第65話 TEAM⇐


「へえ。……勝ちたい、ですか」


 俺の強気な言葉にロキさんはそう答えて、なぜか嬉しそうに笑っている。



──シュンッ


「……っ!」


 しかし、次の瞬間には既に視界からロキさんは消えており、俺の頭上を黒い人影が覆っていた。


 俺はそれにつられて視線を上へ向ける。


(速い……速すぎる)


 相手はスキルを使いこなし瞬時に飛び上がる。そして、素早く優勢な場所へ移動する。


 相手の握る鋭い二本の短刀の切先は、俺の首元に差し向けられ、重力に任せて激しく何度も振りかざされた。


 初めのうち、俺は出来る限り剣の腹で攻撃を受けながら体勢を仰け反らせていた。


 しかし、そんな単調な攻撃のみで終わるような相手では無いことを、俺はもうさすがに分かっている。


 俺をどこかへ追い詰めることがロキさんの本当の狙いなのだろうか。


 圧倒的に劣勢のこの一対一をどう打開するか、そんなのは全く思いつかなかった。


 だが、せめて再び身動きが取れなくならないよう、俺は思い切って前に出る。


 つまり、向かってくるロキさんと交差する形で剣を構えて、その短剣に真正面から立ち向かおうとしたのだ。


──サッ


 相手はさすがの身のこなし。握られた二本の短刀と交わる事すら無く、俺の剣先はするりと躱された。


 その時。


 俺は相手に背を向けてしまう。


 短刀が背後で太陽光を反射して光を放ったのが分かった。


 俺は咄嗟に振り返る。……が、もう遅い。


「がはっ!」


 短刀の先が振り返った俺の脇腹を捉え、刺すような痛みが襲う。


 そして、間合いを詰められた俺の首元に、相手の握るもう一本の短刀の刃が向かってくるのが視界に入った。


──ハクの負け。


 その場にいる誰もがそう思った。


 しかし、


(絶体絶命……? いや? これからだ!)


 俺だけは全く諦めていなかった。



「……え」


 ロキさんが微かに声を漏らす。


 それはそうだろう。とどめを刺そうとしている相手がなぜか笑っているんだから。


 俺は口角が下がらなかった。


「……!」


 そして、勢いよく向かってくるその短刀の刃を素手で掴む。


 それでも勢いは完全には殺せない。なので仕方なく軌道だけを少しずらし、自分の左肩の鎖骨あたりにその刃をぶっ刺した。


(……)


 さっきよりも間合いが詰まっている。


 至近距離で重なった相手の視線は、何かを察したようにひどく揺れていた。


 そして、


「今だっ! ルーフ!」


 俺は二本の短刀を身体に閉じ込めたまま、両手でロキさんの身体をがっちりと捕え、味方の名前を大声で叫んだ。


 そうでもしなければ、この目の前にいる大将に勝てる気がしなかったのだ。


──ヒュッ


 風を切る音が聞こえた。


 しかし、それに反応することなく、俺はそのまま目を瞑る。


「ふっ。なるほど」


 ロキさんの乾いた笑い。


 そして、次の瞬間。



──グサッ


 瞬時に通り過ぎた風が俺の前髪を揺らしたのとほぼ同時。静けさすら纏ったその生々しい音に、俺は恐る恐る目を開ける。


 すると、ずしりと重みを感じた俺の腕の中では、色白の男性の胴体が一本の矢で完璧に貫かれていた。


(……)


 俺は自分でやった事なのに状況が理解出来ず、しばらくその場で呆然と佇んでいた。


「ルーフ! それと、ハクも!」


 俺はハッとして、名前を呼ばれたナツさんの方へ振り返る。


 ばっちり視線が合わさった。それだけ。


 ……なのに、その時の俺は覚醒していたのか、ナツさんの考えが明確に伝わってきた。


 そして、


──ヒュッ


 再び耳を掠めた風の音。


 俺はそれを合図にロキさんから両手を離して自らの剣を握り直すと、地面と水平に思いっきり振りかざす。


 なぜそうしたのかは分からない。


 なんとなくそうだと思ったのだ。


 そして、気づけば飛んできた矢の後ろを剣の腹で完璧にとらえていた。


──キィン


 甲高く鳴り響いたのは、金属音。


 俺達の奥でシオンさんを相手にしていたナツさんはその場でしゃがみこんだ。




──ズドォォン!!


「……っ」


 激しい音と共にナツさんの前では、巨大な砂煙が上がる。そのせいで、戦っていた二人の姿はすっかり見えなくなった。


 風に吹かれ、次第にそれが晴れていく。


「……!」


 そこには、倒れる薄紫色の髪をした女性とその隣に堂々と立つナツさんの姿。


「……」


 そんなナツさんと視線が重なった。


「……よっしゃあ! 俺達の勝ちだああ!」


 大袈裟に喜ぶナツさんの声を聞き、俺はようやく自分達が勝利した事に気づく。



 そして何よりも、この時俺はある事に快感を覚えていた。



「ふぅ……ハクが……まさかでしたね。

 やられましたよ」


 痛みに顔を歪めて服に付いた砂を手で払い除けながら立ち上がり、俺にそう言ったのはロキさん。


(ふふっ。これが──)


 俺は満面の笑みを浮かべた。


「仲間と協力するってことなのか……?」








        ……To be continued……

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次回:第66話 BOSS⇐

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