第61話 ADVANCE⇐


──ヒュッ


 ロキさんに向けられたルーフの白い矢が大気を疾走する。


──ズドオオオンッ!


 しかし、それをシオンさんは逃さない。豪快な音とは裏腹に、その矢一本一本を寸分違わず正確に落としていく。



 その光景は、時間が戻っているのかと思わせるほど、何度も何度も俺の目の前で繰り返されていた。



「……」


 それに引き換え、俺とロキさんの方は静かである。


(と……とりあえずナツさんのところへ──いや! でも、まず俺の体の自由を奪っているロキさんのスキルを何とかしないと、か)


 そう考えながら、少し首を傾げる。


 俺は不思議で仕方がなかった。


 この【The Age of Chivalry騎士道時代】というゲームの中で使えるのは、移動系、飛行系、感覚系の三系統の自己強化スキルだけなはず。


 それなのにロキさんは、スキルを俺に直接発動させているように思われる。


 少なくとも、何かを俺に使用している事は間違いなかった。


 リードをつけられた飼い犬のように、自由に動かせない自分の体が、何よりもそれを証明していた。



(一体何のスキルを……いや、それは考えても仕方がない。ロキさんに勝った後で聞こう。

 まずはこれをどうするかの方が先だ!)



「ふぅ」


 俺は深く息をついた。

 

 そしてゆっくりと顔を上げて、対峙する男性の蒼色の瞳に視線を重ねる。


(一個一個確実に潰していこう)


 俺は目を細めて、淡く微笑んだ。


 そして剣の柄を両手でしっかりと握り直すと、体の真正面に構え、ロキさんの方へと刃先を向ける。


 どう動いても、どうせまたロキさんに体を操られて終わり。頭ではそう分かっていた。


「せつ」


 しかし、俺の口はさっきと同じ合言葉を発する。今度はナツさんの方ではなく、ロキさんの方へ向けて。


[発動スキル:移動系☆☆☆☆☆──射出ジェット


(……あれ?)


 体が急に軽くなったように感じた。


 俺は逆に制御が効かず、そのまま真っ直ぐにロキへと突っ込んでいく。……勝機など、一切見い出せてはいなかったのに。


 何か少しだけでいい。突破口を……!

 それくらいの気持ちであった。


 向かっている最中、俺と視線を重ねるロキさんの瞳が大きく揺れたのが分かった。


「ゆう」(※ロキの移動系スキル発動合言葉)


 その攻撃は瞬時にかわされて、俺は勢い余ってロキさんを通り過ぎる。それはかすりもしなかった。


 しかし、


──ザッ


 ロキさんの靴裏と砂が擦れた音がした。


(やっと動かせたっ!)


 突破口。そう言うには余りに小さな事である。ただ、俺の攻撃をスキルで避けなればならないほど、その時のロキさんは確かな焦りを見せていた。


(どうしてだ? さっきまであんな余裕そうに、ナツさんの方へ向かおうとする俺を見えない糸で操っていたのに…………)


 俺はロキさんを再度捉え直す。


(ああ、そうか! 俺とロキさんを繋ぐ糸みたいなものがあるのだとしたら、俺がロキさんの方へ向かう事は出来るのか……?)


 俺は漸く、一つだけナツさんと合流する方法を思いついた。


「せつ」


[発動スキル:移動系☆☆☆☆☆──射出ジェット


 再び同じスキルでロキさんの方へ勢いよく向かっていく。……ふりをした。


(やっぱり!)


 体がふっと軽くなる。──そこで急停止。


「せつ」


 もう一度同じ合言葉。


[発動スキル:移動系☆☆☆☆☆──射出ジェット


 今度は、ナツさんのいる方へ向けて。



(恐らくこれなら、ロキさんが何らかのスキルを解除した直後。だから、もう一度スキルを発動するまでに俺がナツさんの元へ──)


「行かせませんよ。貴方がどう足掻いても」


──パシッ


 俺の体はロキさんの手に、今度は直接掴まれた。そのまま腕を後ろにひねり上げられ、俺は体の自由を再び奪われる。


──カランッ


 俺の剣が目の前の岩に落ち、音を立てた。


(……!)


 動きを止めて振り返る俺は、今度こそ負けを覚悟した。ロキさんの振りかざした短刀が俺の首に照準を合わせている。


「……っ」


 思わずギュッと目を瞑った。



 すると、突然!



──ドォォン!


 さっきまでとは桁違いの爆音。


 本物の爆弾でも飛んできたのかと思った。


「……え」


 ロキさんの動きが止まる。


 岩が砕かれ、砂煙が舞っていた。


「……」


 そして、その煙にぼんやりと映っているのは、ガタイのいい人影。


 それが徐々に晴れていくと共に、ロキさんの表情が曇っていくのが目に入る。


 俺の口元に笑みが浮かんだ。




「ふぅ……無事だったんですね」



 現れた男は肩に金髪の青年を担いでいる。

 そして、ニカッと俺に笑顔を見せた。




「よくやった、ハク。

 さあ…………反撃といこうか」








        ……To be continued……

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次回:第62話 WARRIOR⇐

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