第67話 TOP⇐
── 階級総入れ替えバトル
俺は、グレイ隊長とルーフ、そしてヤミィという女性と一緒に山岳エリアの頂上へ向かっていた。
「ヤミィ」
「ん……いない。大丈夫」
グレイ隊長が、他の団員が周りにいないかをヤミィさんに逐一確認させながら、俺たちはその険しい岩山を地道に登っていく。
(……)
未だに二人の関係が分からない。
俺とルーフは息の合ったそのやり取りに戸惑いを隠せず、時折顔を見合わせては互いに苦笑いを浮かべる。なんとなくだけど、それを尋ねてはいけない気がした。
ただ、グレイ隊長がその女性に心を許していることだけは分かる。いつもより確実に口数が多く、表情もほんの少しではあるが柔らかいからだ。
──ザッ
「……休憩」
麓からひたすら黙々と登ってきた俺たちは、グレイ隊長の一声で頂上まであと少しという所で休憩をとることにした。
と言っても恐らく、お互いの相性を知り、団長への対策を練る作戦会議のようなもの。
皆がそれを分かっていた。
初め、四つの切り株に一人一つ腰をかけた四人。しばらくすると、ルーフが剣術についての質問をしたのか、グレイ隊長を連れてどこかへ行ってしまった。
「……」
俺とヤミィさんという女性がその場に取り残され、黙って自身の装備品を磨くだけの気まずい空気が流れる。
「ふふっ。そろそろ自己紹介しなくちゃね」
俺の隣の切り株に座り、長い槍を大事そうに手拭いで磨いていたその女性の方が、先にその緊張を破ってくれた。
「知ってると思うけど、私の名前はヤミィ。
一応、前シーズンはこの騎士団の大佐を務めてたよ。それと……第一部隊の副隊長も」
長く艶やかなストレートの黒髪が揺らされて、赤褐色の瞳がチラッと俺を覗き込む。
落ち着いたトーンで優しく話すその女性は、近くで見ると半端なく整った容姿だった。
高い鼻にスーッと綺麗な筋が通り、くっきりとした目元には長い睫毛がそっと影を落とす。そんな彼女の横顔に、俺はしばらく目を奪われていた。
「あとは槍を使う……ってぐらいかなっ?」
(──っ!)
心臓が止まるかと思った。
突然向けられた彼女の表情は、綺麗と可愛いを兼ね備えた……最強の笑顔。どこか色っぽくて、どこか無邪気。めったに女性に興味を示さない俺が、その時ばかりは動悸を抑えるのに必死だったのだから。
「え、どうしたの?」
固まっていた俺を見て、ヤミィさんが不思議そうに笑った。
(はっ! んーと、何だっけ? ああっ!)
「第一部隊の……副隊長!? ですかっ!」
やっとさっきの話の内容が蘇ってきた。
「ふふっ、そうだよっ! まさか、そんなに驚かれるとは思わなかったけど」
少しだけ間が空いた。
(えっと、あっと……俺も名乗らなきゃ)
「俺はハクです。入ったばかりの新兵で……」
「知ってるよー。第一部隊の隊員でしょ?」
彼女は嬉しそうに俺の言葉を遮る。
「はい。そうで──」
ビューっと冷たい風が吹いた。
すると、長い黒髪をその風に靡かせる彼女は、低い切り株の上で三角座りをし、両手のひらを口元にあてて少しだけ縮こまる。
そんな些細な仕草ですら俺は照れて直視できずに、思わず彼女から視線を逸らした。
あまりにらしくない行動をする自分に、内心とても驚いている。
──ザッ
「……ダメだ」
急に後ろから声がした。
我に返り、バッと振り返るとそこに立っていたのはグレイ隊長。
すると、一瞬俺に鋭い眼光を飛ばした彼は、隣に座るヤミィさんに、背中からバサッと自分の上着を被せた。
しばしの沈黙。
グレイ隊長が、見たことのない優しい視線を俺に向けて、
「……俺の」
そう言うと淡く微笑んだ。
そして、その言葉に顔を真っ赤にしているヤミィさんを見て、俺は全てを悟る。
(ああ、そういう感じか)
湧き上がってきたのは、少しの落胆と心からの安堵。
(あ、危な……あと一歩で完全な修羅場を迎えるところだったあ)
「内緒」
グレイ隊長は、全く表情を変えずにそっと人差し指を口にあてると、俺にそれだけを言って元の切り株に座り直す。
「グレイさん。持ってきました!」
ちょうどその時、ルーフの明るい声がする。それで、この話は終わり。
その後、何事もなかったかのように四人で綿密な作戦会議を行い、そのシミュレーションをして、再び支度を整えた俺たちは頂上へ向かって歩き始めた。
──ザッ
四人全員がピタッと立ち止まる。
(……っ!)
まだ姿は見えていないのに、すぐそこにいる事が分かった。想像以上に圧倒的なオーラを放つその人物。
黒い革靴の先が見えた。
(さすが……カリアス団長。いや……元帥。
正直、この四人でも勝てるかは分からない。ただ、出来る限りのことはしよう)
そんな覚悟をもって、頂上へ一歩足を踏み入れた、
瞬間。
──ビー! ──ビー! ──ビー!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
WARNING ─ WARNING ─ WARNING
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
突如、激しく鳴り始めた警報音と俺の周りだけを取り囲むように現れた赤い表示。
見覚えのあるその表示に、俺はその時、嫌な予感しかしなかった。
……To be continued……
────────────────────
次回:第68話 DANGER⇐
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます