第30話 SECOND⇐


【2F】




──ヒュッ……──────……ズドンッ!


(違う、もうちょっと右)


──ヒュッ……──────……ズドンッ!


(あと少しだけ早く)


──ヒュッ……──────……ズドンッ!


(いや、もっと早く!)




 これはもう、何百回目の音だろうか。


 ここに入ってから、かれこれ2時間。


 俺は未だに弓を引く。



──ヒュッ……──────……ズドンッ!



 指から離れていった矢は全て、一直線に風を切り、狙った的へと突き刺さる。



 しかし、


 俺の放ったそれらは全て、的の真ん中に刻まれている赤色の円を、見事なまでに避けていった。


(……っ)


 擦り切れた指の腹がピリッと痛み、額からも汗が流れ落ち、息が上がって肩が揺れる。


 しかしその時の俺は、そんな事にも気づかないほど移動→発射に神経を研ぎ澄まし、何度も何度も繰り返しそれを行っていた。



──ヒュッ……──────……ズドンッ!



(驚いたな。これはまだ最初の課題だぞ) 




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◇モニタールーム◇


 電気のついていないその部屋で、モニターから出る白い光だけが、ぼんやりと二つの顔を照らしている。


「良いのですか? あれは本来、【50F】で行う訓練ではありませんか。このままでは……ハクのやる気と自信すら削いでしまうかもしれませんよ?」


 暗がりに、響き渡るのはロキ(※)の声。


※この騎士団の副団長。(第1章で登場済)


 身体の前で腕を組んでモニターの前に佇む彼は、ハクの様子を真剣な目で見守りながら、ぐっと眉を顰めている。



「心配か? ……また、を失うのが」


 カリアスは敢えてロキの心に触れるような言葉を使った。そして案の定、ロキの視線はとても冷ややかにカリアスの瞳へと向けられる。


「もし……仮にそうだとして、それが何だと仰るおつもりですか?」


 ロキが時々放つ、一切熱を持たないその声は、団長であるカリアスまでをも怯ませる。


「い、い、いや、何でもない。冗談だ……悪かった」


 部屋はとんでもなくぎこちない空気に包まれた。


「──いえ、話を元に戻します。

 これでいいのか、と私は申し上げているのです。このままでは1ヶ月後の階級総入れ替えバトルまでに、ハクが30Fまで到達する事はありえなくなってしまいますよ?」


 冷たい圧力に思わず視線を逸らしたカリアスに対し、ロキは淡々と言葉を続けていく。


「私もハクの実力は認めています。しかし、せめて15F辺りから始めるのが妥当であったと思いますがね」


 その会話は、上下関係がひっくり返ったように、副団長のロキの手に主導権が握られていた。



「まあ、普通ならそうだな。だが……ロキ」


 真剣な色を帯びたカリアスの声。


「俺は、秘密シークレットスキルを持っているというだけの理由で、あいつをこの騎士団に勧誘したわけではないぞ?」


 ふわっと笑って、再度ハクへと移されたカリアスの視線に促され、ロキもそっとモニターへと視線を戻す。



「……はっ!」


 すると突然、ロキは何連にも重なり合って木霊する風の共鳴を耳にする。ヒューヒューと切り刻まれた何十もの風の音が、徐々に大きくなりながらモニター越しに響いてきた。



「せつ」(※ハクの移動系スキル発動の合言葉)


──ヒュッ───────……………………


 その瞬間、ハクの落ち着いた声と共に、画面の端から端へと、何本もの白い直線が四方八方に駆け回った。


……………………───────ズドンッ!


 そして、ハクから繰り出されたその数多の白い直線は、まるで吸い寄せられていくかのように、全ての的のど真ん中を一つ一つ完璧に貫いていったのだ。


 その直線の数、全部で50本。


 タイマーの表示:4.96


「……」

「ははっ、ほらな……だから言っただろ?」


 それを目にしたカリアスがとても嬉しそうに顔を向けると、ロキは決まりの悪そうな顔をして、その視線を流す。


 そしてそれ以降、二人の会話の主導権はあっという間に元通りになってしまった。


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「……よしっ!」


 一方、全ての矢が的へと吸い寄せられていったその時、俺は思わず声を上げて何年かぶりにガッツポーズをしていた。








        ……To be continued……

────────────────────


次回:第31話 CLEAR⇐

✱最終改稿日:2020/11/14

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