第35話 LIMIT⇐


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【30F】

DAYBREAK夜明け第一部隊隊員のNPCとして、敵のNPC部隊を倒せ。

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 二つの隊列に分かれたNPC偽物の騎士達。


(……いや、待て。人数比がおかしい)


 俺の周りに集まっているのはせいぜい20名程度。一方で、俺の敵にあたるNPC部隊には約100名程いるように見える。


(どうやって、この人数差で?)


 本日何度目かの困惑。


 しかし、


(20? あ、そうか。俺の所属する第一部隊の人数だな。こんな状況が実際にあるという事なんだろうか?)


 やっと与えられた使命が分かったような気がして、俺は天を仰ぎ深呼吸をする。そして今度は、しっかりと相手の騎士達を見据えた。


 第一部隊隊員としての覚悟は出来ているか? この部隊に入るというのはこういう事だ。……と、言われてもない団長の声が聞こえる気がする。


 これほど大勢の団体戦は初めてで、これまで以上に気合いを入れた。


(大丈夫。今の調子でいけば勝てるはずだ。

 ……俺は最近特に強くなったんだ)


 これまでなぜか欠けていた感情。成長に対する自覚と実感が更に自分を鼓舞している。


 高揚する自身をなんとか落ち着かせながら、俺はこの状況を必死に打破しようと頭で考えた。


 しかし俺は次の瞬間、重要なことに気づいた。


(あれ? 姿形は人間だけど、俺の周りにいる騎士達は全てNPC、つまりはコンピュータ。

 俺達……連携なんて取れるのか?)



──ピッ


(ん? ……何だ)


 小さな電子音に遮られ、ピタッと思考を停止する。その音は、俺の周りにいる味方の部隊員達の方から聞こえたものだった。それは隣にいる隊長──もどきの人も同じ。


(……っ!)


❮剣・前衛1❯


 音に身体をびくつかせながらも、隣に立つグレイ隊長のNPCを見ると、頭上の空間に何やら赤く光る表示が現れている。


「何だろう」


 周りを見渡すと、他のNPCの頭上にも同じような表示が出ているようだった。


❮斧・中衛4❯、❮弓・後衛1❯、❮槍・中衛2❯


 その内容は騎士によって異なってはいたものの、左側の表示がその騎士の装備を指すことはさすがの俺でも理解出来た。


 そして右側は恐らくだが、戦闘配置(※)。


※戦闘配置

文字通り戦闘時の立ち位置の事。同時に役割も大方決まってくる。(配置⇋役割)

例)DAYBREAK夜明けの第一部隊の場合。

  前衛(6)、中衛(7)、後衛(7)



(あっ! もしかして──)


 周りの表示を一つ一つ確認しているうちに、ある予想が頭を過って俺は慌てて視線を真上に向けた。


❮剣・前衛6❯


(うわあ……やっぱり)


 俺の予想を裏切ること無く、それは俺の頭上にも表示されていた。しかも、何を基準にそう判断されたのかは分からないが、装備は剣で戦闘配置は前衛らしい。


(まあ、、、かっこいい位置ではあるな)


 少し満足気に頷いて、俺は腰に差した剣の握りをガチャっと音が鳴るくらいに強く掴むと、乱れの無い味方の隊列に混ざり、部隊の前衛へと足を運ぶ。


──ピピッ


『この訓練のルール説明を行います。

 まず、基本的には騎士団戦と同じで──』



 騎士団戦。


 時間制限は基本的になし。

※どちらかの騎士団が勝利するまで。


 そして勝利条件は、相手の騎士団長に死と同等のダメージを与える事。または、騎士団員の過半数を一時戦闘不能の状態する事。


 ただし、ゲーム上の時刻が0時を過ぎたところで強制的に一時休戦となり、また翌朝の6時から戦闘再開(仕切り直し)となる。



(ああ、なるほど。

 時間制限はないけど、睡眠時間は貰えると)


 俺は、初めて知った騎士団戦のルールをちゃんと把握するのに必死だった。


(へえ、騎士団戦ってそんなルールなのか)


 これ程大勢の部隊を相手に、過半数を一時戦闘不能は難しい。だから俺は、中衛と後衛がぶつかっている間に、前衛(俺達)が対戦開始直後に団長の首を取りに行くのが善策なのではないか、と考える。


 それが独りよがりな作戦だなんて、その時の俺は微塵も思わなかった。


 自分の勝利を信じて疑う事のない俺は、周りから見れば無謀なこの戦略を実行出来ると本気で思っていたのだ。



 そう、あの瞬間ときまでは──……




-------------------- Coming soon ----------------------


──ピピッ……ビー



 聞き覚えのある機械音に嫌な予感がして、俺は慌てて後ろを振り返る。


 そこには、よく知っている二人の男性。


 そして、その二人はとても残念そうな微笑を俺に向ける。




「ハク────そこまでタイムアップだ」


 その声を聞いた途端、俺の視界は真っ白な世界へと一変して、強く握っていたはずの剣が右手から滑り落ちる。


 同時に、自分の中で大切な何かが崩れ落ちていくのを感じた。



──カランッ


 落ちた剣が床を打つ。そんな乾いた音だけがとても寂しく部屋に鳴り響いた。








        ……to be continued……

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次回:第36話 RETIRE⇐

最終改稿日:2021/01/16

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