第2話 JOB⇐
「わぁぁ! きしさまだ。かっこいい!」
子供達が一目散に駆け寄ってくる。
「はい、これ。今月の分な」
(本当にこれで足りているのか?)
俺は今、ステータス上げの拠点としていたソメタナ村に住む弱者に食糧や衣服の寄付をしに来ていた。
────
このゲームの世界には、“騎士”という職を辞めるシステムが存在する。
〈職業変更〉(獲得数 186)
現在の職業:騎士
転職する職業:『選択してください』
〇パン屋 ★
〇学生 ★
〇主婦 ★
〇花屋 ★
〇消防士 ★★
〇保育士★
〇……
しかし、この世界にとって“騎士”以外の職業の殆どは弱者に値するのであった。弱者と言ってももちろん身体的な事を表すのではない。これはつまり、“騎士”の助けを必要とする者。
“騎士”は階級によって異なるものの、平均収入や社会的地位が最も高く、このゲーム内での生活に困る事はめったに無い。
一方で、“騎士”を辞めて職業変更を行った人々は、★★★以上の職業でないと収入が少なくて、衣食住すらままならないのだ。
(そこら辺も運営が考慮した上での、このゲームなのかもしれないけど……)
────
「いつもありがとな。ハク」
俺に笑顔で御礼を言ってくれるのは、強い騎士団で行われた新兵試験がトラウマとなり、“騎士”をやめて“保育士”という職を選んだ『ランス』という少年。
元気いっぱいの子供達が外で走り回る中、俺たちは毎回のように挨拶を交わす。
(……っ)
正直俺は、こういう笑顔が苦手だ。それはこの寄付という行為を純粋な善意からではなく、自分のステータスを上げるためにやっている部分もあったから。
「いや……こちらこそ」
俺はいつも、そう言いながらランスの視線を流すしかなかった。
◆
「ハクは戦う事が怖くないのか? 攻撃の痛みに耐えられるのか?」
ある時、ランスが俺にそう尋ねてきた事があった。
「ははっ、もちろん俺だって怖いし痛いよ」
このゲームでは、特別な痛覚を再現している為に出血はしないものの、現実世界では感じた事の無い刺すような痛みが、攻撃を受けた分だけ我々の痛覚を襲う。
実際、それに耐えきれず“騎士”を辞めて転職していく者が後を立たなかった。
数年前、世界中で大ブームを巻き起こしたこのゲームは、発売当初の騎士ユーザー数が約1億、騎士団の数が約200万。
(※なぜこんなに多くの人がゲームの中に入ったかと言うと、それはVRMMORPGプレーヤーが社会に夢を与える、歴とした職業として世界に認められたから)
しかし、今では職業を“騎士”としている者は徐々に減ってきていた。
2XXX/5/29 現在
騎士ユーザー数:4,927,617
騎士団数:379,640
※現在は活動を停止しているものも含む。
「じゃあ、なんでハクは“騎士”をやるんだ?
その職業獲得数ならもっと他に効率よくここで暮らして──」
「なんでって、カッコよくないか!
……騎士っ!」
言葉を遮るようにニッと笑ってそう言った俺に、ランスは「解せない」とでも言いた気に首を横に振って、呆れた表情を見せた。
その頃の俺は、本当に騎士に夢中だった。
「その差かな……」
そう言ったランスの声も耳に届かないくらいに。
「あっ、そうだ。俺ももうそろそろ騎士団に入ろうかと思ってるんだが、どっかいい所知らないか?」
「騎士団? ってか遅すぎるくらいだよ!
うーん、それならハリアットのバトルコロシアムに行けば、何か情報が入りそうな気もするけど……」
「けど?」
「コロシアムは危険だから、生半可な気持ちだと俺みたいにトラウマになっちゃうよ?」
ランスがどこか寂しそうに冗談を言う。
「……いや、ありがとう。行ってみるよ」
俺はそれがなんとなく冗談に聞こえなくて、偽りの笑顔を作り彼に微笑みを返した。
〈開催中のイベント〉
〇バトルタワー
●バトルコロシアム→開催場所の選択へ
〇バトルサミット
〈開催場所〉
○ラミンヘルン
●ハリアット
○カイエン
○セスター
【バトルコロシアム・ハリアット】
──ピピッ
『この場所にワープしますか?』
YES ⇐
NO
(バトルコロシアムか……。
ふっ、これは一波乱ありそうだな)
───────Now Loading……─────
『さあ、明日の10時から始まるバトルコロシアムinハリアット! 参加者の頂点に立ち、栄冠を手にするのは果たして誰になるのか!』
……To be continued……
────────────────────
次回:第3話 ENTRY⇐
※最終改稿日 2020/09/28
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