨、吹奏楽部のパーカッション、幽霊部員だからりょうちゃんは会ったことない人だよ。学部はりょうちゃんとかりっちゃんと同じ学部、去年の春にね。この部屋で去年の一年生でタコパしたの。アパートを知られたのはその時…で、去年の夏くらいに私、告白…というよりかは一方的に付き合えって言われたの。当然、私は断った。りょうちゃんが好きだったしあの人とは絶対に上手くやっていけないから…断ってからも部活終わりにご飯に誘われたりとかされて、朝にアパートの近くで待ち伏せとかもされたし空き時間に私がピアノ練習室でピアノ弾いてたら急に入ってきて…その……強引に変なことされそうにもなったりした…」


春香は話しながら震えていた。当時のことを思い出して怖がっているのだろう。僕は春香を抱きしめて、大丈夫だよ。と言うと少しだけ震えが収まり、春香は話の続きを始める。


「私は、大事にしたくなかったから、まゆちゃんとかりっちゃんとか及川さんに相談するくらいのことしかしなかったんだけど、ある日、深夜遅くに終電逃したから泊めろってアパートまで来て…アパートの前で大声で言われて…私、怖くなって及川さんに連絡して、結局あの人は及川さんに連れてかれて及川さんのアパートで泊めてもらったみたいなんだけど…次の日、LINEでめちゃくちゃ文句言われて、会ったら怒鳴られたりして…それで、怖がってた私を見てまゆちゃんとか、りっちゃんとか、及川さんがもう許せないってあの人を私に近づけないようにしてくれてあの人は幽霊部員になったの。たまに来た時も事情を知ってる人たちが私に近づけさせないように徹底してくれたり、1人じゃ心配だからってまゆちゃんとりっちゃんどちらかが毎日、お泊まりしに来て、朝は必ずまゆちゃんが車で迎えに来てくれるようになって、待ち伏せとかもされなくなったの。りょうちゃんと同居するってなった一番の理由はストーカーなんだよね。お母さんがりょうちゃんがいてくれればお母さんも私も安心できるでしょうって…ストーカーされてたってりょうちゃんに知られたらりょうちゃんが一緒に暮してくれないかもって思ってりょうちゃんには言えなかった…ごめんなさい」

「春香が謝る必要はないよ。春香は悪くないから」


泣きながら謝る春香に僕がそう言うと春香はありがとう。と言い、話を続ける。


「それで、今日、まゆちゃんとりょうちゃんのことを話してたの。その話をあの人に聞かれてて、まゆちゃんにりょうちゃんと付き合えって言って私にはあの人と付き合えって言ったの。そうすればみんな幸せだって…それで、私とあの人が付き合ったらりょうちゃんを追い出して2人で暮らそうとか言われて……まだ、諦めてなかったんだ。って思って…また、ストーカーされたり、エスカレートしてりょうちゃんやまゆちゃんに何かされたらどうしようとか、私にも何かしたりしそうな危うさがあって本当に怖かったの…」


春香は話しながら泣いて、震えていた。僕は春香を抱きしめて大丈夫。と声をかけながら話を聞いていた。春香の話が終わり、僕が抱いた感情は純粋な憤怒だった。


大好きな人を、大切な人がこんなに傷つけられていたと知り怒りが収まらなかった。


震えが止まらずに泣き続ける春香を抱きしめながら僕の怒りは増して行く一方だった。








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