第2話 2人の夜ご飯




りょうちゃんが部屋に入って行くのを見て私は台所に向かった。そして台所で一人きりになった瞬間、私が今まで抑えていたものが爆発した。


「あー、りょうちゃんに会えた、あー、やばい、昔と全然変わってない、あー、もう。好き。本当に好き…」


親からりょうちゃんと一緒に下宿しないか?と提案された時、私は迷わず了承した。好きな人と一緒に下宿できる。こんな幸せなことがあるのだろうか…

りょうちゃんと一緒に暮らす今日のためにりょうちゃんと暮らすことが決まった日から必死になって料理の腕を上げた。まずは私の料理でりょうちゃんのハートを掴まないと…と思い今日はりょうちゃんの好物ばかりを集めた。


私は台所で用意してある料理を温めてお皿に盛り付けしてリビングのテーブルに運ぶ。途中、りょうちゃんが何か手伝うことあるか聞いてくれたが今日は座って待っていてもらった。


「うわ、すごい、めっちゃ美味しそう」

「えへへ、りょうちゃんの好きなものをたくさん用意したからいっぱい食べてね」


僕の反応を見た春香はすごく嬉しそうな表情をしながら席に着く。テーブルにはハンバーグにサラダ、ホワイトシチューにから揚げ、春巻きなど僕の好きなものがたくさん並んでいた。春香の料理は昔たまに食べていたが何を食べても美味しかったので期待が膨らむ。早く食べたいと言う感情を抑えて春香がよそってくれたご飯を受け取り自分の前に置く。


そして、春香が食事の準備を終えた後、手を合わせて「いただきます」と僕が言うと春香は笑顔で「はい。たくさん食べてね。じゃあ、私もいただきます」と言った。春香の返事を聞き僕は早速ハンバーグに手を伸ばす。


「はい、りょうちゃん、あーんして」

「え…」


春香が自分の箸でハンバーグを少し切り取り持ち上げて僕の顔の前まで持ってくる。春香の顔は真っ赤で手は震えている。ぶっちゃけめっちゃかわいい。ていうかなんでいきなりあーんなの?


「りょうちゃん、はやく!」

「え、あ、うん」


春香の勢いに負けて僕は春香の箸に置かれたハンバーグをパクリといただく。


「感想…は?」

「めっちゃ美味しいよ」


顔が真っ赤な春香に僕が答える。たぶん僕の顔も真っ赤なんだろうな…ずっと好きだった人が作ってくれた手料理をあーんで食べさせてもらえる。しかも料理はめちゃくちゃ美味しい。最高の状況じゃないか……などと考えながら春香の方に目をやると春香が顔を真っ赤にしながら口を少し開いて僕の方へ顔を寄せている。


「えっと…何してるの?」


かわいい。かわいい。かわいすぎるけど、謎い。え、何?どうすればいいの?


「あーん、して…お返し…に……」


ゆでたこのように顔を真っ赤にした春香がすごく恥ずかしそうに震えた声で僕に言う。


「ねえ、はや…く……」


春香のかわいらしくて優しい感じの声が僕に催促をしてくる。恥ずかしさのあまり目に涙まで浮かべているのがめちゃくちゃかわいい。僕は箸でハンバーグを少し切り取って春香の口まで運んだ。


「えへへ。りょうちゃん、ありがとう」


春香は満面の笑みで僕に言う。なんだこの生物、かわいすぎるだろ……


りょうちゃんにあーんしてもらってからしばらくはお互いあまり話さないまま夜ご飯を食べていた。私もりょうちゃんも顔が真っ赤でお互いとても話せるような状態じゃないからだ。


つい、勢いでりょうちゃんにあーんをしてしまいりょうちゃんにあーんをさせてしまったわけだが、りょうちゃんに嫌われたりしてないかな…りょうちゃん嫌だったりしないかな…と言った感情が私の中でグルグルと彷徨い始めた。


「ねえ、りょうちゃん、嫌…じゃなかった?」

「え、何が?」

「その、あーんしたこと……」

「え、嫌じゃないよ。なんか、昔に戻ったみたいで懐かしかった。春香こそ嫌じゃなかった?」

「嫌じゃないならよかった。私は嫌じゃないよ。嫌だったらあーんしたりなんかしないから…」

「そうだよね」

「うん。ところで、美味しい?」


嫌じゃない、そう言われて私はほっとした。このあーんが原因でりょうちゃんに嫌われたりしたら私は一生後悔しただろう。ずっと、好きだった人に嫌われるようなことをしてしまった自分が許せなくなっていたと思う。嫌われなくてよかった。と思う反面、りょうちゃんはやっぱり私のことは昔からの幼馴染としか思ってないんだな。と思ってしまった。昔に戻ったみたいで懐かしかった。りょうちゃんは私にそう言ったが、私がりょうちゃんに求めていた答えは別のものだった。りょうちゃんは気づいてくれてるのかな…私がりょうちゃんのことを好きだということに……


「うん。めちゃくちゃ美味しい。昔から春香の料理は美味しくて好きだったけど昔よりかなり美味しくなってる」

「そう。よかった。嬉しいな…」


とりあえずりょうちゃんが私の想いに気づいているかは一旦忘れることにする。せっかく二人きりで食事してるのだし楽しまないと…


私はそう思いりょうちゃんと言葉を交わす。話の内容は私が卒業した後の高校の部活の話をしていた。そんな話をしている間も私の作った料理を本当に美味しそうに食べてくれているりょうちゃんを見てついニヤニヤしてしまうことが何度かあった。


「ふう、ごちそうさま。すごく美味しかったです」


テーブルに並べられた料理を全て完食したりょうちゃんが手を合わせて言う。


「久しぶりに食べた春香の料理が美味しすぎてついつい食べ過ぎちゃったよ」

「これから毎日作ってあげるからね」

「太らないように気をつけるよ」

「あ、りょうちゃんお米がついてるよ」


りょうちゃんのほっぺたに引っ付いていたお米を取ってあげて私の口に入れる。なんか漫画とかアニメのヒロインになった気分だった。

りょうちゃんは顔を赤くして「ありがとう」と私に言う。


春香にほっぺたに引っ付いていた米粒を取ってもらった後、たぶんだが僕の顔は真っ赤になっていただろう。恥ずかしい。だが、嬉しかった。好きな人にこんなことをしてもらえて…

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