想いを伝えます‼︎
手紙を書いた。
どうすれば皆んなに、ちゃんと想いを伝えられるのか。それを必死になって考えて、それで……手紙が1番いいんじゃないかと思った。
手紙。
そんなものを書いたのは、いつ振りだろうか。そもそも、ここまで真剣に手紙を書いたのは、今までの人生で一度も無かった筈だ。
……そして、自分の想いとここまで真っ直ぐに向き合ったのも、産まれて初めてのことだった。想いを言葉にするのは、辛い。あやふやな想いを確かな言葉に置き換えるのは、宙に浮かぶ雲で工作をするようなものだ。
手に取ろうとしたら、どこかへ逃げてしまう。どれだけ必死に追いかけても、ふわふわと浮かぶだけで決して手は届かない。
でもだからって、辞めるわけにはいかない。だから俺は何度も何度も思考錯誤して、長い時間をかけて5通の手紙を書き上げた。
青臭く、照れ臭いものだけど、でも……それが俺の精一杯だった。だからどれだけ拙いものでも、俺はその想いに胸を張る。だってそれは仕方なく選んだんでも、誰かに無理やり選ばされたんでも無い。
これは俺の意志で、書いものだから。
何度も何度も考えて、何度も何度も想った。皆んなのことは大好きだけど、でも……愛していると言えるのは彼女だけだ。必死に手紙を書くことで、必死に想いを形にすることで、俺は自分の想いをはっきりと自覚した。
俺は彼女が、好きだ。
もっと早く、気が付いていればよかった。それなら、皆んなをこんなに傷つけることも無かった筈だ。でも、ようやく自覚できたんだ。ずっと自分の想いから逃げ続けてきた俺が、ようやく誰をかを好きになれた。
だから、手放したく無い。この想いは、例えどんな結末を迎えるんだとしても、手放すわけにはいかない。
だから俺は、手紙を書いた。その想いが消えてしまわないように。今まで俺に付き合ってくれた少女たちに、少しでも報いる為に。
そして俺の想いが少しでも……彼女に伝わるように……。
俺は、
手紙を書いた。
◇
「皆んな、来てくれてありがとう。……今から皆んなに……俺の想いを、伝えるよ」
俺はそう言って、鞄から手紙を取り出す。皆んなはその様子を、ただ黙って真剣な表情で眺める。
……けど、俺が手紙を取り出す前に、ふと声が響いた。
「待ってください、真昼さん。最後にもう一度だけ……想いを伝えさせて下さい。これが最後になるかもしれないのですから……だからどうしても……私の想いを、貴方に伝えておきたいんです」
そんな声が響いて、皆んなが芽衣子に視線を向ける。でも芽衣子は臆することなく言葉を続ける。
「好きです。真昼さん。……例え真昼さんが私を選んでくれなくても、それでも私は真昼さんだけを愛しています」
芽衣子は真っ直ぐに、俺だけを見つめる。その瞳に、一切の揺らぎはない。だから俺も、真っ直ぐな視線を芽衣子に返す。
「そうだね。ボクも最後に、真昼に想いを伝えおきたいよ。どんな結末を迎えるんだとしても、ボクの変わらない想いを君に知っていて欲しい……」
そう言って、桃花も真っ直ぐに俺を見る。だから俺は目を逸らさずに、今度は桃花に視線を向ける。
「真昼……ボクは君を、愛している。自分でもどうにもできないくらい……君だけが愛しくて仕方がない。だから真昼……どうかボクを選んでくれ……。そうじゃないとボクは、我慢できそうに無い……。それくらいボクは……君が好きなんだ……」
桃花の熱い眼差しが、俺だけを見つめる。俺はそれを、ただ黙って見つめ返す。
「お兄さん。ならあたしも、ここでもう一度伝えるっス。……お兄さんは神さまなんス。世界でたった1人の、絶対に代えのきかないあたしだけの神さま……。だから……お兄さん。例えお兄さんがどんな選択をしても、あたしは永遠に……死ぬまでお兄さんだけを愛するっス。それだけは、知っていて欲しいんス」
天川さんは、まるで神様でも見るような狂信的な目で、揺らぐことなく俺だけを見つめる。だから俺も、その瞳の意味を噛みしめるように、ただ真っ直ぐに天川さんを見つめ返す。
「…………お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。私を見て、私だけを見てよ。私はね、お兄ちゃんが好きだよ。きっと誰よりも昔から、ずっとずっと……お兄ちゃんだけを愛してきた。私は、お兄ちゃんが好き。もうお兄ちゃんだけしか、好きじゃない。だからね、お兄ちゃん……。私を愛して。私からお兄ちゃんを、取らないで……。私はお兄ちゃんの為ならなんだってする。だから……大好きだよ、お兄ちゃん」
摩夜はただ、無邪気な笑顔で俺を見る。子供の頃からずっと見てきた、摩夜の笑顔。途方も無い愛情に裏打ちされたその笑顔を、俺は真っ直ぐに見つめ返す。
「ふふっ。ようやくだね、真昼。やっとここまでこれた。だからここで、正面から真っ直ぐに私の愛情を伝えるよ。……真昼、愛してる。もう、何もいらない。もう全部、無くなったっていい。私は今死んだっていいって思えるくらい、真昼を愛してる。本当に心から……ううん。私の心は、真昼を愛する為だけにあるの。だから、真昼。私はずっと……真昼を愛してるよ」
そして姉さんも、いつもの狂気的な瞳じゃ無くて、ただ真っ直ぐな瞳で言葉を告げる。だから俺も、真っ直ぐに姉さんの瞳を見つめ返す。
そうして俺は、5人の少女たちの想いを受け取った。だから俺はそれに返事をする為に、用意してきた5通の手紙を少女たちに手渡す。
「これが、俺の精一杯の想いだ。だから皆んな、この手紙を受け取って欲しい」
俺は一人一人、丁寧に手紙を手渡していく。皆んなはただ黙って、俺の手紙を受け取ってくれる。
「…………」
そして5人の少女たちは、真剣な表情で俺の書いた手紙に目を通す。
とても、静かな時間だった。世界から音が消えたような、静けさ。何の音も聴こえず、自分の鼓動すら感じない。
それくらい、緊張していた。それくらい、怖かった。
でも決して、逃げたりはしない。もう逃げることは絶対にしたく無いから、俺はただ黙って彼女たちが手紙を読み終えるのを待つ。
そして5人の少女たちは、ほぼ同時に顔を上げる。
……そして、たった1人の少女だけが、とびっきりの笑顔で、その言葉を口にした。
──ありがとう。
静かな風が、ゆっくりとこの場を駆け抜けた。
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