第62話 WARRIOR⇐
ハクがロキに悪戦苦闘していた頃。
もう一方で繰り広げられていた、ジークとナツの兄弟対決。
岩以外には何も見当たらず、足場もゴツゴツとして安定感の無い山の斜面に、その二人は立っていた。
「兄さん。良かったの?
ハクをロキさんの所に置いてきて……」
立ち止まった金髪の彼が振り返り、ナツにそう尋ねる。
「ははっ、……人の心配とは余裕だなあ?
もちろん、あいつなら何とか持ち堪えてくれると信じてるよ。俺がお前から大将の階級を力ずくで奪い取るまでの時間稼ぎだがな」
そう言ったナツは、ニヤリといつも通りの爽やかな笑みを口元に浮かべながらも、目だけは威嚇するように鋭くジークを捉えている。
「……!」
しかしジークは、少しだけ目を見開いただけで、何かに感心したように口角を上げた。
「ふぅ、やっぱりロキさんと階級入れ替えたの気づかれてたかあ。さすがだね、兄さん。
……伊達に大将の座に座ってはいない」
しかし、そう言い終わったときには、もうジークの瞳から温かさは消えていた。
「でもさ……もしそれで、階級を奪う為に俺を一人で追いかけて来たんだとしたら、ロキさんを舐めすぎじゃない?」
場の空気が一気に凍りつく。
「……」
ナツは嫌な予感がした。
「ロキさんは、兄さんと違って勝算もなく階級を入れ替えたりはしないよ。ここまで全てロキさんの計画通り。……兄さんの負けさ」
「……」
突如、ジークの視線がナツの後ろへと移されて、彼はそれと同時に臨戦態勢に入る。
「え──」
それに気づき驚いたナツが、小さく声を上げた……その瞬間。
──ズドオオオンッ!
「なっ……!」
鼓膜を突き破りそうなほどの爆音と、身体が地面から離れそうなほどの爆風。
それらが同時にナツを襲った。
舞った砂塵が晴れていく。
気づけばナツの近くにあった大きな岩が真っ二つに割れている。
「……っ!」
かろうじてナツはその突然の攻撃に反応したようだが、彼が身に纏う軍服の太腿辺りに何かが擦れて、微かな熱と煙を上げていた。
「今の攻撃を、避けるのか」
いつの間にか元の位置に戻っていたジークは、小声で何かを呟きながら黒いキャップのつばを右手で少しだけ浮かせ、反対の手で風になびく金の短髪をゆっくりとかきあげて帽子の中に再度収める。
そして、冷たくナツを見据えた。
「ふぅ、なるほど。……シオン、か」
一方のナツはジークの視線に気づいていない様子で、その攻撃が飛んできた方を鋭く睨みつけ、今度は余裕をなくしたように薄らと苦笑を浮かべている。
「3対3……というわけだな」
彼はしばらく考え込むように黙っていた。
しかし、
「ははっ、上等だ!」
何故かこんな状況を笑い飛ばすナツ。彼は純粋にこの戦いを楽しんでいるようだった。
「礼を言う、ジーク。……そうだな。
戦略で俺がロキに勝てるはずがない」
何かが吹っ切れたようにそう言って嬉しそうに笑うナツを目にしたジークは、どうしてか頬を赤く染めて俯く。
「……」
──ズドオオオンッ
今度は遠くでその音が鳴った。
「ハクの方にも! まずいな……急ぐか」
ナツがそう呟いた直後。
「ちょき!」(※ジークの飛行系スキル発動)
ジークが鋭く声を上げる。それと同時に彼は一気に空へと上昇した。
そして、ナツを見下ろす。
「時間稼ぎ……俺もそれをロキさんに命じられたから。いくら兄さんでもそう簡単にハクの方へは行かせられないよ」
空中戦。
それはジークの最も得意とする戦いであり、ナツの最も苦手とする戦い。
お互いそれを分かっていた。
シオンに狙われながらジークとの空中戦。
あまりに不利なこの状況に、ジークの階級を諦めて一度ハクと合流する事もナツの頭には過ぎっていた。
しかし
「ははっ、諦める? ……ここで?」
やはりナツは笑い飛ばす。
追い込まれれば追い込まれるほど、彼は戦いたくて挑みたくて仕方なくなる性なのだ。
それは騎士というよりは戦士である。
だが、迷いを全て振り切って正々堂々と戦いを楽しもうとするその真っ直ぐな姿勢は、ルーフが憧れ、ロキが信頼し、そして何より、ジークが恐れるものであった。
──
興奮の色を絶やすことのないナツの瞳は、空中にいるはずのジークの体を捉えて離さず、そのまま彼へと真っ直ぐ向かっていく。
そして、
──バキッ
「……ほらね、一生勝てる気がしないんだ」
最後にジークはそう呟いた。
……To be continued……
────────────────────
次回:第63話 COUNTER⇐
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます