第59話 TOGETHER⇐
「次の相手は………………ロキとジーク」
ナツさんの言葉通り、翌朝ラギド山(山岳エリア)の頂上を目指して俺達3人が向かった先には、その二人の男性が立っていた。
ひとりは、真っ黒な軍服を身に纏い、口元にほんのり微笑を浮かべながら、姿勢よく佇む妖艶な男性。
そしてもうひとりは、金の短髪に黒いキャップを深く被り、同じく真っ黒な軍服を着した柔らかい雰囲気の青年。
それはやはり、間違いなく彼等であった。
(……どうしてナツさんには、それが分かったんだろう)
そんな疑問は置いておく。少し
(……)
彼等は、まるで俺達がここに来る事を分かっていた……いや、むしろ俺達を待っていたかのように、逃げも隠れもせず、それはそれは堂々とした様子で腕を組みながら熱い視線をこちらへ送ってくる。
「ふふっ、遅いですよ。ナツ。
私達がここにいる事は昨日のうちに──」
しかし、
「……!」
俺達を少し嘲笑うようにゆっくりと話していたロキさんの表情は、俺達がある一定の距離まで近づいた途端、見事に一変した。
恐らく、ナツさんと俺の後ろに隠れていたルーフの姿が目に入ったのだろう。
「ロキ……お前のそんな間抜けな顔が見れて俺は嬉しいよ」
ナツさんはわざとロキさんを挑発するような言い方をした。
(ははっ、何もそんな空気出さなくても)
茶番のようなその展開に、俺は思わず頬を緩める。
「撃手……面白い事を思いつきましたね」
ロキさんはすぐに表情を元に戻すと、ジークに何かを目で訴えた。
すると、
──シュンッ
突然、その場からジークが消えた。俺はその彼の姿を目で追う事が出来ない。
(えっ……移動系スキル?)
今思えば、それが対戦開始の合図。
そのくらい唐突にこの対戦は幕を開けていたのだ。
俺とナツさん、そしてルーフは瞬時に心と体を戦闘態勢に切り替えた。
(……急だな。でも、大丈夫だろう。昨日考えた作戦なら3対2のこの対戦をほぼ確実に制することが出来るはずだ)
俺は剣の柄を両手でぎゅっと握り締め、まずはそれを威嚇の為に、ロキさんの首へとまっすぐに差し向けた。
昨夜3人で考えた作戦はこう。
手順①:ナツさんが、実力で劣るジークを一騎討ちで確実に仕留めにいく。
(あ、そういえばこれ……兄弟対決!)
手順②:その間、ルーフの矢でロキさん得意の移動系スキルをなるべく制限しつつ、俺が持てる力の全てを出し切り、ロキさんの視野を狭めるくらい本気を出させるよう努める。
(俺の役目はこれだけ。ルーフと協力し、連携し合いながら、ロキさんの動きをできるだけ封じればいい。まあ、いわゆる時間稼ぎ)
手順③:そして、最後はロキさんの死角から、ジークを仕留め終わったナツさんが、その首に何らかのダメージを与えるだけ。
(うん、単純明快。やはり普通なら大丈夫だろう。3対2の対決でこの作戦を用いれば、余程の事が無い限り俺達が負けることは無い)
ざっくり言えばこんな感じ。
そして作戦通り、
ジークの後を、それに引き寄せられるように素早く追いかけていったナツさん。
また、姿の見えないどこかの木の上から、ロキさんに弓を射るタイミングを見計らっているルーフ。
そして、戦闘不能にならない限り、ロキさんにどれほどのダメージを負わされても、意地でも食い下がる覚悟を決めて、その場で大きく剣を構えた俺。
俺達の目には勝利が見えていた。
大将の座を奪い取り、元帥のいる頂上へ。
しかし、
俺達の抱いていたそんな浅はかな考えは、全て彼の手のひらの上で転がされてたに過ぎなかった。
──
「ふふっ、ハク。
貴方にひとつ良い事をお教えしましょう」
(え……良い事?)
「ナツと私は相性が抜群なんです」
(急に何だ?)
ロキさんは、これまで以上に笑みを深め、再び嘲笑うような瞳で俺を捉える。
「つまり、ナツがルーフをここに連れてくる事くらい私には容易に想像がつきます」
(え、じゃあさっきの驚いた表情は──?)
「ふふっ、やはりナツはまんまと騙されてくれましたね。そして彼は、案の定3対2の対戦を制する為にジークの元へ向かいました」
俺の体は固まった。
それを見てロキさんが笑う。
「本当は……3対3のバトルだというのに」
その言葉を聞いた途端、俺の目に見えていた勝利という二文字が、霧散するように消え去っていった。
……To be continued……
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次回:第60話 GENERAL⇐
最終改稿日:2021/01/24
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