第69話 AWAY⇐


「NO.13、人格切替パーソナリティスイッチ

 ここに……いたんですね」


 女性は、それを探し求めて来たかのように、俺の秘密シークレットスキルの名前を口にした。


 耳に届いた知らない声に、俺は寒気すら覚えて咄嗟に振り返る。


 

「──えっ!!!」


 驚いた。


 そこには、以前ハリアットで俺の剣を奪おうとした女の人が立っていたのだ。


 騎士を辞めたロイドさんを馬鹿にして、弱者と嘲笑ったその女。俺が──いや、が一度倒したあの時の……


 上から下まで視線を動かして、再度その人の容姿を確認する。


 改めて見ると、現実世界で言うところののような格好をしている。あの時は上から何か羽織っていたのか、そんな服装に違和感を覚えた記憶は全くなかったのだが。


(ん。確かにあの時と同じで気配を全く感じなかった。で、でも! さっき聞いた声は、あの時の声とは全然違った気がする)


「どうし……」

「なぜだ、なぜお前らがここにいるんだっ!」


 俺は言いかけた言葉を切られる。声を荒げたのは、カリアス団長だった。


 気がつくと団長は俺の隣まで歩いて来て、その女の顔を鋭く睨みつけていた。しかしその横顔は、これまで俺が目にしたことないほどの動揺と困惑に溢れている。


(……──ん? 今、お前って言った?)


 視線を、団長の横顔から女の人へ戻す。


 やはりどう見ても一人である。



 しかし、その意味はすぐに分かった。


──……タンッ



「さすが夜明けDAYBREAKの団長さん、と言ったところかしら。私の存在に一発で気づくとは……あの時とは随分見違えましたわね?」


(……っ!!!)


 さっきと同じ声に驚いて瞬きをひとつ。その間に別の女性がもう一人現れていたのだ。


 いかにも西洋人と言った彫りの深い顔立ちで金髪がかったショートヘアの、俺が見たことのない女性。


「ちっ……そんなことはどうでもいい。なぜお前達がここに来たのか……答えてみろ」

「はあ、そんな怖い顔して。ええ、もちろんお答えしますわ。でも、その前に────」


 いったいどこに隠れていたのか。それほどに騎士として見事な立ち姿。ピカピカの銀色の防具が存在感をさらに際立たせている。


 百年戦争……オルレアン……シャルル七世……魔女狩り……。彼女を見た途端、俺の頭には、そんな言葉が次々に浮かんできた。


 背中に覗かせる巨大な槍も、先が十字になっており、太陽光をギラギラと反射させて俺の目を眩ませる。


 いつ、その空気オーラに呑まれてもおかしくなかった。


 彼女が現れた瞬間から、言葉が何ひとつ出てこない。体も警戒するように自然と強ばって、俺はただその女性を見つめることしか出来なかった。


 俺があたふたしているうちに、団長との言い争いがひと段落したようだ。



 そして、彼女の視線は──俺を捉えた。



「初めましてよね? ……NO.13。NO.19から話を聞いた時は驚いたわ。まだ騎士団未所属だった貴方が、の人間だったなんて──……」


 俺の話す隙はなかった。


「……でも、わざわざブザーを鳴らして居場所を教えてくれるなんて、優しいのね」


 いったい何の話をしているのか。


 とにかく、名前のように番号で人をさして話を進めていくその女性の傲慢な態度と話し方が、俺にはとても不快である。


「ああ、忘れてた」


 スっと手が伸ばされて、俺の視線は隣の女の人へと促される。


(……)


 くノ一のようなその女性は、以前対峙したあの時とは比べ物にならないくらい大人しい。何かに脅えているようにすら見えた。



「この子はNO.19よ。貴方の背後に回った時も、まるで気配を感じなかったでしょう」


(……え?)

 

「ふふっ、まだ理解していなかったの?

 私達も貴方がたと同じなのよ」


 少し間が空いて、凛と佇む女騎士の口元だけに笑みが浮かんだ。


秘密シークレットスキル……NO.19、渾然一体ノーサイン。まあ、常人なら気づくはずがないわね」


 俺に向けられているその女性の視線が、いっそう酷く冷たいものへと変わる。



 俺の背筋は、完全に凍りついていた。




「そして、私はNO.4。

 ここからあなたを……連れ去りに来たの」


──ピピッ


 気づいた時には、もう遅かった。








        ……To be continued……

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次回:第70話 NUMBER⇐

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