第14話 LEADER⇐


 突然の破壊音。


 俺とランスはその音にだいぶ驚いたらしく、気がつけば邸宅の入口と思われる大きな扉から数メートル離れた所まで後退していた。


(うわぁ、びっくりしたぁ)


 暗くて状況がよく分からないので、ひとまず扉の近くへと戻っていく。


 その間、俺達が目にした光景はこれぞ混沌カオスといったものだった。



 真っ先に目に入ったのは、邸宅の中から光が漏れる大きな穴。……うん、穴。


 そして、草花が生い茂る庭園と豪華な邸宅の境界線付近で綺麗な一列に並べられた横長の花壇には、粉々に砕かれた扉の木片やぶち破られた錆びた金具が散乱している。



「……はぁ」

 目を伏せて深いため息をつくロキさん。


「ぶはっ、はははは……っ」

 思わず吹き出し、お腹を抱えて大笑いしているナツさん。


 そして


 右手に大斧を持った男。


(ぜ、絶対にあれが犯人だろ。それに……)


 彼もまた見ればすぐに分かった。それは威厳や貫禄という言葉では言い表せない。さっきロキさんに感じた存在感ともまた違う。


 それは単純に──強者の圧力。


 俺がこの先何十年鍛え続けたとしても辿り着けるか分からないその強靭な身体。斧一振でこの丈夫そうな邸宅の扉をここまで木っ端微塵こっぱみじんにしてしまう馬鹿力。


 その全てが、この人が何者であるかを俺に物語っていた。


(間違いない。

 この人がDAYBREAK夜明けの団長だ)


「お? どうしてFinlandフィンランドの連中までいるんだ?」


 屈強そうな見た目に反して、明るく軽い音調トーンの声が耳に響く。


「ふふっ、私の判断です。申し訳ありません。

 少し……面白そうでしたので」


 ロキさんはいつ表情を作り直したのか、口元に微笑を浮かべて、その男を見上げる。


「ははっ、そうか。確かに面白そうだな。

 全員入ってもらって結構」


(……)


「あ、騎士以外の者は滞在してもらう2、3日の間、暇になると思うがそれでもいいか?」


 その人は続けてそう言うと、フィンさんとランスを鋭い目で捉えた。


「も、もちろんです」


 フィンさんとランスの表情には一気に緊張が走り、ピシッと気をつけの姿勢になった二人は、口を揃えて畏まった返事をする。


 これではまるで、俺たちが望んでここへやって来たみたいだ。


 するとその人はニヤリと悪戯いたずらっぽく笑った後、あたかもそこが元々入口であったかのように自分で作った大きな穴を平然とくぐり抜けて中へ入っていった。


「驚かせてしまい申し訳ありません。団長はお酒が入ると無性に扉がわずらわしくなるそうで──」


(ははぁ、それはそれは大変珍しい酒癖で)


「おーい、早く中へ入れ」


(でもやっぱあの人が団長か。見た目と行動は怖すぎるけど、なんか良い人そうだった)


 邸宅の中からこもった声で団長に急かされると、ロキさんとナツさんが顔を見合わせて仲良く笑い合う。

 

(……言いたい事は山程あるけど、意外に団員同士仲の良い騎士団なのかなぁ)


 もしかしたら、Sランク騎士団というのに引っ張られすぎて、俺らが勝手に悪いイメージを抱いていただけなのかもしれない。


「ふふっ……今夜は泊まっていくといいですよ。今からちょうど夕食の時間ですのでそちらもご一緒にどうぞ」



  ◆



「ぎゃはははっ」

「ぶはっ、団長また扉──」


 案内された方へ向かうと、ガチャガチャという荒い食器音と共に、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「お! ロキさん、ナツさん。

 おかえりーっす」


 食堂にいた騎士団員の一人がロキさん達に気付いて挨拶すると、そこにいた全員がザッと一斉にこちらを見た。


「あっ! レンヤさん!?」


 一人の騎士がレンヤのもとへ駆け寄る。


「お久しぶりですね! レンヤさんもまたこっちの騎士団に戻られるのですか!?」


(え──)


 その騎士の一言で、ほんの僅かだが場の空気が揺れた。全体で凡そ150人程いると思われる騎士の中で、数名の表情が固まったのを俺は見逃さなかった。


「はっ、こんなうるせえ奴らしか居ないとこ誰が戻ってくるかよ」


「ぶはっ、ひっでえ! 仮にも前一緒に戦っていた仲間に向かって!」


 再び場は大きく盛り上がり、温度の高い笑いに包まれる。


 しかしその大きくなる笑い声と反比例するように、レンヤさんの横顔は徐々に氷のような冷たさを帯びていった。


「さあさあ、ロキ副団長とナツ軍帥も早く座って下さいよ」


(……副団長と軍帥(※役職名)!!)


※副団長:団長の補佐。騎士団のNO.2

 軍帥:軍を指揮する総大将

(役職は必ずしも実力・階級に比例しない)



「やっぱ違うな。Sランクの騎士団は……」



 今日は色々あったからか、やたらと俺の神経が研ぎ澄まされており、些細な事が気にかかる。だから俺の感じたそれは、結果として杞憂きゆうに終わるのかもしれない。



 だがその時、ランスが小声で呟いたそのごくごく普通の一言は、確かな重さを持つ言葉として、じんわりと鈍く、しかし、とても強く俺の心に響いていた。


 





 

        ……To be continued……

────────────────────


次回:第15話 EXHIBITION⇐

※最終改稿日 2020/10/03

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