第34話 PRIDE⇐
──シュー……──ガチャン。
【30F】
今回の訓練の最終目的地。
(……?)
微かな揺れを伴ってそこへ辿り着いた瞬間、自分以外には誰も居ないはずのこの部屋に何となく誰か他の人の気配を感じた。
(何だ?)
俺は背筋に冷たいものが走って、ばっと勢いよく後ろを振り返る。
「え……グレイ隊長!? どうしてここに?」
「……」
そこには、出会った時より少しだけ血色の悪いグレイ隊長が、相変わらず姿勢よく凛然とした様子で佇んでいた。
「え、あれ、どうして──ん?」
俺の頭は大混乱。
「……」
(こ、こんな時でも口を開かないか?)
しかし前に立つグレイ隊長は、俺の瞳をじっと見つめるだけで、さっきと同じように頑なに口を閉ざしている。
「えーと、じゃあ、俺勝手にやりますよ?」
クリア目前で興奮していた俺は、半ば生意気な態度で隊長の顔を覗き込みながらそう尋ねたが、その表情はピクリとも動かない。
その様子を見て「はぁ」と小さなため息を漏らすと、俺はもう会話を諦めて無視するようにこのフロアの課題を確認しに行った。
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【30F】
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※
(あれ、今までの課題となんか雰囲気が違う。というか、俺にはこの説明の意味がさっぱり分からない。とりあえず今回のは、これまでみたいな戦闘技術とスキルの掛け合わせの訓練ではない……のか?)
案の定、ゲーム用語に翻弄されて内容を把握出来ていない俺は、グレイ隊長に詳細を訊ねようと再度後ろを振り返る。
しかし、その時やっと、この課題の意味をちゃんと理解した。
「……っ」
(な、何人いるんだ!?)
予想もしていなかったその光景にぐるりと周りを見渡すと、一体どこから湧いてきたのか、その部屋の静けさでは考えられないほど大勢の騎士達が俺を丸く取り囲んでいた。
しかも、その中には何人か見覚えのある人達も混ざっている。
(あれ、NPCって偽物のプレイヤーみたいな感じだよな? えっ! ん、じゃあグレイ隊長も……?)
俺はそう考えてもう一度体をこわばらせ、恐る恐るグレイ隊長の姿をじっくりと見つめ直す。
もし、視線の先にいる男性がグレイ隊長と別の現実世界の人間だと言うならば、ドッペルゲンガーである。そう言いたくなるくらい、彼はどこからどう見てもグレイ隊長であった。
それがまして、NPCというゲーム内で再現された偽物だなんて俺には到底思えない。
しかし、上から下まで眺めているうちに、決定的に違う箇所がある事に気づいた。
それは、瞳の色。
目の前に佇む男性の瞳の色が、グレイ隊長のあの特徴的な琥珀色ではなく、陰りのある灰色であったのだ。
(まさか、本当に……NPCなのか?)
その再現度の高さのせいで半信半疑ではあるものの、俺はようやくそこで彼らがコンピュータであることを理解する。
──ザッ
突然、彼らが一斉に動き出した。
俺の疑問がやっと1つ解決したばかりなのに、その集団は前触れもなく綺麗な二つの大きな纏まりに分かれ始めた。
そして、そのうちの一方の騎士達は俺の近くに寄ってくるように、もう一方は俺から離れていくように歩いている。
隊列を乱すことなく整然と歩いていくその彼らの様子を、俺はその場でただただ口をポカンと開けて呆然と見つめていた。
──ザッザッ。
NPC騎士達の足の動きがピタッと止まり周りが静寂に包まれると、俺ははっと我に返り、やるべき事の再確認にもう一度課題の元へ足を運ぶ。
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【30F】
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(ああ、なるほど。2グループに分かれて団体戦を行うのか。それで、俺は敵の部隊を倒せばクリア……ここから出られるという事なのかな?)
それは、部隊ごとの対戦を軸とした騎士団戦の
そして、ハクの味方の騎士達は、
そう。自分の戦闘能力にいっそう自信をつけたハクは、味方と協力して敵を倒すという極々普通の団体戦にこれから挑む。
これが
……To be continued……
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次回:第35話 LIMIT⇐
最終改稿日:2021/01/16
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