第60話 GENERAL⇐
さ……3対3?
ロキさんの言葉の意味を理解するのに、俺は数秒要した。
ニヤリと悪戯に上げられた口角。
「あっ、え──」
漸く状況を把握した俺が、そんな間抜けな声を漏らしたのとほぼ同時。
──ズドオオオンッ
一つの爆音が遠くで鳴り響いた。
それは鼓膜が破れたかと思うほどの凄まじい音。そして、微かな振動が遠く離れた俺の足にまで伝わってきて、ぶわっと吹いた優しい風が俺の髪を少しだけ揺らす。
嫌な予感がした。
俺は驚いて肩を竦め、ロキさんと対峙していた事も忘れて、その音の方へ反射的に顔を向ける。
「……っ! ナツさんっ!?」
俺は声を張り上げた。
音に促され視線を遣ったその先は、先程ジークのあとを追ったナツさんが向かっていった場所だった。
(まさか……いや)
あれほどの爆音にも関わらず、そこに煙も上がっていなければ、何かがダメージを受けたような形跡もない。あるのは、これまで見た景色と全く同じ、人が隠れるのにピッタリな大きめの岩がごろごろと転がっているだけ。
「せつ!」
俺は頭で考えるより先に合言葉を発する。
[発動スキル:移動系☆☆☆──
しかし、
目の前にいる大将が、そんな事を許すはずがなかった。
「ゆう」(※ロキの移動系スキル発動)
[発動スキル:移動系★★★★★──
それは、俺がスキルを発動するまでのコンマ数秒の間の出来事。
ロキさんは合言葉を唱えるとすぐ、俺の体目掛けて何か見えない糸でも放るように軽く腕を振った。
そして、俺の体と自身の細い手を繋ぐその糸を掴むように、差し出した右手で強く空間を握り締め、グッと手前に引くような仕草を見せる。
「うわっ!」
俺は再び間抜けな声を上げた。
それは、ロキさんのその仕草に操られ、心が向かおうとしたのとは反対方向に突然俺の体が引っ張られたからであった。
ぐらっと体勢を崩した俺を冷たく見据えるその人に、あやつり人形のように振り回されながらも、俺は視線を鋭く返すだけで何も反撃する事が出来ない。
(くっ、何だ。このスキル)
ロキさんは直立不動のまま右手を握り締め、俺の動きに逆らうように適宜その見えない糸を手前に軽く引っ張っていく。
俺は何よりも、ナツさんの状態を確かめたいだけだった。あの爆音以降、あっちの様子が一切分からない。
(どうすれば──)
──ヒュッ
その時、俺の要請に答えるように、風を切る微かな音が耳を掠めた。
(ルーフ!)
昨日まで俺に向けられていたその白い矢は、味方になると受ける印象が変わる。それは救世主のように思われた。
恐らく、先程の爆音と俺の様子がおかしい事にルーフは気づいて、一か八かでロキさんの首目掛けて矢を放ったのだろう。
(さすが少将……良い判断だ。今ロキさんは右手を塞がれている。そんな状態で、鋭く正確なルーフの矢を避け続けるのは、いくらロキさんでもそう容易くは無いはず)
そう考えながらロキさんに視線を戻す。
「……?」
矢はまっすぐロキさんに向かっていた。
しかし、それにも関わらず、俺を操る
(えっ、どうして──)
──ズドオオオンッ
次の瞬間、ルーフの放った白い矢が、俺の視界から一瞬で消えた。
……というより、突然やってきたもう一本の矢が俺の視界の全てを呑み込んだ。
さっきと同じ爆音を伴って。
「ふふっ、どうですか? うちの参謀は。
周りがよく見えているでしょう?」
(参謀…………? し、シオンさんか!)
今冷静に考えてみると、ルーフを引き連れてくる俺達に対抗する為にロキさんが必要とするのは、彼女しかいなかった。
「ナツの計画では、私には勝てませんよ」
満足そうにロキさんが微笑む。
しかし、俺が一番衝撃を受けていたのはそんな事ではなかった。
(ロキさん……今、一歩も動かなかった)
ルーフの矢が向かっていた時、ロキさんはそれを知りながらも、シオンさんがその矢を落とす事を信頼しきって、顔さえそちらへ向ける事なく俺との対戦に集中しきっていた。
その光景が頭から離れない。
(これが、本物のチームワーク)
まだ俺には到底無理だと思わせるほどの圧倒的な連携と長年の信頼関係を見せつけられて、俺は動揺して少し目を伏せる。
「さあ、ハク。ここからどうやって、この状況を打開して下さるんですか?」
その時、ロキさんの澄んだ蒼色の瞳は、
「そんな事、貴方には出来ないでしょう」
そう嘲笑いでもするかのように、体の自由を奪われている俺を、とても冷ややかに捉えていた。
……To be continued……
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次回:第61話 ADVANCE⇐
最終改稿日:2021/01/24
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