第32話 OPEN⇐
二時間以上を要し、【2F】を突破。
そして、そこからの俺は完全に何かを掴んだように次々と課題をこなしていった。
この部屋は課題をクリアする毎に、思いのほか静かに上昇していき、何かと連結する音と共に次の階で止まる。
──シュー……──ガチャン。
【3F】
天井にくっつけられた10個の木材を、剣ひと振りで全て真っ二つに斬れ。
──シュー……──ガチャン。
【4F】
指定された範囲の場所に立ち、飛んでくる刃物を全て避けろ。
──シュー……──ガチャン。
【5F】
盾を使い、四方に配置された強化ガラスを全て五秒以内に割れ。
──シュー……
【6F】----------------【9F】
……──ガチャン。
そうして俺は、一度クリアしてからは本当にあっという間に【10F】へと辿り着いた。
(ふう。だんだん集中力も落ちてきたし、今日はこの辺で一旦終わりにしよう。……えっと、今何時だ?)
ポンポンッ
「えっ! ……もう夜中の1時半か。
家に帰って休まなきゃ────ああ!」
(はぁ、そうだった。【30F】まで行かないと出られないんだっけ?)
部屋に閉じ込められているという事を再認識して一度わざとらしく項垂れると、俺はその部屋に休めるような所が無いか、360度眺め回す。
「えーっと、これはやっぱり床で寝泊まりするってことだよな?」
自分以外に誰もいない事を自覚しながらも、わざと声に出して尋ねてみた。
「うん、そのようだ」
(これぞ自問自答。……いや、違う)
俺は、疲れのせいか、変なテンションになりながら自分にそう言い聞かせた。
そして、寝るのに適当そうな近くの平らな場所を見つけると、羽織っていた黒いマントを床に敷き、仰向けに寝転がる。
「……ふぅ」
もちろん寝心地が良いはずは無い。
組んだ両手を下敷きに頭を寝かせると、思ったよりも高く薄暗い天井に、格闘技で使われるミットが何本もぶら下げられているのが見えた。
(このフロアの課題に使うんだろうか?
はは。……疲れている筈なのに眠れない。
とりあえず早くクリアしたいな……これを何日も繰り返すのはきつい)
しばらくは眠れそうに無いので、ぼんやりと色々な考え事をしているうちに、俺は知らぬ間に今日の訓練で学んだ事を振り返り始めていた。
(まず、今日一番の学びはスキルが武器にも発動出来るという事だろう。最初の2Fの時だって──……)
スキル発動の対象。
これこそが、ハクが騎士としてもう一段階成長する為の大きな関門の一つであった。それは、全身にスキルを発動する者とは大きな差を生み出し、それを完璧に使いこなす事が出来れば、ハクが今後戦いに負ける事は無いと言っても過言ではない。
例えば、ハクが【2F】で弓を構えていた時を振り返ってみる。あの時、動作を少しでも早くする為に、彼が移動系スキルを集中的に発動させた。ただ、ここでは武器へのスキル発動と説明してはいるが、厳密には高速で場所を移動する下半身、弓を引く腕、矢を放つ指先にスキルを集中させていたのだ。
すると、どうなるか。
プレイヤーに、より明晰な頭脳を必要とするが、対戦によってスキルを無駄なく身体の攻撃と組み合わせる事も可能になる。正拳を突く瞬間に拳、蹴りの瞬間に足。それでいいのだ。
しかし、今回ハクは初めのうち「移動系=足」というなんとなくのイメージに引っ張られ、無意識に力の込められる足と引きづられる身体とのバランスを上手くとれずに的を正確に捉えられなかった。
しかし、その分散されていた力の一定量をまずは体の中心である腰付近に集めた方が良いと気づいたお陰で、身体の軸のブレが消え、その後他の力を必要部分に送ることでより早くかつ安定した矢を放つ事が可能になったのであった。
訓練の途中、ハクは何百と矢を放って漸くその答えに辿り着いた。
(武器との相性を考えたスキルの集中発動。
そうなれば頭脳戦……うん、今後も使えるな。もしかしたら、この勢いで──)
自然と胸が高鳴りさらに寝付けなくなる。
【30F】まであっさりとクリアして、あの重厚なドアの隙間から内へと差し込む眩い光に、俺の成長した背中が影を作る。
その時の俺の頭には、そんな浅はかな映像が鮮明に浮かび上がっていた。
もちろん、Sランクの騎士団員を一流騎士に育て上げる為の訓練が、そんなに甘いものであるはずが無かったのに──……
……To be continued……
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次回:第33話 HARD⇐
✱最終改稿日:2020/11/14
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