第22話 PROMISE⇐


「おい、ハク! まさかこんな練習試合エキシビションマッチで、俺がここまで本気になれるとは思わなかったぞ。久しぶりにスカッとする対戦が出来た。感謝する」


 カリアス団長は対戦直後なのに元気よく、爽やかな笑顔でそう言うと、床に腰を下ろしている俺に強靭な右腕を力強く差し出す。


「あ、いえ、こちらこそ」

「ん……それで、お前は秘密シークレットスキル取得者って事でいいんだよな?」


(……?)


 俺は立ち上がると、初めて耳にしたその言葉に首を傾げる。


「やはり、自覚は無かったのですか」


 すると、知らぬ間に俺の近くに立っていたロキさんが、何かに納得したように首を大きく縦に動かしながら口を開いた。


「え?」

「……どこからどう見ても、さっきの貴方は、“秘密シークレットスキルNO.13、人格切替パーソナリティスイッチ”を発動していましたよ」

「シーク……?」

秘密シークレットスキルです。

 このゲームの裏スキルの事ですよ」


 俺は、あれが裏スキルだと言われて、あっそれか! とすぐに納得できるほどゲーム経験が豊富では無い。


 キョトンとした顔をして、ロキさんに詳しい説明を促した。


 それを見たロキさんは仕方ないですね、とでも言いたげに、ふぅ、と息をついてから身体の前に腕を組み、壁に背をつけ目を瞑る。



「あれは……まだDAYBREAK夜明けが結成する前の事ですね。コーザと呼ばれる町にある大きな図書館で、表紙に『(新)騎士道の書』と書かれた分厚い一冊の本を見つけたんですよ。そして、その本のあるページには記してありました」




-----------------------◀︎◁◀︎◁-------------------------


秘密シークレットスキルについて]


それは【the Age of Chivalry騎士道時代】の裏スキル。


騎士ユーザーのが、□□□□を超えた時、それは取得可能となる。


そして、その条件を満たした騎士が△△△△の場所へ行き、〇〇〇〇の行動をとった時、それは完全にその騎士ユーザーの物となる。


     シモン・リュイ『(新)騎士道の書』


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「……まあ結局この時、このゲーム内に秘密シークレットスキルなるものが存在し、それがステータスⅠの値に関連する、という事ぐらいしか分からなかったんですけどね」


秘密シークレットスキル……そんなんがあったのか。ん? いや待てよ、、、)


「え……じゃあ、なんで俺が────」

「こちらがお聞きしたいくらいですよ」


 ロキさんが、俺の質問をいつもと違う冷ややかな声で遮る。


(……ということは、俺のあのスイッチはこのゲームのスキルだったのか。ははっ、俺はてっきり、ゲームの世界に浸りすぎると人間は二重人格になってしまうもんなんだ、くらいに思ってた。ん……いや、だとしても、そんな裏スキルなんて手に入れた覚えは──)


 知らず知らずのうちに手に入れていたそのスキルに、不思議と恐怖はなかった。


「しかし、おかげで何となく、秘密シークレットスキルの獲得条件だけは分かるような気がします」


 ロキさんの声はもう、いつも通り妖艶で色気のある声に戻っている。


「ほ……本当か! ロキ」

「ええ、恐らく。団長、ハク、SORDソードの表示からステータスⅠを見せて貰っても宜しいですか?」


「え……いいですけど」

「え……別に構わんが」


────────────────────

ユーザー名:カリアス


PROWESS優れた戦闘能力:SSSSS

COURAGE勇気、武勇:SSSS

DEFENSE教会、弱者の保護:S

HONESTY正直さ、高潔さ:S

LOYALTY誠実、忠誠心:S

CHARITY寛大さ、気前の良さ:S

FAITH信念、信仰:S

COURTESY礼節正しさ:S

────────────────────

ユーザー名:ハク


PROWESS優れた戦闘能力:SSS

COURAGE勇気、武勇:SSS

DEFENSE教会、弱者の保護:S

HONESTY正直さ、高潔さ:SS

LOYALTY誠実、忠誠心:S

CHARITY寛大さ、気前の良さ:SSS

FAITH信念、信仰:S

COURTESY礼節正しさ:SSS

────────────────────


「ええ……やはり、そうだと思います」


 レンヤさんとシオンさんを含めたその場にいる全員が、SORDソードを覗き込み、目に確信の色を帯びたロキさんの横顔をじっと見つめる。


 長く沈黙が続いた。


 しかしロキさんは、フッと一瞬だけレンヤさんの方に目をやると、


「まあ、お二人は選ばれし人間だという事ですよ。──ふふっ、やはり、細かい事はまた今度にしましょうか」


 そう言って、全員の期待を裏切った。




「それより、ハク。

 約束は守って下さるのでしょうね?」


 何事も無かったかのように完全に話を変えたロキさんは、今度は俺に視線を移し、わざと脅すような声でそう言って笑いかける。





「え……約束? あっ!」



 それまですっかり忘れてしまっていた。


 俺の今後に関わるそのとても大事な約束を、俺はロキさんにそう言われてやっと思い出したのだった。








        ……To be continued……

────────────────────


次回:第23話 JOIN⇐

✱最終改稿日:2020/11/01

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