第9話 BURN
エアコンから出る空気は、ほこり交じりの臭いがして、何だか自分の部屋かと思うような居心地の良さがあった。そして昨日知ったこの甘い香水の匂いに包まれるのも心地よい。
部屋のエアコンは見た目のとおり、ぼろく性能も悪い。19度に設定したエアコンから出てくる風でも、涼しくなる気配がない。密着する肌は次第に汗ばみ、この部屋を覆う花の蜜のような甘い香りは、徐々に人間味のある香りへと変わっていく。
ダブルベッドよりも少し大きなベッドの上で、お互い抱き合い、触れたいところに触れ合い、愛撫をする。俺が獣になるのも時間の問題かもしれない。
いや、今夜は彼女も――
昨日のそれよりも激しく深い舌使いが、その先の快感を期待させる。
彼女と肌が触れる個所が徐々に湿り気を増し、べたべたとしてくる。それがよりお互いを密着させ、熱くさせる。より擦り付け合うように体を重ね、その湿気はシーツにまで滲み始めた。
「はるか」
「何?」
「可愛いよ、とても」
正常位で抱きしめ合った状態のまま、俺は彼女の中に入れた。
彼女の喘ぎ声が耳元で聞こえる。その声は幼く、この子は本当に未成年なのだと思わされる。そんな彼女がぼろぼろになるまで犯したいと思っている俺は、やはり人間ではなくなっていた。
彼女の首元に右手を添え、絞めるように首を掴む手に力を入れる。彼女はすぐにその右腕を両手で掴んだ。彼女の顔が赤くなってくる。喘ぐ淫らな声も次第に枯れ始め、小さくなってくる。
俺の右腕を掴んでいた彼女の手がぱちぱちと俺の二の腕を叩いてきたとき、俺は彼女の首から手を離した。
彼女が咳き込んでいる間は、腰の動きを止めた。そして呼吸が整ってくると、彼女は鼻水をすすり、目から溢れ出ていた涙を拭った。
「苦しかった?」
「うん」
「ごめんね」
そう言って、再び彼女の首に手を添える。腰の動きも強め、肌がぶつかり合う卑猥な音が部屋に響く。
「おじさんやめて、苦しいのは嫌」
「ごめんねはるか、今のおじさんは、人じゃないんだ」
「うっ……」
右手に力を入れる。彼女の表情が歪んでいく。俺の腕を握る彼女の力が強くなるほど、首を絞めつける俺の力も強くなる。
「ぼろぼろになる姿が見たいんだ」
――殺されるかと思った。
行為を終えて、ベッドの上で身を寄せ合っているときに、彼女にそう言われた。彼女の息はまだ乱れていた。行為が終わってしばらく経つが、まだ呼吸は整わないみたいだ。
「はるか」
「何?」
「一緒に居てくれてありがとう。毎年この日は辛い。冬よりも夏の方が夜の時間が短いはずなのに、この日だけは夜がとても長く感じる」
「少しは元気出た?」
「うん、でも君をぼろぼろにして満たされたと思うと、心が痛むよ」
「何を今更冷静になってんのよ」
俺は深いため息をついて、ごめんと謝った。別に気にしてないよ、と軽い口調で返事が返ってきた。
彼女は上体を起こし、俺を仰向けにさせた後、俺の足の間でシーツに両膝をつけて座わった。そして股に手を伸ばし、もう役目を終えたはずのそれに触れてきた。
「ねぇ? 私が言ったこと覚えてる?」
「え?」
上下に動くその手は、俺の感度を最短で上げていく。それは俺にとってあまりにも刺激的だった。彼女はきっと、もう俺の身体を知り尽くしている。
「おじさんはまだ、ぼろぼろになってないよ」
彼女は、手のひらの中で硬くなったそれに唇を当てたり、口の中に含めたりした後、俺の股の上に
「待って、何もつけてない」
「いいよ、このままで」
「そこまでして、満たされることを俺は望んでない」
「勘違いしないで」
彼女の口調が少し変わったような気がした。そして、何かを訴えかけるような視線を俺に向け、言葉を続けた。
「別におじさんのためにしてるわけじゃない」
「え?」
「女にだってね、本気で抱かれたい夜ぐらい、あるんだからね」
彼女は自ら、俺の体を中へと導いた。
「おとなしく私に犯される。そして跡形もなく燃え尽きるの。そんなおじさんの姿を、私は見てみたい」
――もうこの先、誰とセックスをしても同じように満たされることはないのではないか。
そう思わされるほど、この日感じた彼女の感触と、下から見た彼女の姿は美しかった。
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