第48話 SHARE⇐
階級総入れ替えバトル、一日目。
平野エリアのど真ん中。
そこに立っている俺は、今、どういうわけか五人の騎士達に囲まれている。
「おい、こいつ、あの新兵だろ?」
──
「ああ。間違いないな」
──
「なのに、なんでこいつが大将の──……」
──
「まさかっ! どっちかを倒したのか?」
──
俺を取り囲む騎士達の会話が、ぶつかり合う金属音の合間を縫って、案外はっきりと耳に届く。
(ああ、乗るんじゃなかったかな。相手に階級までバレるなんて知らなかったし……)
───────────………………………
それは今から数分前。
「なあ、ハク。今回の階級総入れ替えバトル……俺と手を組まないか?」
(ん?)
本当に唐突な提案であった。
バトルに向けた熱い気持ちに、一気に冷水をかけられたような感覚を味わって、俺は言葉を失っている。
「ただし……俺の階級をお前にやるよ」
しかし、呆然とした俺に追い討ちをかけるように、そんな言葉をナツさんは続けた。
(んー? えーっと、一旦落ち着こう。俺はいったい何を言われたんだ? 聞き間違い、でもなさそうだし……)
俺はあからさまに首を傾げてみせる。
「やっぱり……ダメか?」
(いや、ダメ──というか)
「えと、それってつまり……ナツさんの持っている大将の階級を俺が譲り受けた上で、手を組む、そういう事……ですよね?」
「おう! そう言う事になるな!」
(そんな、当然のことみたいに──……
俺にとって良い話過ぎて、逆に怪しいぞ。
いや、その前にそんなんアリなのか……?)
与えられた情報量に頭が追いつかず、俺の思考は渋滞を起こす。
階級は一人一つしか持てないし、手を組んでさらに上の階級を手に入れたところで、これから先の事も考えるとなんというかナツさんにとって非効率でしかない気がする。
そして何より、大将であるナツさんが新兵の俺と階級を入れ替えてまで手を組むメリットなんて、どこにも見当たらなかった。
(こんな提案があるとしたら、それは罠に違いない)
その仮定は、俺の中で確信に近かった──はずであった。
しかし、
「……良いんですか?」
俺の思考とは裏腹に口は勝手にそう動く。
いや、少し違う。
それは、俺の中で知らず知らずのうちに行われていた、思考と感情との戦いに決着がつけられただけの話であった。
なぜなら、ナツさんの意味の分からないその提案に内心ワクワクしていたのは事実であったから。
「おおっ……! 良いのか?」
思いのほか喜ぶナツさんのその笑顔は、俺の感情をさらに後押しするように強く働きかける。
「よしっ! じゃあ、いくぞ」
(え……?)
──パシッ
声を上げる暇もなかった。俺の首に嵌められていたはずの
そして、次の瞬間。
俺の首には、恐らく大将という階級が記録された新たな
(見えなかった。それと、痛みもまったく。ははっ、あの早さで狂いなし、か。確かにまだこの人を仕留められる気は全くしない)
そんな軽い嘲笑を浮かべながらも、俺は自分の選択が正しかったようで逆に安心していた。
そして、そうやって感情に従って進んでいった結果、今の俺に辿りつく。
五人の騎士から作られた俺を取り囲むその円は、段々と小さくなっていき、俺の首元へと近づいてくる。
「……」
俺は剣を振り回し、相手の攻撃を全て防ぐ。
(よく見たら、そうだな。俺からも相手の階級が見える。ぜ……全然気づかなかった)
確かに、大将というとてつもなく上位に位置する階級を新兵の俺が身につけていたのだから、皆が一目散に飛んでくるのは当たり前の事であった。
(5対1とはまた──……)
しかし、正直なところ、対戦している五人の騎士はそこまで強いわけではない。
身につけている階級も最高で曹長。
ぶつかり合う金属音は、これまでの相手と比べるとどこか覇気が足りず、さらに規則的なものであった。
(ああ、そういう事か)
俺はやっと、この同盟を結んだナツさんのメリットを発見した。
(頻繁に下から狙われるのは、さらに上に行こうとする時には確かに面倒だ)
それに漸く気づいた俺は、面倒ごとをナツさんに押し付けられた感じがして、決して気持ち良くはなかったが、俺の予想の追いつかない所にいるナツさんが次に俺に出す指示をどこか楽しみにしている自分もいた。
◆
と、同じ時。
「はい、ジークです。ハクを発見致しました」
……To be continued…────────────────────
次回:第49話 GOLD⇐
最終改稿日:2021/01/24
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