お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染みの同居生活
りゅう
2人の新生活
第1話 2人の同居生活
都会から電車に乗り外の景色を眺める。横には大きなキャリーバックが一つ。
電車の外の景色は建物ばかりの景色から田んぼだらけの景色へと移っていく。ずっと田んぼばかりの景色が続いていると思ったら急に田んぼの中にソーラーパネルが現れたりして少し面白かった。
そして田んぼだらけの景色に飽きてきた頃にまた少しづつ建物が見えてくる。最初、電車に乗った時ほどとは言わないがちょっと都会みたいな景色が外に広がった。
そして、駅に到着して電車から降りた。まだ新しい綺麗な駅のホームをキャスター付きのキャリーバックを転がしながら歩き、エレベーターで下の階に降りる。駅の改札を出て駅の外をしばらく歩く。
すると見覚えのある横顔が視界に入った。昔からずっと変わらない可愛らしい笑顔を見ながら少しづつ近づいていく。
「あ、りょうちゃん、久しぶり、だね。元気にしてた?」
一つ年上だが昔からの幼馴染である春香が僕に気づいて声をかけてきた。とても優しい声で、とても可愛い笑顔で、昔と変わらない綺麗な黒髪のショートヘアーを後ろで軽く縛った髪型の僕の好きな顔で僕を出迎えてくれたのだった。僕と会うのは久しぶりだからか顔を赤くして手を体の後ろで組みもじもじさせているところがまた可愛らしい。こういったところを見るとやはりまだ大人しい感じなのは変わっていないようだ。
春香は昔から誰とも関わろうとしないタイプの女の子だ。親同士の仲が良くなければ、多分僕と春香が関わることはなかっただろう。誰とも関わろうとしないくせに部活はコミュニケーションが必要不可欠な吹奏楽部に入っているのが謎だ。中学の時から吹奏楽を始めて大学でも吹奏楽をしているらしい。楽器はチューバをしている。チューバとは金管楽器の一種で一言で言えば地味な楽器だ。大きくて、重くて地味、だが低音で合奏を支えるチューバは吹奏楽において必要不可欠な楽器である。
チューバを始めた年、春香は先輩とのコミュニケーションに困っていた。上達をするのはめちゃくちゃ早かったのだが、全く喋らず自分の意見を表に出したがらない春香はパート練習が本当に嫌いで無理に意見を求めようとする先輩が苦手だったらしい。当時、チューバパートは春香と三年生の先輩の二人だけだった。そして三年生の先輩が卒業してチューバパートが二年生になった春香だけになってしまった。人と関わったりするのが苦手な春香がまともに後輩を相手にできるわけがないと思い取った手段、それは僕にチューバを吹かせるというものだった。
当時の僕はサックスをやりたかったため春香の頼みを徹底して拒否した。だが、春香が吹くチューバの音に憧れてしまい僕はチューバを始めた。
そして高校でも同じ吹奏楽部で一緒にチューバを吹いた。当然春香が卒業した後も僕は吹奏楽を続けていた。春香が県外の大学に行ったため、春香が高校を卒業して高校の吹奏楽部を引退した後、僕はずっと憧れの音を聞けずにいた。僕が大学を選ぶ際、春香が通っている大学を滑り止めで受けた。結果、本命の大学に落ちてしまいまた春香と同じ進路になってしまったのだ。
県外の大学に合格した僕にはやることが色々あった。そしてそんな中、僕の親と春香の親からとんでもない提案をされたのだった。
「うん。僕は元気だったよ。春香こそ元気にしてた?友達とうまくやれてる?そもそも友達いる?同じサークルの人とうまく馴染めてる?」
「もう、大丈夫。だよ。心配しすぎ…」
春香は顔を赤くしながら僕に返事をする。こういったやり取りを昔何回かしたことがあるので懐かしく思ってたらなぜか笑えてきた。僕が少し笑うと春香も少し笑い「昔もこんなやり取りしたよね。りょうちゃん昔と変わってなくてよかった」と笑いながら言った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「うん。ていうかさ、本当にいいの?」
