第73話 PURPOSE⇐


 と、とりあえず秘密シークレットスキルというのは、このゲームのバグにより生み出されたもので……


 それには三種類の処理方法があって……


 俺はそのひとつ略奪プランダーで、あの女性に秘密シークレットスキルを奪われ、た……?


 ってことでいいのか。


 何度も何度も繰り返し頭の中で唱えていれば、自分の置かれた状況とそれの背景は徐々に把握出来てきた。


 でも、だからなんだと言うのだろう。


 別に俺は望んで秘密シークレットスキルを手に入れたわけではない。だから、たとえそれを失ったところでゲームに入ったばかりのあの頃に戻っただけの話。そう。それだけの事なのだ。


 なんて肝心な時に制御が効かずに暴走ばかりで、正直邪魔なだけ。


 なのに……


 なのになぜ、俺の胸は今、こんなにも虚しいのか。


 足りない。何かが。俺の身も心も奮い立たせてきた何かが……決定的に足りていない。



 ロキさんから詳しい説明を聞いた。俺はそれを頭でもしっかり理解した。


 しかし、


 秘密シークレットスキルとはいったい何なのか。なぜ、それはあの時俺の元に宿ったのか。俺の中にあったそれらの疑問は、なくなるどころか、ますます深まるばかりだった。



──パンッ


 長い沈黙を破る軽快な手拍子。


 その音に、その場で茫然と立ち尽くしていた幹部たちが我に返る。……と俺も。



「まあ、盗られてしまったものは仕方ないじゃないですか。秘密シークレットスキルが、団長とロキをそんなに動揺させるほど大切な物ならば、このまま思い詰めているよりも奪い返す方法を考える方が先決かと……俺は思いますが?」



 やはり、こういう時のこの男性は本当に頼りになる。楽観的かつ理性的。緊迫した場の空気に全く動じることがなく、思ったことを口にできる。


(……)


「ふっ、今回ばかりはナツの言う通りかもしれませんね。……団長。これはもう、私たちのみでどうこうできるようなレベルの問題では無くなってしまったようですよ。が私たち──DAYBREAK夜明けと戦う覚悟を決めた。そう考えていいと思います」


 何の話をしているのか、俺にはさっぱり分からなかった。しかし、ロキさんは迷いの吹っ切れたような瞳をまっすぐに団長へと向けて、口元にほんのりと笑みを戻している。


 それを見ただけで、俺は少し安心した。


(やっぱりロキさんは、あの笑顔が似合う)



「ただ……奪い返すだけでは意味がないんですよ。私たちがしようとしている事は──」

「おい、ロキ」


 瞳の奥を未だに激しく揺らしたままの団長が、軽くロキさんの言葉を遮る。

 

「……私たちがこれからする事。それは騎士としてあってはならない行為です」


 だが、ロキさんは団長の険しい表情を冷ややかに一瞥しただけで、そのまま言葉を続けていく。


「それがもし上手く実行できなければ、ステータスⅠ崩壊で一発ログアウト。そして、私たちは現実世界に戻っても──」

「ロキっ!!!」


 ──それ以上はダメだ!


 今度は鋭く上げられた団長の声。それは確実にそう続けられていたと思う。


 異様な静けさがその部屋を包み込んだ。


 

「おい……ロキ。どういうつもりだ」

「団長こそ、何をそんなに恐れているのですか。先に仕掛けてきたのは間違いなくあちらです。いつか来るはずの時が今来た。それだけのことでしょう」


(お、おお……)


 お互いに凄い剣幕。静かに燃えている二つの青い炎は、いつ赤く燃え上がり爆発してもおかしくはない。


 半端ない迫力に気圧されて、当然俺は何も言えない。その時は、ナツさんでさえ黙って二人を見守っていた。




「私はたとえどんな手を使ってでも、秘密スキルを全て揃え、全てを改修リペアしてみせる。あの時、貴方にそう誓ったではありませんか」


 ──まさか、忘れてしまわれたのですか?


 いつもの微笑みは残しながらも、そう訴えるように哀しい色を帯びたロキさんの言葉。



「もちろん覚えている。そして俺も……そのつもりだった。だから、偶然見つけた秘密スキル持ちの青年を、どんな手を使ってでもこの騎士団に引き入れる。そう言ったお前には感心したし、賛成したよ」


(──へ?)


「だから、お前の策略通り強引な条件をつけて練習試合エキシビションマッチを行う事を決めただろう。結果それは上手くいき、俺たちはようやく二つ目を手に入れることとなった」


(いや、ちょっと待っ──ん?

 その青年……間違いなく……俺だよな?)


 俺がこの場にいるのを二人は忘れてしまっているのだろうか。本当に思わぬ形での暴露。とりあえず俺は、出会った当初からこの二人の策略に嵌り、まんまとこの騎士団に入団させられてしまっていたらしい。


(確かに今考えれば半ば強引だったか? いや、まあ、俺にとってもだいぶありがたい話をいただけたわけで、正直全然良いんだけど)




 ──で、それがなんだと言うんですか?


 依然として反抗的なロキさんの視線。


「でもな、さすがにこれ以上団員を巻き込むわけにはいかないだろう。ハクには悪いが、正直俺はほっとしている。これであいつを巻き込まずに済む。心からそう思っているよ」


 団長の瞳の揺れが消えた。


「ロキ。俺は決して自分達の目的を果たす為に、この騎士団を作ったわけではない」


────


 何よりも大事な物を取り戻す為に、騎士としてあるべき姿をも捨てる覚悟。


 何よりも大事な者を傷つけぬ為に、騎士として騎士団長として護りたい誇り。



 その二つが、激しく火花を散らしていた。







        ……To be continued……

────────────────────


次回:第74話 TRUTH⇐

✱次回は第二章の最終話になります。

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