第29話 TRAINING⇐
カイエンという雪の降る街。
そして今、俺がいるのは街の中央に位置する、どこまで上に続いているのかも分からないほど高く壮麗に
……の2階である。
「ちょっ、まっ──」
俺は、幅の狭い
──キュッ
「……おおっ!」
角を曲がってすぐの所で立ち止まっていたグレイ隊長にぶつかりそうになり、俺は思わず足に急ブレーキをかけた。
(あ……危なかったぁ!
どうしてこんな所で──)
隊長の背中越しに前を覗き込む。
「……!」
見つけたのは、透明で薄いガラス張りの外装とは正反対に、中の見えない金属製の重厚なドア。
前に立つ隊長は、すぐ横にあるインターホンくらいの大きさのセンサーにそっと手のひらをかざす。
──ピピッ……ビー
センサーが赤く点滅し、小さな音が鳴ると同時に、そのドアは見かけによらず案外簡単に開かれた。
「……入れ」
俺は、口数の少ないグレイ隊長のその貴重な一言に従って、何の迷いもなく、その部屋の中に足を踏み入れた。
(あれ? ……何か前と似てないか?)
その中は、以前この騎士団の幹部達と
(まさか、また誰かとバトルを?)
── ビー……ガチャッ
(ん?)
微かな機械音が耳を掠めて後ろを振り返ると、隊長がまだ部屋の中に入っていないにも関わらず、そのドアは完全に閉じられている。
「えっ! あのっ、グレイ隊長!」
慌てて隊長の名を呼んだ。
しかし、隊長からの返事は聞こえない。
そして俺は、再度それを開こうとそのドアの境目に自分の右手の指をかけた。
──バチッ
「……っ!」
突然、ドアに触れた自分の指先に刺してくるような痛みと強い痺れを感じた。
咄嗟にその手を引き戻す。
俺が感じたそれは恐らく、人の手によってしっかりと調整された強さの電流。
(あっ! ……そういう感じか?)
その時の俺は異常に呑み込みが早かった。
近づいたドアの隙間からは、だんだんと小さくなっていく革靴とガラスの床との衝突音が、一定のリズムで響いている。
(ははっ、やっぱりこれ、やられたな。
……閉じ込められたパターンだ)
俺は意外と冷静にこの状況を把握すると、再度振り返って、ドアとは反対の方へと視線を戻す。
「ああ……あれを読めって事なのか?」
視界に飛び込んできたのは、銀色の板に黒く文字が彫られた掲示板のようなもの。
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【トレーニングタワー】
新兵の諸君!
ここでは、
この部屋は、一つの課題をクリアするごとにエレベーターのように一つ上の階へと登っていく特別はシステムを取り入れている。
次に後ろのドアが開かれるのは30階。
それ以上の階は、この課題を全てやり切ってからのお楽しみだな。
それじゃあ、健闘を祈っている。
騎士団長 カリアス
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(ん? いや、別に……口で説明してくれても良かったんじゃないか?)
そう思いながらもそのまま下へ目を遣ると、小さめの同じような板にこの階の課題が書かれていた。
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【2F】
そこにある弓を使い、この部屋の中にある的の真ん中を五秒以内に全て貫け。
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(的……5秒!?)
ぐるりと周りを見渡すと、的が全部で50ほどある。的の中央には赤い線で書かれた円があり、そこが的の真ん中の目安なのだと分かった。
もちろん、全部の的の真ん中に5秒で矢を射るとなると、それは的一つ当たり0.1秒以内で、全てを完璧に仕留めるということ。
それは、普通ではありえない早さ。
しかし、それを可能にするものがこのゲーム内に一つだけあった。
(移動系スキルか)
それを使えば、☆3つのスキルでも五秒以内に全ての的を貫ける所へと十分移動可能である。
つまりこのフロアの課題は弓術 ✕ 移動系。
(だが……恐らく一番の問題は俺の弓術。
それほどの速さであちこち移動しながら、弓を射る時に1ミリでも誤差が生まれれば、矢を的にかすらせる事すら出来ない。
最初の課題でこれは、なかなかの──)
こうして俺は突然、階級総入れ替えバトルが行われるまでの間、過酷な訓練を乗り越えながらこのタワーの30階まで攻略する事となったのであった。
……To be continued……
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次回:第30話 SECOND⇐
✱最終改稿日:2020/11/14
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