僕が春香とここで待ち合わせをしていた理由、それは…
「うん。いいよ。りょうちゃん以外の人だったら嫌、だけどさ、りょうちゃんなら大丈夫。さ、早く家に行こう」
春香は僕の腕を掴んで歩き始めた。
春香と同じ大学に僕が受かった。そして、下宿をすることになったと僕の親が春香の親に話した時、なぜか知らんが僕と春香を同居させることにしようという話になったらしい。
春香が現在下宿している場所はリビングと部屋が二つ付いているアパートらしい。大学生が下宿するには贅沢なアパートらしいが防犯面を考えた春香の両親は春香の意見を聞かずに勝手に決めたらしい。ぶっちゃけ過保護なのだ…
そして僕が春香と同居したら家賃は半分で済み防犯面も強化できるという謎すぎる春香の親の考えからこうなったらしい。僕が親だったらいくら幼馴染で昔から家に泊まりにきたりする親友の息子でも自分の娘と同じアパートの同じ部屋で下宿はさせないと思う。
ちなみに僕は両親にめちゃくちゃ反対した。すると両親から春香と一緒に住まないなら仕送りは一切しない。と言われ経済的に屈するしかなかった。さらに母親から投げかけられた「あんた家事とか全然できないでしょ。春香ちゃんがいればそういった面でも安心できるから一緒に下宿しろっていってるのよ」という一言がフィニッシュブローとなり春香が拒絶してくれるのを祈る状況になったのだが、春香は「りょうちゃんならいいよ」とあっさり承諾したため僕は春香と下宿することになったのだ。僕としては春香と下宿するのは全然嫌じゃない。好きな人と一緒に暮らしたいとは思う。でも春香の気持ちや世間の目を考えるとどうしても春香と同居するのには納得がいかなかった。そんな感じの心境のまま現在へと至った。
しばらく歩くと下宿先のアパートの前に着いた。アパートの玄関にあるオートロックを解除して春香はアパートの中に入る。僕も春香に続いて中に入った。
そして階段を登り部屋の扉の鍵を開け春香は先に中に入る。
「スリッパ、これ使って」
「あ、うん。ありがとうお邪魔します」
春香が僕の前においてくれたモップのようなふわふわしたスリッパを履き僕が部屋に入ると春香は笑いながら「お邪魔しますって、ここはりょうちゃんの家でもあるんだからそんなこと言わなくていいのに」と言った。無邪気な笑顔を本当に可愛いな、と思いながら僕が見つめていると春香は顔を赤くして「そんなに、見ないでよ。え、もしかして何か着いてる?」と慌てて確認を始める。僕が「何も着いてないよ」というと春香はほっぺを膨らませる。
「ごめんね。春香が可愛かったからさ」
「もう。すぐにそういう冗談を言うんだから…」
「冗談じゃないって…」
僕は春香に聞こえないように小さな声で呟いた。
僕は本当に春香を可愛いと思っているし春香のことが好きだった。だが、この思いはいつも春香には冗談としか思われない。告白すればいい。誰もがそう思うかもしれない。僕だって告白してこの思いを知ってもらいたい。でも、告白して今の関係が崩れてしまい。もう二度と春香とまともに関われなくなるんじゃないかと考えると怖かった。
「とりあえず荷物はそこの左の部屋に置いて、そこがりょうちゃんの部屋だから。荷物置いたらリビングに来てね。夜ご飯作ってあるから一緒に食べよう」
「うん。春香の手料理食べるの久しぶりだから本当に楽しみ」
「ふふ、今日のはね。自信作だから楽しみにしてて」
そう言いながら春香はリビングに向かって行った。
僕は春香に言われた部屋に荷物を置いた。これから、僕と春香の二人の生活が始まる。春香は嫌かもしれないけど僕は本当に嬉しかった。
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