第46話 RIVAL⇐


 ──DAYBREAK夜明け 階級総入れ替えバトル開幕。



「よーし、まずはSORDソードをチョーカーモードに切り替えろ」


(チョーカーモード……?)


 ポンポンッ


 団長からの指示に、俺はいつも通りダブルタップでSORDソードを表示し、モード切り替えのボタンを押した。



[モード切り替え]

●ノーマルモード

〇ヘッドセットモード



(え? そんなモードどこにも──……)


「……ここだよ」


 目の前にスっと誰かの手が伸びた。


──ピッ、ピッ


[参加中のイベント]


【階級総入れ替えバトル】

モード切り替え:〘ON〙/OFF

→ チョーカーモード



 その手は何も語ることなく、俺のSORDソードをいじり、素早く切り替えを行ってくれる。


 俺もそのあまりの手際の良さに何も言葉が出ず、ただただ黙ってそれを見守っていた。


 しばらくすると、タブレット型であった俺のSORDソードは霧散するように視界から消え、気がつくと俺の首にぐるっと一周巻きつけられるように型を変えていた。


(うおっ! ……何かくすぐったい。

 このモードってどうやって使うんだろ)


 そして、俺は自分の首を右手で軽く触れながら、ようやく先程視界の左から伸ばされた手の主を確認する。


 バチッと視線が重なった。


 その人物はキャップのような黒い帽子を後ろ向きに被り、満月のような金色の短髪から覗かせる右耳に、銀色に光る小さめのリングピアスがつけられている。


(あれ、この人……でいいんだよな?)


 優しげな手の先から視線を上に持っていった筈なのに、想像していたのとまるっきり異なるその人物に、俺は正直だいぶ戸惑った。


「あ、教えて下さりありがとうございます」


 とりあえず俺はお礼を口にした。容貌は同年代か年下に見えるが、何となくいつもより畏まってしまう。


 すると、その人物は真っ白な歯が見えるくらい口角をニッと上げて、


「俺も新兵だし、敬語はいらないよ」


 俺の心の中で、怖そうな青年という彼の第一印象はあっという間に覆され、人懐っこいその笑顔に俺もつられて笑顔になる。


「そう……か、ありがとう。俺の名前はハク。

 教えてくれて助かったよ」


 そのまま笑顔を彼に向けて、もう一度お礼を口にした。


「お、お……おう。なら良かった……」


 しかし彼は、何かに驚いたように一度固まると、何故かカタコトな返事をして、急に俺から視線を外し、フイッと正面を向いてしまう。


(……ん? 俺、何か変な事言ったか?)


 その彼の態度を不思議に思い、俺はもう一度だけ彼の方をじっと見つめる。


(ははっ、まさかこの人──……)


 その時見た彼の横顔は、金髪に黒キャップというのは変わらないものの、銀色のピアスがつけられたその耳は、普通ではありえないほど真っ赤に染められている。


「ハク……あんま、見ないでくれないか」


(ふふっ、この人…………照れ屋さんかな)


 手で首元を仰ぎながら深呼吸をし、一切俺を見ようとしない彼が、俺は何となく可愛いらしく思えて再度笑顔を浮かべる。




「さあ、いいか」


 カリアス団長の声が響いた。


「まあ……ルールはいつも通りだが、入りたての新兵もいることだし、今回はしっかり説明するぞ」


──────………………


 階級総入れ替えバトルのルール。


 DAYBREAK夜明けの本拠地がある街、ラン。バトル会場はこの街全体。


 騎士団員達はこの広い会場でランダムに対戦を繰り返し、自分の階級を守りつつ、上の階級を奪いに行く。


 全員の首につけられたSORDソードには現在の階級だけが記録されており、下の階級の者は上の階級のそれを何らかの形で傷つければ、相手の階級を手に入れる事が出来る仕組みになっている。


 つまり、剣でそれを真っ二つに斬っても、弓で首ごと貫いても、素手でそれを殴り割っても、相手の首につけられたそれにダメージさえ与えられれば、その瞬間一時的に階級が入れ替わるのであった。


 そして、最終日の終了時刻。その時SORDソードに記録されている階級がそのままユーザーに与えられる。


 この階級総入れ替えバトルの期間は今日からの一週間。早めに上の階級を奪うのか、直前に奪うのか、そのあたりもしっかりと考えなければ上の階級は得られない。


(うーん……なかなか厳しい)


 上の階級の騎士団員達がそう簡単に首をとらせるはずがない。


 俺は頭を悩ませる。



「さあ、全員解散だ。

 それぞれ思い思いの最初の位置につけ」


 カリアス団長が指示を出し、団員は広場から散らばっていく。



「ハク……俺の名前はジーク。

 お互い頑張ろうな」


 最後に、金髪の彼が俺にそう笑いかけた。









        ……To be continued……

────────────────────


次回:第47話 ENJOY⇐

最終改稿日:2021/01/24

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