第10話 KNOCK⇐
『ワープが完了致しました』
◇ラン◇
俺は友人のランスと情報屋のフィンさんと共にランという街にやって来た。
この街は俺が今からちょうど一年程前に拠点登録した場所。
拠点とはユーザーがその登録した場所に各自の家や酒場を自由に建てられる権利の事で、このゲームの拠点登録上限数は4。
その中で俺が最後に登録したのがこのランという街だった。
そして、このランという街にある俺の家はワープゾーンからだいぶ離れたラギド
山や水辺に囲まれた自然豊かなこの街は人気があり、俺の他にも拠点登録している騎士は多い。
「ひとまずナデル川 (※)沿いにあるレンヤの家に行くぞ。あいつもこの街を拠点登録して、ほぼ定住してるみたいなもんだ」
※ラギド山の山頂から麓へと流れる一本の長い川。
(スキルっぽいの使ってたし、レンヤさんって人はやっぱり騎士なんだろうな)
フィンさんが笑う事なくそう言うと、ランスも俺もその後に続き、足早にレンヤさんという人の家に向かう。
第一印象が陽気そうだっただけに、それに似合わないフィンさんの険しい横顔が俺の気を一層引き締める。
誰も喋り出さないまましばらく進むと、ようやく澄みきった水の煌めくナデル川に突き当たった。
「わぁ、綺麗」
ランスがそう、声を漏らす。
俺は一度来ているはず。なのに、こんなに水が綺麗だったかと驚嘆し、あまり記憶に残っていない事に疑問すら感じていた。
そして川沿いをさらに山頂の方へと少し進む。すると、1つの家が見えてきた。
「お! あれだあれだ」
先を行くフィンさんは、その家を見つけた途端俺たちの方へ振り返りそう言うと、久しぶりの笑顔を向ける。
「あ、ひとつだけ忠告だ。レンヤは基本的に人が好きじゃない。というかまあ……色々あってな。あまり彼について詮索するような質問はしないこと! 分かった?」
(人が……好きじゃない? さっきのコンタクトでも口調はキツかったけど、気難しい方なのかな)
その時の俺は、忠告の意味をよく理解出来ずにいた。が、レンヤさんの家に着いてすぐにだいたいの内容を把握した。
──ワンワンッ
──ニャアァァ
──メエェェー
「……」
そういう事。──いや、どういう事だ。
シンプルな造りの赤い屋根の家の周りには大きな正方形の白い柵が張られていて、その中がたくさんの動物で溢れ返っていた。
そしてその中に……立派な鎧を身に纏った騎士が一人埋もれていた。
「おっすぅ、レンヤ。ぶはっ、また増えたな」
フィンさんは、それが当たり前の光景かのように動物達を無視して、さっさと玄関に向かって突き進んでいく。
(あ、この状況には触れないんだ)
「はっ、そっちが勝手に来たからだろう。毎度毎度急に訪ねてきやがって……」
さっきまで動物を可愛がっていたその黒髪の男性は、人間に対しては一気に態度を冷たく豹変させる。そして、無愛想で呆れたように俺らの事を一瞥した。
「……入れ」
そう顎で玄関の方へと促されたので、俺もランスも動物達のいる庭のような空き地を素通りして、家の方へ進んでいく。
──ニャア
フィンさんの肩に乗っかるネコ。
──ワンッ
ランスの足を舐め回す犬。
そして、俺の頭上には、
──コケコッコー
なぜか鶏。
(まあ確かにこの件には触れない方が吉か)
動物達を庭に戻しようやく家の中に入った俺達は、レンヤさんと軽く挨拶を済ませた後で早速本題へと移る。
「まずフィンの情報を踏まえた俺の勝手な見解を言うと、お前の後をつけてきた奴は十中八九
(
「え、それって……あの
隣にいるランスの肩がピクリと反応し、驚いたように目を見開く。
「ランス、知ってるのか!?」
「へ? 知ってるも何もものすごく有名な騎士団じゃないか。結成当初からずーっとSランク。しかも前回のSランク騎士団戦では3位に終わっている。……まさかハク、ランキングも確認してないのか?」
自分の無知さに笑えてくる。俺は未だにそのランキングとやらをどう見るのかすら知らない。
「へぇ、そんな強い騎士団なのか。あは、あは……あはは」
とりあえず笑って誤魔化──せてはいない。
「あ、すみませんレンヤさん、説明の邪魔をして。続けて下さい」
ランスが気を使ってそう言った時、どういうわけか、レンヤさんは呆然としてその場で固まっていた。
「あ、ああ。その
※幹部
団長、副団長、軍帥、参謀、及び各部隊長。
「……どうしてそこまで分かるんですか?」
俺は自信ありげに次々と話を進めていくレンヤさんが不思議で、恐る恐る尋ねてみる。
すると、それに答えたのはフィンさんだった。
「ははっ、そうきたか。レンヤ、お前のステータスを見せてやれ」
〈ステータスⅡ〉
レンヤ 【Lv.???】
職業:騎士
称号:超上級サーチャー
階級:少尉 〈
スキル:移動系 ☆
飛行系 ☆
感覚系 ★★★★★
「……わっ! 感覚系がずば抜けて!?」
レンヤさんのスキル系統は異様なほど感覚系に偏っていた。
「ふふっ、凄いだろ? 感覚系だけならこいつは誰にも負けない。これが我が騎士団の少尉なのさ!」
なぜかフィンさんが偉そうに言い放つ。
(そういえば、あれ……我が騎士団?)
「フィン。お前は団員じゃないだろ?
ただ……オスカー団長の愛妻なだけで」
(え──)
「だっ、団長の奥さんだったんですかっ!?」
俺が驚いて声を上げる前に、隣のランスがひっくり返った。
「ああ、そうだ」
したり顔で仁王立ち。
「オスカー団長は少し……いやだいぶ鬱陶しいくらいの愛妻家でな、こいつのせいで騎士団名は
家の中が大きな笑いに包まれる。
(オスカー団長って人、慕われてるんだな)
クールで怖そうなレンヤさんが吹き出していて、俺までとても暖かい気持ちになる。
その時
「ここです」
──コンコンッ
その緩んだ空気に水を刺すように、乾いたノックが俺たちの耳に届いた。
……To be continued……
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次回:第11話 BUG⇐
※最終改稿日 2020/10/03
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