第74話 TRUTH⇐

※第二章の最終話です。



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「ロキ。俺は決して自分達の目的を果たす為に、この騎士団を作ったわけではない」



 団長の咎めるようなその言葉に、あからさまに表情を曇らせたロキさん。


(ロキさんはいったい何をしようと……)


 当事者であるはずの俺は蚊帳の外。ただ、この段階で正しいのは、なんとなく団長であるように傍観者の俺は感じていたのだ。


 それはロキさんがいつもと違い、あまりに感情的に見えるから。


 恐らくお互いに何としてでも護りたいものがある。それは違いない。だが、ロキさんのそれは……強すぎた。澄んだ蒼色のその瞳はいつになくかげりを帯びている。



 この時の俺は知らなかった。ロキさんをそこまで感情的にさせる何かが、このゲームの裏側に眠っていたなんて。



(こんなゲームの世界で何をそこまで──)



──カランッ


 突如響いたのは、軽快な鈴の音。


「ふぅ。団長。申し訳ありません。私はこれ以上は我慢出来ません」


(え──……?)


 清涼感のある女性の声。


(あ、忘れてた)


 そんな失礼なこと決して口には出来ないが、俺は彼女がこの場にいるのをすっかり忘れていたのだった。


「なんだ。シオン」


(シオンさん……)


 振り返ると、薄紫色の艶のある髪を後ろで一つ結んだ美少女が痺れを切らしたような表情で口を開いていた。


「確かに……騎士として護るべきもの、護りたいものは人それぞれです」


 シオンさんの目がそっと儚げに伏せられて、長いまつ毛が影を落とす。


「あなたがたは以前大切な方を失った。そうお聞きしています。私はそれを目にしてはいませんので、何も言う資格がないのも重々承知しております。ですが、その上で申し上げますと、今の団長は非常に……ダサいですね」


(……っ!? えーっと、シオンさん?)


 ナツさんも含めたこの場の全員が、その言葉に拍子抜けしたような顔。


 それは恐らくファルさんの事を言っているのだろう、と俺は察したが、団長への言葉とは思えないあまりに容赦ない言い方。


「ぶはっ……くくっ」


 ナツさんが吹き出した。お腹のあたりを押さえながら、必死に笑いを堪えている。


(ふっ。ほんとこの人は──)


 俺につられて、俺も少しだけ口角が上がってしまった。




「……」


 言い争っていた団長とロキさんは、未だに唖然としている様子。


 すると、シオンさんはまたブレの無い瞳でしっかりと団長を捉え直して言葉を続けた。


「……護りたい誰かの為に知らない誰かを殺す。それが本来の騎士なのではありませんか?

 団長。その覚悟が無いなら、このゲームから今すぐログアウトすれば良い。なぜこのゲームの世界で人をなくすなんて事が起こりうるのか、正直私には未知の領域すぎて混乱しています。ですが、本当に護りたいものがあるのなら、目の前の壁から目を背けるのではなく、その壁を破る為に向かっていくのが騎士だと。私にそう教えたのは団長ですよ」


 内容は漠然としていて、俺にはいまいち分からない。だが、彼女の言葉には説得力があり、気持ちはハッキリと伝わってきた。


「もう私を騎士団から引き抜いて、ハクをこの騎士団に入団させてしまったのですから。……団長、誰も文句は言いません。私たちに思いのままの命令を出してください」


(……)


 女性とは、本当に強いものである。


 この二人の圧迫感に怖気ずかないどころか、怒りのオーラを全開に纏った団長にまで、堂々と意見できるのだから。



「……っ」


 言葉を失った様子の団長は、真っ直ぐに向けられたシオンの視線を流し、俺たちの顔へひとつひとつゆっくりと視線を移していく。



 しばらくは考え込んでいるようだった。








 そして最後にそっと頷く。



「はあ……分かったよ。ただし、俺は今から、お前らに騎士団長として最低の命令を下す事になるぞ? もしそれでも俺についてくるなら……お前らも最低の騎士になる」


 そんな言葉で動じるような騎士はここにはいない。入りたての俺ですら、もうこの騎士団が好きなのだ。


 傍らでロキさんが嬉しそうに微笑んだ。




「はあ、馬鹿な団員を持つと団長も大変だ」


 呆れたように笑って首を振った団長。


 そして、


 全てを諦めた様子で、徐に口を開いた。



「……俺は今から秘密シークレットスキルを全て集める為に、Goddesses女神達の本拠地へ向かう。他の団員を欺き、お前らの命を懸けて俺についてこい。もし全てを集めてそこに辿り着いたら、お前らにも見せてやるよ。このゲームに隠された、残酷な裏側を──……」


(残酷な……裏側……)


 怯えてもおかしくないこの場面。俺はどうしてかこれまでにない興奮を味わっている。



 惰性で始めたようなこのゲームで、もしかしたら心震えるほどの刺激を味わうことが出来るのだろうか。



 俺の中で、その言葉に純粋に喜び高揚する邪悪な何かが、顔を出した。


 騎士としての誇り? そんなのは、巨大な敵を前にしたら無力なものなのだろう。それに、俺にはたった今、その誇りより大事なものが出来ていた。




 俺の一部であったはずの秘密スキルの正体と、強い騎士団がそれを奪い合う理由。


 この騎士団──DAYBREAK夜明けの記憶に刻まれた残酷な過去。


 そして、ロキさんが口走ったステータスⅠの崩壊からの強制ログアウト……と、現実世界への影響。




 そう、俺が団長に従う理由はただひとつ。




 ──このゲームの真実を知りたい。




 その為に、まずは騎士団員のひとりとして命令通り秘密シークレットスキルを全て集めてみよう。





 そんな新たな使命を胸に。

 まだ見ぬ真実に辿り着く為に。





 俺は今から、最低の騎士になる──……









        ……To be continued……

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次回:第75話 DATAⅡ⇐

※次回は章末資料となります。



【御礼】

今回を持ちまして第二章が無事終了致しました。いつも応援してくださる皆様のお陰で、本当にこれまで楽しく書き続けられております。そして、これからも多分にそのお力をお借りすることになるとは思いますが、誠心誠意尽くさせていただく所存でございます。今後ともどうかよろしくお願い致します。


改めまして皆様に長い第二章を最後まで御付き合いいただけましたこと、心より感謝申し上げます。


それでは、第三章もお楽しみに♪

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