第45話 AGAIN⇐
「私が貴方を強くして差し上げますよ。
……少なくとも、このゲームの中では誰にも負けないほどの強い騎士に、ね」
揺れる事なく俺に真っ直ぐ向けられた瞳。
「お……お願いします」
そのロキさんの瞳に逆らう事が出来ず、俺は思わず承諾を口にする。いや、どの道答えは同じであった。
(Sランク騎士団の副団長が入りたての新兵に戦い方を……こんな機会は滅多にない)
「ロキさん、よろしくお願いします!」
俺はベッドから立ち上がり、ビシッと姿勢を正すと、再度しっかりと頭を下げた。
「ふふっ……さあ、行きますよ。ナツも」
「えっ、おい、ロキ。まさか──」
「ええ、そのまさかです」
戸惑ったようなナツさんの視線を流して、早速ロキさんはこの部屋の扉へ向かって颯爽と歩き始める。
──ガチャッ
「お、おいっ!
はあ……こうなったら止められないんだ。
ついてこい! ハク」
普段マイペースで穏やかなナツさんが、珍しく人に振り回されているのを見て、俺の体から緊張が溶ける。
「はいっ!」
俺は新兵らしく元気よく返事をすると、二人を追いかけるように部屋を飛び出した。
◆
連れられたのは、俺がよく知るとある街。
……の、とある大きな家。
(おおっ!)
その光景に俺は目を見開く。
しかし、そんな俺を無視して、ある一つの部屋の立派な椅子に腰を下ろしたロキさんは淡々と説明を始めた。
「
(ん? ……それだけ?)
俺はその時、家で生活をするだけなんて簡単な事だと思っていた。
「……私の直接的な指導は、貴方が新兵以外の階級を奪ってから致しますよ。貴方のような騎士がいつまでも新兵にいては、周りの騎士団員達が可哀想ですし──。私の指導もしやすくなるというものです」
(このゲームに入ってから、初めて自力で手に入れる階級か。確かに気合いは入るな)
「ハク、覚悟しておけよ。
これはお前には相当厳しいぞ。だが、ここで総入れ替え戦までの10日以上逃げ出す事なく暮らす事が出来たら、お前は今よりも確実に上に行ける」
ナツさんが、いつもの落ち着いた口調で優しく俺にそう言った。
(確実に今よりも上に……)
「はい! 頑張ります」
俺は勢いに任せて返事をする。すぐにそれを後悔する事になるとも知らずに──……
──そして、そのまま月日は流れ、
この騎士団に入団してから1ヶ月。
俺はついにその時を迎えた。
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元帥
カリアス
大将 ── 中将 ── 少将
ロキ・ナツ シオン・グレイ (2名)
大佐 ── 中佐 ── 少佐
(3名) (3名) (3名)
大尉 ── 中尉 ── 少尉
(4名) (4名) (4名)
曹長 ─ 軍曹 ─ 伍長 ─ 兵長
(5名) (5名) (5名) (5名)
上等兵 ─ 一等兵 ─ 二等兵 ─ 新兵
(20名) (25名) (30名) (残り)
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「おーい、全員集まったかー?」
ランにある本拠地の広場に、朝早くから集められた150名以上の騎士団員達。
俺が立っているのは、乱れることなく正方形を為す隊列の最後列の右端である。
沢山の後頭部が並ぶ僅かな隙間から、興奮を纏ったカリアス団長の顔が目に入った。
団長はそのまま嬉しそうに口角を上げる。
「
己の力を信じて、好きなように暴れろぉ!
──責任は全て俺が取るっ!」
団員達を奮い立たせるような団長の上げたその一声に、周りに立つ騎士達の目の色が一変する。
全員が一斉に肩を上げ、大きく息を吸い込んだのが分かった。
「おおおおおおおおおおお!!!!」
(……っ!)
その時、俺は震えていた。
周りの熱に促され、昂る感情を抑えきれず、それが震えとなって俺の身体を襲う。
──もちろんそれは、武者震い。
今いる位置からはまだ見えぬ、この騎士団の頂点に立つカリアスという男の背中。
俺はそれに触れるかのように手のひらをスっと前に伸ばし、血管が浮き出るほど強く、ぎゅっと空間を握りしめる。
(よしっ、絶対にあの背中を掴んでやる)
──こうして、騎士団員全員で力と力をぶつけ合う、俺にとって初めての階級総入れ替えバトルが幕を開けた。
……To be continued……
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次回:第46話 RIVAL⇐
最終改稿日:2021/01/24
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