第11話 ふたり #3
「この一年間だって、結局身体を売ることしかできなかった。家もない未成年が生きるにはそれしかなかった」
彼女の震えるような声は、これまでの苦しかった日々を俺に想像させた。本当は、普通の女子高生として生きていたかったはずだ。
「でも、それも疲れたの。だから2カ月前、男とホテルに向かう途中に寄ったコンビニで、男がトイレに行っている間に逃げ出したの。そして、すぐ裏にあったこのアパートに来て、電気がついている部屋に気づいたら飛び込んでた」
「それがここだったのか」
「うん。最初は私も混乱してたの、何で知らない人の家に飛び込んだんだろうって」
「うん。俺も混乱したよ」
「冷静になって考えても、やっぱりわからないの。ただ、死にたいと思っている反面、どこかで助けてほしいと思ていたのかもしれない。無意識に私の頭がSOSを出して、取った行動なのかもしれない」
「うん、よく分からなかったけど、要するに君を死から救えたことは確かかな」
俺は笑って返すと、彼女も少し笑った。抱きしめる力を強めると、彼女も腕に入れる力を強めた。彼女は、額を胸にぐりぐりと押し当ててくる。俺が頭を撫でると、もっと強く抱きしめて、と言った。
言われたとおりに抱きしめると、彼女は話を続けた。
「でも結局この2カ月で、また疲れちゃった。当然よね、生活は何も変わらなかったんだから」
「今日もそうだったの?」
「うん、2カ月前のあの日と同じ、ホテルに向かう途中に寄ったコンビニでおじさんと会った。場所は違えど、またおじさんに会えて、これは逃げ出さなきゃって思った。おじさんなら私を助けてくれるって」
「一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「聞きたいことというか、謝りたいことが」
「だから何?」
「あの日、俺は君に酒を飲まし、欲情を抑えきれずに君に触れてしまった。一番嫌がることをしてしまったような」
「いいの。おじさんは私の命の恩人だから」
彼女は俺の上に跨るように寝返りを打った。俺は仰向けになり彼女に覆われる体勢になった。彼女と軽く唇を合わせる。
「それにね、おじさんと居ると落ち着くの。セックスだって自分からしたくなる。多分、好きなんだと思う」
彼女は上体を起こし、着ていたトップスを脱ぎ始め、下着姿になった。
「はるか」
「おじさんは、私のこと好き?」
「え?」
「え、じゃない。好きかどうか聞いてるの。YesかNoか」
彼女は俺のYesかNoを聞く前に唇を合わせてきた。舌が口の中に入ってきては俺のそれと激しく絡まり合った。全身がぞくぞくとしてくるような卑猥な音を立てて、それらはぶつかり合う。硬くなったかを確認するかのように、彼女は俺の股に手を伸ばした。
俺の仕草や体の反応が、先ほどの問いの答えになっているのだろう。彼女は返事を聞くまでもなく前戯を進める。
確かに彼女のことは好きだ。彼女とのセックスも好きだ。でも、このままの関係を続けてもいいのだろうか。お互いの傷を舐め合うだけの関係、そこに恋愛感情があったとしても、その先の未来があるとは到底思えない。
彼女はまだ未成年だ。まだ知らないこともたくさんある。これから色んな人と出会い、多くのことを経験して成長していくはず。
対して俺はもう35歳だ。婚約者には逃げられ、母も失くし、ただただ過去を引きずっているだけの男だ。親によって人生を狂わされた彼女とは追っている傷のレベルが違う。
そもそも傷を舐め合っていること自体がおかしい、俺が彼女にしてあげるべきことは他にもあるはずだ。このままのふたりでいいはずがない。
そう思うのに、なぜ……自分も彼女を求めてしまうのだろうか。
――俺もそこらの男と変わらない。ただ、彼女を抱きたいだけじゃないか。
自分の中で整理ができないまま、彼女が行う前戯の途中、無情にも彼女の口の中で果てた。
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