第58話 NEXT⇐


──コンコンッ


 階級総入れ替えバトル一日目の夜の事。


 ランの本拠地にある自室で寝る準備をしていた俺の元に誰かが訪ねてきた。


「はいっ!」


 俺は元気よく返事をしながら、慌てて扉へと近づいていく。


──ガチャッ


「夜分遅くに失礼致します」


 訪ねてきたその人は、俺が扉を開けると同時に礼儀正しい振る舞いで、深くその頭を下げた。


 俺はその顔がよく見えなかった。が、どこか見覚えのあるその小柄な体型と特徴的な灰色の帽子に、ある人物の名が頭を過る。


(いや、でも──)


 しかし、頭を過ったその人物に俺が勝手に抱いている子供っぽいイメージと、目の前の少年の大人びた礼儀正しさが上手く繋がらず、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。


 すると、


「あの、ハク……さん」


 紅い瞳がまっすぐに向けられた。


「……!」


 そしてやはり、顔を上げたその人物は間違いなくその彼だった。


「……ルーフ」


 俺は思わず敬称を忘れ、第三部隊隊長の彼の名前を口にしてしまう。


 だが、その役職を無視した俺の無礼な態度に彼は嫌な顔ひとつせず、そのままの丁寧な口調で俺に向かって言葉を続けた。


「少し話したい事があるのですが」


 その立ち姿は、ナツさんを奪われたというだけで俺に敵対心を燃やし、戦いを仕掛けてきた子供っぽい今日のルーフの姿とは、本当に別人のようである。


「ど……どうぞ、中へ」


 俺は戸惑いながらもその圧力に押され、彼を部屋の中へ入れざるを得なかった。



──



 俺の部屋のソファに腰を下ろすルーフ。


「それで、話って──」

「あのっ!」


 話を切り出した俺の声を遮って、座ったばかりの彼は再び勢いよく立ち上がった。


「俺に剣を教えて下さいっ! 

 お願いします! ハクさん」


 さっきより深く俺に頭を下げる。


 少し乱れた灰色のニット帽の後ろから、ちょこんと髪が顔を出すほどに。


(けっ、剣!? ……撃手だろ?)


 予想外の申し出だった。せめて今日の対戦についてや、階級総入れ替えバトルについての何かを言われると思っていた俺は、また次の言葉を奪われて彼の紅い瞳に視線を返す。


 俺は明らかにおかしいこの状況に、疑うような目で彼を見たが、彼の瞳は一切揺れておらず、嘘を言っているようには見えなかった。


 しばしの沈黙が続く。


 ちょうどそんな時だった。


──ガチャッ


 ノックも無しに扉が開けられた音。


「よっ、ハク! 入っていいかー?」


 聞き覚えのある明るさと落ち着きを帯びたその声は、少しだけ開けた扉の隙間に顔をくっつけて発せられたせいか、籠ったように鈍く俺の部屋に響き渡る。


「「ナツさん……っ!」」


 正直、ここに今、一番来てはダメな人な気がした。


「って……おおっ! ルーフじゃないか!」


 入ってきたナツさんは、案の定、俺の隣の少年に驚いたように声を上げる。


 そして、二人の雰囲気を察したのか急に姿勢を正し、俺達の顔を覗き込んだ。


「どうした? 悪いな……邪魔したか?」


 してないと言えば嘘になる。だが、その穏やかで優しい聞き方に、俺とルーフは何も文句は言えなかった。


「ははっ。でも、ちょうど良かったよ」


(ちょうど……良かった?)


 俺が首を傾げると共に、隣のルーフも微かに首を傾ける。


「実はな、さっき話した件なんだが──」


 それは、団長が団員に労いの言葉と解散を告げた後、ナツさんが俺に言った話。


 半分以上は何を言ってるのか理解出来なかったが、とりあえず今のままでは、団長の元へ行く前にどこかの二人組にやられてしまうとナツさんが考えている事だけは分かった。



 そしてナツさんは、今、また唐突にこんな事を言い出した。


「ルーフ。俺達に手を貸してくれないか?」


 その言葉にも、二人は依然として黙ったままである。しかしもちろんナツさんが、そんな事を気に留める様子はない。


「作戦変更……って事でな。ちょうど今、腕の良い撃手を探していたんだ」

「えっ、でも──」


(ルーフは俺に剣を……)


 しかし、続けようとした言葉をルーフの鋭い視線に制された。


「はい、喜んで」


 ルーフは満面の笑みで即座に承諾した。


「お、良いのか!」


 そして、それを聞いたナツさんも無邪気な笑顔を返し、満足そうに頷く。


(お、決まってしまった。俺の意見は──)


 俺は、突然勝手に結ばれた三人の同盟に呆れてモノも言えず、二人の空気に流されるように結局それを受け入れる事にした。


「これであいつらと対等に渡り合える」


 ナツさんは、俺とルーフを真剣な目で交互に見つめた。



「二人とも明日は頼んだぞ!

 次の相手は………………ロキとジーク」


 ナツさんは、そう断言する。


「「えっ!」」


(ロキさんとジーク! ──をこの三人で)


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ステータスⅡ


ナツ 【Lv ???】

 職業:騎士

 称号:鉄人

 階級:大将 (仮:曹長)

 スキル:移動系 ★★★★★

     飛行系 ★☆☆☆☆

     感覚系 ★★★★☆


※☆☆☆☆☆☆ = ★☆☆☆☆


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ステータスⅡ


ルーフ 【Lv ???】

 職業:騎士

 称号:凄腕スナイパー

 階級:少将

 スキル:移動系 ★★★☆☆

     飛行系 ☆☆☆☆

     感覚系 ★★☆☆☆


※☆☆☆☆☆☆ = ★☆☆☆☆


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 ──そして迎えた、DAYBREAK夜明け階級総入れ替えバトルの二日目。


 俺達は山岳エリアの中腹に来ていた。








        ……To be continued……

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次回:第59話 TOGETHER⇐

最終改稿日:2021/01/24

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