第78話 JEALOUSY⇐
──ザッ
「……っ! 止まれーっ!」
突如、隊列の先頭から聞こえたヤミィさんの声。
それに促されるように前を見ると、そこにいたのは驚きの人物だった。
────(※視点が変わります)─────
あれからもう半年以上。
あいつは騎士としての職務を全うし、自分の力で人を助け、周りの市民から慕われ、結果Sランク騎士団にまで勧誘された。
それに対して、俺は……。どうして俺は、このゲームの世界に入ってまで、人に助けられる側にいるのだろうか。
だっておかしい。俺は現実世界から勇敢な騎士になる為に、人を護り助ける為に勇気をだしてこの世界に飛び込ん──
いや、違うか。……逃げてきたのか。俺は恐らく、嫌なことが多い現実世界からも逃げてきただけなんだろうな。
だから未だに戻らない。いつでもログアウトできるはずなのに、騎士でなくなった今でもずっとこの世界にしがみついている。
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「なんでって、カッコよくないか?
……騎士っ!」
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俺は、あんな純粋に騎士をカッコいいと言う理由だけで続けられるお前が、心から羨ましいよ。
俺はもうあれ以来、そうは思えなくなっちゃったから。
幾度となく痛いと泣き喚く入りたての新兵を無惨なまでに切りつける、あの騎士団の入団試験以来、俺は自分のなりたいものが全く分からなくなってしまった。
あんな体にも心にも痛い思いをしてまで、いったい何を護りたいというのか。俺はそんなつもりで──
「……──ねえ、せんせ! きーてる?」
「あ! ごめんダイ君。どーしたの?」
「もう。だからぁ、アルくんがぼくの──」
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「え、どうしてだ? 保育士だろう? 人にはそれぞれの護り方があっていい。だからさ、俺は素直にカッコいいなあと思うよ」
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出会ったばかりの頃、最初のお酒の席で愚痴を零した俺に、あいつが言い放った言葉。
本当に分かってない。なんでもない顔でそんな言葉吐いてさ、結局カッコいいのはどっちだって話だ。
確かに保育士はやっていて楽しいし、子供達も凄く可愛い。俺ももちろんそれなりに誇りを持ってやってるよ。
だけど、君が来たら子供達ですら、騎士様だ! 騎士様だ! って嬉しそうにはしゃぎながら、自然とそっちに寄っていくじゃないか。
そんな風に騎士を全うしていつも輪の中心で輝いている君を見て、俺が何も思わないはずがない。嫉妬しないはずがない。
騎士団入団の時だって、一緒にいても俺は隣でニコニコ笑っているしか出来なかったけど、本当はお前みたいになりたかったよ。
出来ることなら入団試験も無しでSランク騎士団に誘われて、この世界の皆に慕われる騎士になりたかったよ……っ!
俺もハクみたいに……いや、ハクを超える騎士になりたかったよ。
とめどなく溢れ出る想いが、自分を飲み込んでいく。
「へえ。なら、私達──が、そのお手伝いを致しましょうか?」
え──?
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「ら、ランスっ!?」
今、俺達第一部隊の目の前に佇んでいるのは、間違いなく俺の知るランス。
だけど……
「え、ハク。あの騎士を知っているのか?」
それは、保育士では無かった。
立派な軍馬に跨り、特徴的な形をした紅い弓を手に握る姿。彼はどこからどう見ても騎士の格好をしている。
「ランス。どうして──」
彼は俺と目が合っても、何の反応も示すことなく、なぜか依然として第一部隊の前に立ち塞がったまま。
〔Sランク騎士団DAYBREAK《夜明け》第一部隊隊長グレイ。攻撃対象を確認しました〕
俺のよく知るその声は、温度を持たない機械のように誰かと話をしていた。
そして彼は、無表情のまま俺達から少し距離をとると、矢の先を先頭に立つグレイ隊長に向けてその紅い弓を構える。
(ラ、ンス……?)
何が何だか分からない。
(あんなやつ俺は知らない。あれはいったい誰なんだ……?)
その構えを見て、すかさず第一部隊の隊列は彼を取り囲むように円を成す。
そして、気がつけば俺以外の隊員は思い思いに武器を構え、攻撃態勢をもう整え終わっていた。
しかし、
「……」
グレイ隊長はそんな至近距離で弓を向けられてもなお、ランスを黙って見据えたまま隊員に攻撃の指示を出す事はなかった。
……To be continued……
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次回:第79話 CRIMSON⇐
✱最終改稿日:2020/10/18
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