第3話 ENTRY⇐


◇ハリアット◇


 着くとそこは、煉瓦の敷き詰められた大通りの両脇に、商店街や住宅がずらりと立ち並ぶ繁華街だった。


(おお……こんなに大きい街は久しぶりだ。

 あ、あれがバトルコロシアムか?)


 きょろきょろと辺りを見渡していると、数メートル先に道の赤茶色煉瓦とはまた別の、巨大な灰色の煉瓦で造られた立派な円形闘技場が見えた。



 俺はとりあえずそこを目指して歩く。


「おい、兄ちゃん。お前さん新兵か?」


 急に俺より確実に年上であろう、白髪混じりの男性に話しかけられた。


「……はい。そうですが」


「やっぱりか。もしバトルコロシアムに参加するつもりならやめといた方がいいぞ」


(え? 騎士団の情報が入るなら参加しよう、と思っていたけど……)


「どうしてですか?」


 すると男性は、闘技場を指さして


「ここは有名騎士団の尉官 (※)クラスが毎回何人か参加するんだ」


※階級(騎士団が最大規模の場合)


元帥

大将  中将  少将  准将 ← 将官

大佐  中佐  少佐  准佐 ← 佐官

大尉  中尉  少尉  准尉 ←〘尉官〙

曹長  軍曹  伍長  兵長 ← 長官

上等兵 一等兵 二等兵 新兵 ←下級騎士


※役職と階級は別。



(有名騎士団の尉官クラスか。それは逆に騎士団の力を測るいい機会かもしれないな)


「俺、参加してみる事にします」

「え、ボコボコにされて自信無くしちまうかもしれんぞ?」


(ふっ、凄いストレートに言うなぁ)


「その時はまた考えます。やってみたら何か分かるかもしれませんし──」

「はっ、それもそうだな。よし! お前のその無鉄砲さ気に入ったぞ。エントリーしたらすぐにここに来い。あ、俺は『ロイド』だ」


「えっ、あ……」


 そう言うと俺に小さな紙切れを渡して、その人はすぐにどこかへ行ってしまった。


(ろ、ロイドさん……自由な人だな。まあ悪い人じゃなさそうだし、後で行ってみてもいいか。とりあえずエントリーしよ)


 円形闘技場に近づき、エントリー受付中と書かれたアーケードゲームのような機械の前に立つ。


『こちらはバトルコロシアムのエントリー受付所となっております。バトルコロシアムinハリアットにエントリーしますか?』


YES⇐

NO


〈このイベントで使用可能な装備〉


武器:『2つ選択してください』

○なし

●槍(投げ槍不可)

〇剣(短剣不可)

●盾

〇鎧

〇兜


軍馬:『選択してください』

〇使用しない

●レンタル

○自身の軍馬


──ピピッ


 武器:槍・盾 軍馬:レンタル


『【確認】この内容でよろしいですか?』

エントリー⇐


キャンセル


(うん。これで大丈夫だろう)


──ピピッ


『エントリーが完了致しました。エントリーNO.103です。お忘れなく。それでは、明日の10時までしばらくお待ちください』


(103……そんなに参加するのか。こんなにいたら待ち時間が退屈そうだな)


 無事にエントリーを終え、明日の10時まで暇を持て余す俺。


(ん……あれ、なんか忘れて?

 あっ! さっきの人の所へ行くんだった)


 そうして俺は、受け取った紙切れに書かれている場所へと向かった。




(ここか?)


 辿り着いたのは、コロシアムからそう遠くないハリアットの中心部。コロシアムはイベントが頻繁に開催される為、人の出入りが多いワープゾーンや入口の方へ少しだけ寄っている。


 そして地図のバツ印には、渋い緑の屋根をした木造建築で建てられた立派な一軒家。玄関先のネームプレートにはスミスと書かれている。


──


 俺は思い切ってその家のベルを鳴らした。


「おお! 兄ちゃん。

 エントリーは出来たかい?」


 中からさっきの男性が元気よく出てきた。


「はい、終わらせてきました。

 それで……あの、どうして俺をここに?」


「いやぁな。さっきはすっかり言い忘れちまってたが、俺は“鍛冶屋”なんだ」


(鍛冶屋! ★★★の職業だ。

 ……というかこの人、昔はけっこう強い騎士だったんじゃないか?)


「だから、お前さんに何か装備をくれてやろうと思ってな。どうせお兄ちゃん、ろくな武器持ってな──」


 そこで、ロイドさんの声が途切れた。


「……?」


 俺は首を傾げる。


「おい、兄ちゃん。その剣どうした?」


 さっきまで上機嫌だったロイドさんは、急に真剣な顔をして、俺の黒いマントの下に隠れていた剣を見つめる。


「え……ああ、これはラギドさんの頂上にあった岩の隙間に刺さってたので、引き抜いて貰ってきてしまいました」


 少し間があいて、もう一度口を開く。


「もしかして持ち主をご存知なんですか?」


 正直、その剣は握りの部分に光る赤色の宝石が綺麗でなんとなく惹かれて持ってきただけだし、旅の途中もし持ち主が見つかったらそれはもちろんお返ししようと思っていた。


 しかし、


「いや……知らないな。勘違いだったよ」


 そう言って口を閉ざしてしまったロイドさん。


 その時、俺を見る彼の瞳は、その言葉とは裏腹に、明らかな悲哀の色を帯びて奥を激しく揺らしていた。








        ……To be continued……

────────────────────


次回:第4話 READY?⇐

※最終改稿日 2020/09/28

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