第36話 RETIRE⇐
──【30F】
『
※コミュニケーション重視のモード。(第26話)
(ああ、また忘れてた。あれ、でも味方の騎士はNPCだ。いったい誰と話せば──)
〔戦闘配置!〕
モードを切り替えた瞬間、俺の予想を裏切って、熱を持たないロボットのような声が俺の耳に届く。
恐らくそれはグレイ隊長(NPC)の声だった。
(……あ、ああ。これを使えば、NPCともコミュニケーションが取れるんだ)
正直そのシステムをあまり理解出来てはいなかったが、今はこんな所で躓いている場合ではない。
〔全員、自分の役割は確認できているな〕
もう一度聞こえたグレイ隊長の指示。
(ふっ、グレイ隊長のNPC、本人よりだいぶ喋ってくれてるよな。あ……いや、だから今はそれどころじゃ無いんだってば!)
色々な情報が一気に入ってきたせいか、俺の頭の中では、列になった沢山のテールランプが赤く灯り始めていた。
状況を整理するために、不必要な情報を削ぎ落とそうと一度大きく深呼吸をする。
しかし、頭の中の渋滞をやっと整理し終えたばかりの俺に、次のグレイ隊長の指示がさらなる混乱を招いた。
〔陣形はこれでいく〕
──ピッ
〔え……うわあっ! 何だこれ〕
耳を掠めた小さな電子音に気を取られているうちに、目の前の空間に大きめのスクリーンのようなものが広がっている。
〔共有完了。全員見えたか〕
〔はいっ!〕
突然現れたのは、この騎士団戦で用いるのであろう、第一部隊の陣形。
俺の知る限り、それは日本(中国由来)でいう所の鋒矢と名付けられた陣形だった。
---------------------------------------------------------------【ヘルプ】・鋒矢の陣形(
[敵の騎士団]
□←グレイ(N)
□□□ □前衛
ハク→□■■■□ ■中衛
■■ 〇 ■■ 〇後衛
〇 〇 〇
〇
〇
〇
✱少数精鋭で戦う時に用いられやすく、敵陣を勢いよく突破する事に長けている陣形。
---------------------------------------------------------------
それは確かに、少数精鋭の第一部隊が大勢の敵を相手にするのには、最も適した陣形の一つであるだろう。
しかし、グレイ隊長の表示したそれには、団体戦ド素人の俺から見ても、とても大きな問題があるように思われた。
普通この陣形を使う場合は、一番首の狙われやすい軍の長(今回の場合はグレイ)を最後尾に置かなければ意味が無い。隊長の命が勝利条件のこの団体戦なら尚更だ。
ましてそれを最前線に置くなど、俺には自ら負けに行くとしか考えられなかった。
(……)
しかし、俺は色々と迷った末、NPC相手に何を言っても無駄だと考え、モヤモヤとした感情を自分の中で無理やり納得させ、指定された前衛の左側へと配置につく。
そしてそのまま、いつも通り両手をスっと前に出し、敵に照準を合わせて剣を構えた。
(……っ! 敵の部隊は鶴翼(✱)の陣。
あ、これ最悪だ。
このまま突っ込めば挟み撃ちに──)
---------------------------------------------------------------
【ヘルプ】・鶴翼の陣形(陣形のみ)
[ハクの第一部隊]
■ ■
■ ■
■ ■
□←敵の騎士団長
✱敵より人数が多い時によく使われ、防御に適している陣形。敵を囲みながら攻撃する。
---------------------------------------------------------------
(やはり、このままでは、中央突破なんて無理だろ。この戦略は中止した方がいい!)
俺は動揺を隠せず、ぐるりと周りを見渡すがNPC達は表情を一切変えずに鋭い視線で敵を見据えている。
その真剣な目と勇敢な立ち姿を見て、それがたとえコンピュータだとしても、俺の目には自分だけがその状況に狼狽している情けない奴のように映った。
(何でこんなに落ち着いているんだ。
──このままで勝てるとでもいうのか?)
モヤモヤとした味方への懐疑心が、さっき閉めたはずの蓋をこじ開けて油のように溢れ出し、俺の中でじんわりと軽い苛立ちへと変わっていく。
(いや、ここはやっぱり──……)
『戦闘開始!』
〔……っ!〕
その突然の戦闘開始の合図は、俺の心に染み込んだ味方に対する懐疑心という名の油に小さくも確かな火をつけた。
ボッと音を立てて烈火と化したそれは、俺の目から味方の姿を見えなくし、俺の体を敵陣の中心にいる敵の隊長の所へと一直線に向かわせる。
胸の内で轟々と燃え盛る間違った闘志。
それは、俺が騎士の辞退を脳裡にちらつかせるほどの激しい痛みを全身に刻み込まれたあの瞬間まで、消える事は無かった。
……To be continued……
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次回:第37話 SHADE⇐
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