第21話 GEAR⇐
それは、ある一定の条件を満たした騎士ユーザーがある一定の場所に行き、ある一定の行動をしなければ取得出来ない、このゲームの裏スキル(※)。
※ここでは、公表されていないスキルの事。
しかし、その取得条件、場所、行動の全ては、どんなに強い騎士ユーザーの力をもってしても未だに微塵も解明されていなかった。
それどころか、騎士ユーザーの多くはその存在すら知らずにこのゲームの中にいる。
Sクラスの騎士団である
戦況を察したロキが
「ナツ、シオン、レンヤ。
……これは副団長としての命令です。
今から目にするものは、何があっても決して口外しないようお願い致します」
ハクとカリアスの一糸乱れぬ攻防を前に参戦する気力も無くし、既に
「……え」
一瞬、時が止まったかのように部屋から音が消え去り、戦っている2人以外は、次の言葉を発するであろうロキの顔を固唾を飲んで見守っていた。
その時。
──ジジ……カチッ
部屋を支配していた静寂を、耳に軽く触れる程度の微かな機械音が打ち破る。
そこから、戦況は一変した。
逃げるハクと追うカリアス。その構図は未だに変わっていない。しかし、それを眺める傍観者達の戦う二人の残像を追う首は、これまで以上に激しく上下左右へと動かされた。
──ジジ……カチッ
再度鳴った機械音。
〔……っ〕
【現在の獲得ポイント:20000】
ポイント表示が現れる。
しかし、ハクのポイントは変わらない。
そう、変わったのはカリアスのポイント。
──ジジ……カチッ
〔……ぐっ〕
【現在の獲得ポイント:20000】
またハクの表示は変わらない。
──ジジ……カチッ
〔……う〕
【現在の獲得ポイント:20000】
──ジジ……カチッ
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『YOU LOSE』
俺の目の前にさっき見たばかりのその文字が、再度鮮明に浮かび上がる。
本日二度目の敗北。
最後の残り1分、俺は対峙していたカリアス団長に指一本触れさせてもらえ無かった。
一方的に攻撃を喰らい続け、あっという間に逆転された。
(……完全に敗けた)
このスイッチを手に入れて以来、敗けたのはこれが初めてだった。どっと疲れが身体を襲い、近くの壁に背中を添わせながら、膝を折ってストンと腰を床に落とす。
「ふぅ……」
俺は顔を上に向けて目を瞑ると、深く息をついた。
しかし、この時の俺は驚いていた。
秘策まで持ち込んで全力で挑んだはずのこの対戦の敗北に、自分が凹んでいないどころか、謎の清々しさすら覚えている事に。
「……もう、いいのか?」
レンヤさんが俺の様子を伺いながら、恐る恐る尋ねてくる。
「……? 大丈夫ですよ」
「そうか」
レンヤさんは俺の目から見ても明らかに動揺しており、二人の空気はチームだったとは思えないほど何だかぎこちなく揺れている。
そしてまた、
「ふふっ……」
「おい、ロキ。団長も──」
ナツは、微笑んでいるロキに漸く核心に迫った質問をしようとする。
「ええ、そうですね」
ロキは当然の事のようにナツの言葉を遮ってそう答えると、そのままゆっくりと言葉を紡ぎながらこの状況を淡々と説明していく。
「団長が負けるはずが無いんですよ。あの人はこのゲームの運営開始直後に
「いや、でもこれまでそんな素振りは──」
「言ったでしょう、十分の一だと。
慢心されてしまうと困るんです。貴方はともかく、普通の騎士団員達は。それに──」
そう言うと、ロキは何かに思いを馳せるようにふっと視線をナツから逸らした。
しかしそれ以降、伏せられた目をもう一度細めただけで、ロキは何も口にしなかった。
◆
このゲーム内には、全部で20の
そして、その中で最も早く取得されたと言われる、
それは、
[
ギアチェンジにより、身体能力を通常の何段階も引き上げる事のできるスキルである。
……To be continued……
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次回:第22話 PROMISE⇐
✱最終改稿日:2020/11/01
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