第64話 ESCAPE⇐


 ──階級総入れ替えバトルが始まる直前の十日間。俺が暮らすことを命じられたその場所はやはりとんでもない家だった。



◇ワビサビ◇


 俺が何も見えない暗闇に包まれて、次どこから飛んでくるかも分からない攻撃を感覚系スキルでひたすら避け続けること五日。


──ギィン


「か」

[発動スキル:感覚系☆☆☆☆☆──予感サイン


──シュッ


「か」

[発動スキル:感覚系☆☆☆☆☆──予感サイン


──ドンッ


(くっ……この攻撃、いつまで続くんだ。俺のスキルの連続発動も……もう限界だぞ)


 本当はこのゲームにスキルの連続使用の限界などは存在しない。戦闘中、発動し続けようと思えばいくらでもそれが可能なシステムに一応はなっている。


 だが、それをするプレイヤーは恐らく誰もいない。……というより、出来ない。


 なぜなら、スキル発動の持続には並大抵でない集中力と忍耐力が必要となってくるからであった。


 その為、限界値が人によって異なり、バトルの勝敗にも大きく関わってくる、騎士ユーザーにとって重要な要素となっている。


 そしてこの家は、ハクのそれを出来る限り鍛える訓練を設定し、技術ではなく忍耐力・持久力等を含めた精神力を鍛える為にロキが用意したものであった。



 まあ、感覚系スキルを鍛える家だと思っている俺は、五日目に入ってもまだそれに気づいてはいなかったのだが、、、



(……これを十日。あと半分もあるなんて)


 汗だくになりながら、肩で息をする俺。


 一日目の傷はゲームのシステム上すぐに回復し、単調なパターンの攻撃を喰らうことは無くなっていたものの、終わりが見えず睡眠もままならない俺はだいぶ神経をすり減らしていた。


「……っ!」


(避けるだけじゃ何も状況は変わらない。

 ……何かないか?)


 俺は、自分に向かってくる白い光を軽く躱しながら必死に考える。


 躱すのはもう余裕。せめて正体が何か分かれば攻撃出来るのに……。


「…………あ」


(攻撃か! 攻撃してみればいいのか!)


 なぜ今更そんな事に気づいたのか、俺は自分でも不思議だった。好戦的、それが俺の長所であり短所であったはずなのに。


(対象なんて、攻撃が飛んでくる方にあると考えるのが普通だろう)


「ふぅ」


 俺は一度深呼吸をして心を入れ替え、感覚系スキルで捉えたその攻撃を一度じっくり観察してみる事にした。


──シュッ……


 俺は暗闇の中、スキルを発動させながら、向かって来るその白い光に自身の目線を合わせてしゃがむ。


 普通ならそんな怖い事はしない。躱すタイミングを少しでも間違えれば、眼球を刺されてしまうのだから。


 忍者ぐらい体術が優れていないと、そんな早い攻撃を擦れ擦れで躱すなんて出来ない。


 しかし俺はその時、至って冷静だった。



 白い光はだんだんと俺の瞳に近づき、


──グサッ


「った!」


 そして…………刺さった。


 うん? そう。刺さった。


 俺はどうやら普通でもなければ、忍者でもなかったようだ。



(ふふっ、間違えた……でも漸く見えたぞ)


 俺は咄嗟に手のひらで目を覆ったが、口元には笑みを浮かべていた。

 

 俺に見えたのは、この訓練の終わり。


 いや、少し違う。


 その時俺に見えたのは、この訓練を終わらせる方法であった。





──階級総入れ替えバトル。


 本気になったロキさんに手も足も出ずに動揺していた俺は、ナツさんの言葉で思い出した。


(躱す……)


 ただ躱すといっても、逃避する事と回避する事ではわけが違う。


 この状況を打開するには躱し続ける忍耐力はもちろん、常に相手への反撃の突破口を見つけ出そうとするのを忘れちゃダメだ。


 ただ逃げるだけじゃない。攻撃を回避しながら自分からも相手に向かっていかないと。そう、せめて気持ちだけでも……!


 剣の柄をぐっと握り締めた。


 俺は今から、ロキさんの本気を本気で相手にするのか。……果たして勝てるだろうか。


「ふぅ」


 もし勝つ事が出来たら、名実ともに大将。


 考えただけで胸が高鳴った。


 二本の短刀を両手で振り回し、俺に絶えず攻撃し続ける身軽なロキさんを再度捉え直す。


 すると、


「ふっ、勝ちたいな」


 俺の口から自然と言葉が零れ落ちた。








        ……To be continued……

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次回:第65話 TEAM⇐

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