第85話 GUILTY⇐
俺は指示通り、蒼色の矢で彼女の胴体を射抜いた。
ドスッという鈍い音が響き渡る。
すると、紅く輝いていた二つの瞳が光を失って黒ずんでいくと共に、あの化け物のような人影がみるみるうちに小さく小さく萎んでいく。
やはりヤミィさんに意識はないのだろうか。その攻撃に対する、彼女の叫び声や呻き声は全く聞こえなかった。
慌ててロキさんが駆け寄り、その人影の大きな右手から滑り落ちていくシオンさんを優しく抱き留める。
そして、鎖に縛り上げられたボロボロの軍服姿ではあるものの、かろうじて元の容貌に戻ったヤミィさんは、自分を儚げに照らす月を見上げるように、地面へと力なく膝を落としていった。
ガチャンッ……
静まり返った深夜、寂しく耳に届いた微かな金属音。
ロキさんとナツさんがヤミィさんをの体を支える一方で、団長は彼女たちから早々に視線を外していた。
そして、カリアス団長は時計台の最上階にいる俺とジークの方を見上げると、姿勢よく深々と俺たちに向けて頭を下げる。
(……?)
単純に弓矢を放ったからだろうか。俺には、その行動の真意が分からなかった。団長に頭を下げられる理由が全く見当たらない。むしろ、助けに来てもらったくらいだ。
堂々たる威圧的なオーラはいつものままに、逆にこちらが申し訳なくなるくらいの丁寧なお辞儀。
(……)
それに対して俺たちは、何も返せずただただその様子を見下ろしていた。
頭を下げ終えると、再度俺たちのいる時計台をその瞳でとらえたカリアス団長。
そしてしばらくすると、彼はどこか優しい笑みを口元に浮かべながら、俺たちから視線を逸らしてしまったのだった。
俺とジークは、もう何が何だか分からずにとりあえず顔を見合わせてぎこちなく笑う。
──ピピッ
『
その時、踵を返した団長の
◆
翌朝、俺とジークはそれぞれ順番にロキさんの宿泊部屋へと呼び出された。
いまさら用件を聞くまでもない。絶対に昨夜の件について。
部屋にいたのは、副団長と第一部隊隊長だった。団長とナツさんは、意識のないヤミィさんとまだ回復しきっていないシオンさんを連れて、夜のうちにランにある本部に一度帰ったという。
(グレイ隊長……大丈夫なのだろうか?)
俺はヤミィさんがどうなったのか、この先どうなるのかをまるで分かっていない。だから、心配だった。
しかし、いつも通り俺を冷ややかに見つめるその表情から何の感情も見て取れない。
俺が椅子に腰掛けると、雑談を交えることなくロキさんはすぐに本題に入った。
それは、簡単に言うとふたつ。
まずは、俺が
そして次に、あの蒼色の弓がそのためのものだったということ。
俺は驚いた……どころの話ではない。わけがわからなさすぎて顎が外れるかと思った。
──以下、ハクがロキから聞いた話の細かい説明である。
まず、ハクが
次に、この大事件の発端であるランスの放った紅色の弓矢、そして最後ハクの放った蒼色の弓矢について。それらはどちらも、
※第75話 DATAⅡ⇐ 参照。
以前、ロキの説明にあったように、基本的に
だからこそ、あの階級総入れ替えバトルでハクが
しかし、それは少しだけ違う。責任は団長にあると、ハクがカリアスを責め立てないように、ロキは説明をずらしていたのだ。
結局、カリアスがハクたち騎士に
つまり、その時からカリアスとロキは知っていたのだ。たとえ騎士であっても、ある条件さえ整っていれば秘密スキルを扱えることを。
そして、そこで出てくるのが──特殊な色つきの武器。ここが今回のロキの説明で、ハクの最も驚いた部分である。
内容はこうだった。
それぞれの処理を行った武器の色によって、秘密スキルの処理方法が決まる、と。
例えば紅色の武器を使えば、
要するにハクは、あの蒼色の弓と相性が良かった。それだけの事である。
──と、一旦この辺で説明を終了しておく。
(蒼色の弓……適性?)
そうして首を傾げた俺に、ロキさんは続けた。
「覚えていませんか? 雪の降るカイエン。
(カイエン? グレーズド?)
「──ああっ!」
それは、あの時の蒼色の弓を使った50の的を射る訓練。
入団してからこれまで俺がとってきた行動、訓練の数々。それらが全て、ロキさんの筋書き通りであったことに、俺はこの時初めて気がついた。
……To be continued……
────────────────────
次回:第86話 CLEVER⇐
✱最終改稿日:2020/10/24
(※今回の説明につきましては、数話後にもっと分かりやすく簡略化した図形で説明する回を設ける予定です。ご安心ください(笑))
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