第49話 GOLD⇐


 数分後。


 未だに続く、規則的で覇気のない金属音。


(うーん……さあ、どう切り抜けるかな)


 俺は相手が自分より強くない事を感じ取ってはいたが、その5人が好き勝手に武器を振りかざしてくるので、なかなかその場を収拾する事が出来ないでいた。


 しかし、それでもまだ運が良かったのは、彼らが個人個人で大将の階級を背負った俺を仕留めに来た、という事。


 これがもし全員グルだったとしたら、個人戦しか出来ない俺には相当、分の悪い戦いになっていたであろう。


(それにしても……ナツさん、どこに──)


──


「……!」


 相手の一人が振り上げた剣先が陽光を反射して、俺の瞳の中へと一本の光芒が差し込んだ。


 その眩しさに俺は思わず眉を顰める。


 先の長いその剣は俺の身体の中心に黒い影を落としていた。



「よしっ! いける」


 相手の一人がそう叫ぶ。


「……いける?」


 俺はその言葉に驚いて首を傾げた。


 だってそれは、対戦相手の俺から見てもあまりに浅はかな読みであったから。


「ふっ」


 俺は図らずも笑い声を零した。


 しかし、それは決して相手に対する侮蔑を含む嘲笑のようなものではなく、それを浅はかと感じとれるほど成長していた自分自身に対する感嘆を帯びた笑い。


 そして、俺は自分の元にたどりつくのが遅すぎるその相手の剣をキッと睨みつけ、反射的に自分の剣でそれを飛ばしていた。


──ギィンッ


 舞い上がり、再び光を反射させるその剣は、相手の背中より遥か先の草の生い茂った地面に綺麗に突き刺さった。


 誰もが視線を奪われるその光に、一瞬ではあるが俺を取り囲む5人全員が怯んだのが分かる。


(今かな……?)


「せつ」


 そこで俺は、漸く移動系スキル発動の合言葉を小さく口にする。


[移動系 ☆☆ ── 瞬間移動テレポーテーション


 俺はあえて☆の低いスキルを使用した。


 なぜなら、あのタワーで学んだスキルの効率的な活用法が実践でどれほど使えるのか、一度試してみたかったから。


(この対戦に……大移動は必要ない。

 んー、今回は腕に集中させてみるか)


 5人を相手にしているだけあってジリジリと場所は移動するが、俺を取り囲むその円自体が大きく他のところに動く事は無かった。


 俺の身体がその場からあまり動かないのであれば、腕にスキルを集中させても身体の軸がブレる心配は無い。


──


 俺のせいで、ずっと単調に鳴り響いていた金属音が不規則になった。

 

 そして、


「……」


 グサッ──ザッ──ザッ──ザッ──ザッ


 決着を知らせる五つの音が、今度は規則的に鳴り響く。


「……」


 ブワッと風が吹き、周りは急に静かになった。



 俺は最後に仕留めた相手の、首ではなく心臓に突き刺さった自分の剣をゆっくりと引き抜く。


「うっ! ……あ」


 その人が跪いたまま俺の右腕を掴んだ。


 俺はその手に妙に驚いて、思わず身体をビクつかせる。


 そして、ゆっくりとその人の顔に視線を移すと、彼の首元に巻かれている、軍曹だと分かるそのSORDソードが、赤く点滅しているのが目に入った。


(……点滅?)


 俺が首を刺さなかった理由は、先程ナツさんにそう教えられたから。SORDソードごと相手の首を貫けば、たとえ自分より下の階級の相手であろうと、一瞬で階級ごとそれが入れ替わってしまうらしい。


 よって、今大将の身である以上、俺は相手が一定時間動けなくなるほどのダメージを負わせる他に道はなかった。


「ふぅ、なんとか」


 気を失ったように動かないその5人を一瞥すると、俺はその場に背中を向けてナツさんの元へと向かって歩き出す。


 その時だった。


──


「……っ!」


 背中にものすごい殺気を感じて、俺はバッと振り返る。


 しかし、その5人はピクリとも動いた形跡はない。


(ん……じゃあ、誰だ?

 この平野エリアのどこかに──え)


──ヒュッ……ズドンッ!


 唸るような風音が耳を掠めたのに気づいたのと同時に、足元近くの地面に一本の白い矢が突き刺さった。


「おお……! ん?」


 俺は軽く驚きはしたが、自分に向けられたものでは無いと感じ、先に矢の飛んできた方へとそっと視線を遣る。


 しかし、そこには大きなラギド山全体が映し出されただけで、飛ばしてきた犯人が山岳エリアにいるという事くらいしか分からなかった。


「あ……これ」


 俺は諦めて地面に刺さった矢の方へと視線を向けると、それに引っかかっていた一本の金色の髪の毛が目に止まった。


 俺の脳裏に金髪のある人物が過ぎる。


「ジーク……?」


 俺はそう、小さく呟いた。


「お? どうした、ハク」


 いつ戻ってきていたのか、声の先には頭の後ろに腕を組み、呑気に笑うナツさんの姿が見える。その首には〈曹長〉の文字。


「ナツさん、ジークを知っていますか?」


 俺はそんな首の赤い文字を気にする余裕もなく、頭で描いた仮定に引っ張られ、思いのままにそう尋ねた。


「ん? ジーク?」



 ナツさんの言葉に間が空いて、二人に流れていた穏やかなその空気が、ほんの少しだけ揺れたのを感じた。


 そして、



「知ってるも何も……それは俺のだよ」



 ナツさんは笑う事なく、そう言い放った。








        ……To be continued……

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次回:第50話 BROTHER⇐

最終改稿日:2021/01/24

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