第3話 あの子は今、元気だろうか

深夜にこんばんは。


メトメだよ。


ついさっきやっと仕事が終わって、久々にレモンサワーを飲んでリラックスしながらこの日記を書いているところ。自分、めっちゃお酒弱いんだけどね。


今日はね、高校生の頃に聞いていた曲を漁りながら仕事をしていたんだ。いやほんま懐かしい。イントロが耳に飛び込んできた途端に、当時の風景がぶわっとあふれ出すんだもの。悲しかったこと、楽しかったこと、むかついたこととかいろんな情景がパワーポイントのスライドみたいにつぎつぎ流れていった。


その中でもYUKIのJOYをきいた瞬間の衝撃は桁違いだった。それこそ、海馬を直接鷲掴みにされて、記憶を無理やり引っ張り出されるような感覚。


当時付き合っていた彼女が大好きな曲だったんだよね。

肩のあたりで短く切りそろえられたショートカットに、笑うとなくなったんじゃないかってくらいに細い目。趣味かっていうくらいいつもケタケタ笑う姿。

ほんま、可愛かったなあってしみじみ。


デートは週に1回、近くの公園で夜になるまでお話をするだけ。たったそれだけ。

高校生ならもうすることしてる年頃なんだろうけど、奥手だった僕はまったく手を出せなかった。「手をつなぐ」、たったそれだけのことにもめっちゃ緊張して故障したロボットみたいに挙動がおかしくなる始末。ほんま、男気みせろってんだ、当時の自分。


そんな感じのいたって健全なデートを繰り返して数か月がたったころだったかな。彼女からいきなり電話がきたんだよね。そしてちょうどその日は彼女と会う予定だった。


「ごめんね、メトメ。今日会えなくなったんだ。ううん、もう会えなくなったんだ、本当ごめんね」


彼女はすすり泣きながらそう言ってきた。


そんなドラマみたいな展開あるわけないだろ!って突っ込みがほうぼうから聞こえてきそうですが、まじでほんまの話。


ここでその展開にいたるまでの経緯とか理由とかをつらつら書くと、そのまま朝になってしまいそうだから、めっちゃ端的に書くよ。


僕に電話をくれたときにはもう、彼女は引っ越して岩手に住んでいた。しかも卒業間近だった高校を中退して、自衛隊に入隊していた。


直接聞いたわけじゃないけど、彼女とのデートで聞いてきた話の断片をつなげていって僕が行きついた答えは「両親の離婚」による引っ越し。これは完全に僕の推測なんだけど、たぶん当たってると思う。


結局、あれから本当に会わずに12年たった。最後に連絡をとったのは僕が大学院に在学していたころだから、6、7年前か。実はその時、ちょっとだけ電話をしたんだよね。


「今は横須賀基地で働いているんだよ~!自衛隊で働く女の子って男性自衛官を興奮させないよう、地味な色のパンツしか履いちゃいけないんだよ!それがめっちゃ不満!」


って憤ってたっけ。


その後は、僕が就活で忙しくなったり、あっちも仕事が忙しくなったりして自然と連絡の頻度は減っていき、いつの間にか途絶えた。


あれから僕も恋愛は人並みにしてきたけど、後にも先にも忘れられないのは彼女だけなんだろうな―ってしみじみ思う。


25歳で結婚して、27歳で第一子を産んで、30歳で第二子を産むって言ってたこと覚えてる。そんで今、遥佳のその計画はオンスケジュールだってことも知ってる。


やっべ、これ以上思い出すとほんまに泣きそうなるからこのくらいで。


さて、僕も一生懸命生きないとな。

はあ、彼女できる気しねえんだが。




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