第18話 MANUAL⇐


「ははっ、さすがだな。ロキ!」

「……ふっ、それはこちらのセリフですよ。

 ナツ、良くやりましたね」


「お? 珍しい事もあるもんだな」

「はあ……人がせっかく褒めてみたら」



 ロキさんとナツさんの楽しそうな会話が耳を掠め、俺はやっと負けた事を自覚する。


 勝敗にこだわらず、楽しく戦える事が出来ればいいと思って引き受けた対戦だったが、楽しむ暇さえ与えて貰えなかった。


 昔、現実世界の方で何度も味わったその感覚がじんわりと胸の奥へと広がっていく。


(ああ……懐かしいなぁ、この感じ)


  

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「辞める? どうしてだ」

「だって、……楽しくないんだもん」

「……弱い奴に楽しさなど分からん。

 そういう事は強くなってから言え」

------   --------------------------------   -------



 幼い頃に習っていた空手の師範代が、口にしていた言葉をふと思い出す。


 かた組手くみてを毎日毎日何時間もひたすら練習し、それでも地元の大会ですら一勝もした事の無かった昔の俺は、楽しくないと言い訳をして、何度もそれから逃げようとした。


 「うーん、確かに楽しくない」


 俺はわざと昔の自分に答えるよう声に出してそう言うと、一度大きく両手を広げて深呼吸をし、レンヤさんの方へと振り返る。


 立ち上がり、服のしわをパンパンとはたきながら直しているレンヤさんと、ばっちり視線が重なって、お互いに乾いた笑いを浮かべた。


〔すまん〕


 小さくそう聞こえる。



(……)


〔いえ、レンヤさん、次行きましょうか〕


〔……ははっ、凄いな。お前。今の食らった後で、そんなに早く切り替えられるか?」


〔ふふっ、いえ、さすがに驚きましたよ。でも、Sランクの騎士団を率いるカリアス団長に試したいものを思い付いたんで。逆にワクワクしてきちゃって〕

「え……試したいもの?」


 そう、その時俺は次の対戦をしっかりと楽しむ為、ロキさんとナツさんより手強いはずのカリアス団長に対して、ある秘策を思いついていた。


の方は、久しぶりだな)


 そして、まだ1戦目の余韻が抜けないうちに、俺はすぐに2戦目を迎える。


 今度はロキさんが俺達の前に出て、1戦目と同様に全体設定をおこなっていく。


 しかし、今回の設定は1戦目とは大きく異なる内容だった。



 練習試合エキシビションマッチ2戦目


[今回の練習試合エキシビションマッチの全体設定]

・対戦人数:2▲▼ VS 2▲▼

チーム1『ハク』&『レンヤ』

チーム2『カリアス』&『シオン』


・対戦形式:『選択してください』

〇バトル形式

●ポイント獲得形式(※)

〇拠点奪取形式

〇……


(次は……ポイント獲得形式(※)。丁度いい)


※移動系スキルしか使用できない対戦バトル形式。制限時間内に、相手に与えたダメージ量がポイントとして換算され、その総数を競い合う。


・制限時間:3分


・スキル系統制限:『選択できません』

●移動系のみ使用可能

(☆上限:★★★★★まで)


・装備制限:『選択してください』

●なし(装備無し可)

〇なし(装備無し不可)

〇盾不可

〇弓不可

〇短剣、投げ槍不可

〇それ以外の装備不可→選択へ

(所有上限:2▲▼)


『【確認】この内容でよろしいですか?』


YES⇐

NO


────── Now Loading ……─────


 その変更に合わせる形で、俺もまた、個人設定を前回とがらりと変える。


『ハク』

・装備:『選択してください』

○剣(短剣可)

〇槍(投げ槍可)

〇盾

〇……

●なし


(さて、初心にかえってみようか)


・スキル系統:『選択できません』

●移動系



 俺はレンヤさんと話し合いながら、再び個人設定を済ませると、レンヤさんに1つ頼み事をした。


「あの、────────────?」

「……え?」

「もし暴走した場合は、何人かけてでも、心臓さえ刺して下されば止まりますんで」

「あ? 何人かけてでもって……。

 そんなに強いのか? お前は」



 そして俺は何時いつになく真剣な表情で、もう一度レンヤさんの目を見て返事をする。



「はい……少々体力は消耗しますが、強いですよ。もう1人の方は、、、特にね」








        ……To be continued……

────────────────────


次回:第19話 ANOTHER⇐

✱最終改稿日:2020/11/01

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