第8話 SKILL⇐


『4人のうち2人が脱落! 残るは騎士団WhiteTiger白虎大尉テンヨウ。と、まさかの騎士団未所属新兵ハク! なんと、今大会注目のダークホースが遂に優勝目前まで迫っております。有名騎士団の大尉テンヨウとしても意地でも負けられない戦いとなった事でしょう。さあ、この対戦の結末やいかに!』



(相手はテンヨウ。ガタイのいい人は足元が弱いって言うけど…………ははっ、馬だしな)


 俺は再度作戦を練り直す。あの意外に素早い盾を掻い潜り、テンヨウのふところに入る方法を必死に探していた。


 恐らくこちらから仕掛けるのを待って、カウンター(※)というのがテンヨウの理想。


※守備から一転して攻撃に移ること。

 

 俺は使えそうな自分の習得済みスキルを思い浮かべてみる。


(あれだと……いや、ダメだ。間に合わない。じゃああれか? お! それにしよう)


 働かせた頭の中で、この場面に丁度いいと思われるスキルをやっと見つけた。

 

 そして俺は低い声で小さめに唱える。


 「げつ」

 「せつ」


◉チュートリアル (※読者様にだけ見えます)

[スキルの発動方法]

(1)移動系、飛行系、感覚系のそれぞれに騎士ユーザー独自の合言葉を決める。


ハクの場合

移動系:「せつ」

飛行系:「げつ」

感覚系:「か」


(2)使用したいスキルの系統を発動する合言葉を口で唱える。


(3)発動したいスキルを心の中で唱える。


以上、手順はこれだけ。


[発動スキル:飛行系 ☆☆☆ ── 高飛びハイジャンプ


 俺はそう唱えると、ぐんっと思いっきり馬の背を蹴って、盾を構えるテンヨウの頭上に飛び上がる。


「発動スキル:移動系 ☆☆ ── 瞬間移動テレポーテーション


 そしてそのまま盾を下に向けると、相手から身を隠すように体を縮めて、自分の盾の裏側に両足を乗せる。そうして、彼の上に盾と馬ごと潰す勢いで一気にのしかかった。


 攻撃が少し逸れて、テンヨウは俺と一緒に馬から転げ落ちる。


ふところにさえ入ってしまえば──)


 俺は右腕を素早く振りかざした。


──グサッ


『YOU WIN!』


 まだ気を緩めることなく相手を睨みつけていた俺の前に、その表示が浮び上がる。


『………っし、勝者は新兵ハク!!!』


 というわけで、俺は優勝できてしまった。



──ピピッ


『ステータスⅠが変化しました』


(お? 変化? なんか久しぶりだな)


 俺は慣れた手つきで空間をダブルタップしてSORDソードを開く。



〈ステータスⅠ〉 ユーザー名:ハク


PROWESS優れた戦闘能力:SSS

COURAGE勇気、武勇:SSS

DEFENSE教会、弱者の保護:S

HONESTY正直さ、高潔さ:SS→S

LOYALTY誠実、忠誠心:S

CHARITY寛大さ、気前の良さ:SSS

FAITH信念、信仰:S

COURTESY礼節正しさ:SSS


(ふっ、HONESTYのランクが一個下がった。あの作戦はやっぱ卑怯だったってか?)


「おい、小僧。人をこれほどまでに負かしておいて何を笑っている」


 鎧の隙間に槍を刺されたテンヨウが、自力で起き上がって俺に話し掛けてきた。


「あ、いえ。何でもないです」


 慌てて表情を取り繕ったがもう遅かった。


「おまえそれ…………ぶはっ、そりゃあ俺じゃ適わんわけだ」


 彼は俺のステータスをのぞき見て、どこか納得したように声を上げて笑う。


「お前にだまされたという事か────俺も、この会場全体も。

 ふんっ、次は騎士団同士でやり合おう。もちろん入る予定なんだろ? これから」


 見かけよりだいぶ爽やかな笑顔。


「はい、その予定です。ではまたその時に」

「はっ、もちろんそのつもりだ! たかが一回勝ったくらいで調子こいてんじゃねぇぞ。次会った時は……驚くなよ?」



「はいっ! 次も負けません!」


 俺はわざとらしく胸を張って、その場で敬礼してみせる。


「くくっ、生意気いいやがって。またな!」



 テンヨウと挨拶を終えると、俺は地鳴りのように唸る会場全体に一礼をして、その場を後にした。



  ◆



「おい! ほんとにもう行くのか? 表彰式に出ないと報酬は貰えないぞ。いいのか?」


「はい。元々報酬の為に参加したわけでもないですし、ああいうのはあまり得意では無いので大丈夫です。報酬はこの街の皆さんで山分けという事にしていただいて」


 俺はロイドさん達の反対を押し切り、バトルコロシアムの表彰には顔を出さずにハリアットの街を去る事に決めていた。


 もちろん、さっきロイドさんに話したような理由もあるのだが、その一番の理由は心配かけたくなくて隠しておいた。


「……ッ!」


(またこの気配。何だ? 試合後からずっと、俺の後をつけている者がいる)


「い……いいのか?」

「あ、はい! 俺は騎士ですからね!」


 俺は満面の笑みを浮かべてみせる。


「そうか、じゃあそうさせてもらうよ。

 またいつでも来いよ、ハク」

「はいっ! 色々とお世話になりました。

 必ずまた戻ってきますよ!」


 頭を下げて、踵を返す。


 ポンポンッ


『どの拠点にワープしますか?』


〇ベルンゲン

〇ワビサビ

●ソメタナ

〇ラン


「ロイドさん。それではまた!」

「ああ!」


(騎士団に、と思ったが後ろの奴の素性を把握したいから一旦ランスの所に戻るか)


────── Now Loading ……─────


──ザッ


(よし、着いた)








        ……To be continued……

────────────────────


次回:第9話 SEARCH⇐

※最終改稿日 2020/09/30

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る