第71話 REBOOT⇐
──……中です。しばらくお待ちください。
(ん。あったかい──)
──ピピッ
『再起動が完了致しました』
またさっきと同じ機械音を耳にして、それを合図に俺の視界は徐々に白んでいく。
目を開けるとそこに広がっていたのは、夕焼け色に染った見覚えのある自然豊かな街の景色。……を少しいつもより高い目線から見たような光景。
その時、俺はようやく自分の体が、誰かの歩くリズムで揺らされている事に気づいた。
夕日に向かって歩く親子の帰り道。まさにそんな感じ。
俺は今、誰かの背中に乗っている。
その人は機械音に気づかなかったのか、俺が目覚めたとはまだ気づいていないようだった。
連れ去られた? 初めはそう思った。
しかし、
「……あ」
「──!」
俺の口から出た、掠れるようなその小さな声に、刻まれていた歩くリズムが突如乱されてピタッと停止する。
「おお……ハク。目覚めていたのか?」
耳に届いたのは俺の知っている声だった。
とても温かみのある落ち着いた声。
それは間違いなく、カリアス団長のものである。
団長は我に返ったように、ほんの一瞬だけ俺に笑顔が見せたが、すぐに元通り。
何かを考え込んでいるのか、背中から見る団長の横顔は、とても険しい表情が浮かべられている。
(珍しい。と、とりあえず俺は……あの女性に連れ去られたわけじゃないのか)
あれ、階級総入れ替えバトルは? そんな疑問は俺の中に全く湧いて来なかった。
その時、俺が真っ先に感じていたものは安心。あの正体不明の女性達に連れ去られずに済んだという安堵であった。
だが、もちろんそれだけではない。
(これで……何度目だ……)
自分に対する不甲斐なさ。団長に対する申し訳なさ。騎士団に入ってから何度も味わってきたその感情を、ちゃんと説明し出したらキリがない。
ただ、最後に自分の心に残るそれが、明るい感情でないことだけは確かだった。
「……」
しばらくの沈黙の後。
俺は、困惑するあまり団長に乗っかったまま、質問を無視してしまっていた事に気がついて、
「……はい。あ、すみませんっ!」
と慌てて返事をしながら、団長の背中から飛び降りた。
──タンッ
それでも続く、団長のうかない顔。
俺は正直、再起動の少し前ぐらいから自分の身に、団長の身に一体何が起こったのか、よく分かっていない。
ただ何となく分かるのは、俺の力が足りなかった所為で団長にこんな表情をさせてしまっている、という事だ。
「団長、俺の実力不足のせいで多大なるご迷惑をおかけ致しました。申し訳ありません」
その場で深く頭を下げる。
「い……いやっ、むしろ──」
意気消沈といった様子の団長は、その言葉の続きを口にはしなかった。
◆
二人がランの本拠地に戻るとすぐに、団長から連絡を受けた幹部達が駆け寄ってきた。
そして、そこから緊急会議。
団長が階級総入れ替えバトル終焉の言葉を告げないので、幹部でない他の団員たちも何か不測の事態があったのだろうとは勘づいているようだ。
グレイやルーフなどの管理職は、何度も何度も執拗に会議への参加を申し出ていた。
それでもやはり、幹部だけの小会議。
だが、当事者である俺ももちろん参加させられていた。
カリアスが事の経緯を、丁寧に順を追って説明していく。
そこで話されたのは、俺にとってはもちろん、騎士団にとっても衝撃の事実であり、不名誉な事実。
ロキさんもナツさんもシオンさんも、驚きのあまり何も言葉を発しなかった。特にロキさんは、それを聞いてから、体をカチコチに固められたように微動だにしていない。
NO.4を名乗る女性に何かを奪われたというのを聞いた俺は、慌てて自分のステータスを開いた。
このゲームにおいて、武器以外に奪うものなんて、
ポンポンッ
ステータスには何の変化も見られない。
それは普通なら安心するべきところなのだろう。だが、それを見た全員が愕然とした。
なぜなら、カリアス団長の話した仮定とその俺のステータス表示が結びついてしまったから。
俺はもちろん幹部全員が、俺が彼女に何を盗られたのか、それをもう理解していた。
「カリアス団長。
俺はやはり……
戸惑いに揺れていたカリアス団長の瞳が、その時だけはまっすぐに俺を捉えた。
「ああ。間違いないな」
……To be continued……
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次回:第72話 ENEMY⇐
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