みんなの想いは揺るぎません‼︎



 芽白めじろ 芽衣子めいこは、走るのが好きだ。



 彼女は嫌なことや辛いことがあると、いつも全速力で走った。そうすると嫌なことや不安なことを、振り払える気がしたから。


 だから芽衣子は、走るのが好きだった。


「…………」


 でも今の彼女は、どうしても走る気にはなれない。学校の授業を終えて、ホームルームも終わった。だから後は、真昼との約束の公園に向かうだけ。


 普段の芽衣子なら、余計な不安も後悔も振り払うように全速力で走って行っただろう。……でも今日だけは、それができない。寧ろそれとは逆に、できるだけゆっくりと遠回りをして公園に向かってしまう。



「……行きたく無いですわ……」


 不安で、怖くて、切なくて、胸が痛い。……しかしそれでも、芽衣子は無くしたくはなかった。真昼がくれた想いなら、不安や恐怖でも大切にしたかった。


 だから芽衣子は、どんな辛い想いも落とさないようにゆっくりと歩く。


「人を好きになるって、こんなに辛いことだったんですね……」


 それでも芽衣子は、前に進む。真昼が選んでくれると言うのなら、彼が前に進みたいと言うのなら、芽衣子はそれを尊重する。



 だって、誰よりも何よりも……真昼のことが好きだから。



「…………真昼さんがもし私を選んでくれたら、今度こそキスをしましょう。真昼さんがどれだけ嫌がっても、思いっきりキスをしてやるんです。……ふふっ、そう考えると楽しみになってきましたわ」


 芽衣子は最後にそう強がって、前へと進む。



 そして芽衣子は、公園のベンチに腰掛ける真昼を見つけた。



 ◇



 久遠寺くおんじ 桃花とうかは、花が好きだ。



 桃花は嫌なことや辛いことがあると、花を見に行った。綺麗な花を見つめていると心が落ち着いて、もう少し頑張ろうって思える。


 だから桃花は、花を見るのが好きだった。


「…………」


 でも今は、花を見ても全く心が休まらない。もうすぐ、真昼が告白すると言った時間だ。それを想像すると、ドキドキと心臓が高鳴って、いくら花を見つめてもその高鳴りは治ってくれない。


「ふふっ。もうボクは、真昼のことしか考えられないみたいだ……」


 桃花は、真昼を監禁する為に色々と準備を進めてきた。真昼がどんな選択をしようと、自分の部屋に連れ込んで心の底から愛したら、きっと真昼も自分を好きになってくれる。桃花はずっと、そう考えてきた。


「……真昼。君がボクを選んでくれなかったら、ボクはどうするんだろう? もうボクにも、分からないよ……」


 朝音の言い出した約束。例えそれが真昼との約束だったとしても、もうそんなもので桃花を止めることはできない。彼女の内側の欲望は、もう誰にも止めることができないほど、大きなものになっているから。


「……ふふっ……」


 だから桃花は、笑う。どんな結末を迎えようと、自分の愛は揺るがない。彼女はそれを知っているから、ただ笑い続ける。桃花はそうやって弱さも強さも笑い飛ばして、愛情だけで前に進む。



 そうして桃花は、公園のベンチに腰掛ける真昼を見つけた。



 ◇



 天川あまかわ 三月みつきは、考えることが好きだ。



 どんなに不安で辛くても、必死になって何かを考えている時は、不安を感じずに済む。


 だから三月は、考えることが好きだった。


「…………」


 でも今は、どうしても頭が働いてくれない。不安で不安で、仕方がなかった。真昼が自分を、選んでくれないかもしれない。それは三月にとって、死ぬのと同じことだ。


「……あたしは、認めないっス」


 三月は嫌いだった。何度も何度も男を取っ替え引っ替えする女や、失恋したと泣いていた次の日に別の男の話をする女。そういう軽薄な想いが、三月は何より嫌いだった。


「あたしは一生、お兄さんだけが好きっス。それ以外は誰も愛さないって、もう心に決めてるんス。……例えそれがどれだけ辛い道でも、あたしはそうすると……決めたんス」


 三月にとって真昼は神さまだから、その代わりなんて存在しない。だから数年後、あれは気の迷いだったなんていう愛情を、三月は認めない。彼女の愛情は、ずっと永遠に真昼にだけ注がれ続ける。


「……お兄さん。信じてるっス。ずっとお兄さんがあたしの神さまでいてくれるって、そう信じてるっスよ……」


 貴女のその感情は、ただの依存なんじゃないの? 三月は一度、朝音にそう問われた。三月はその時、揺らいでしまった。でも今の三月は、その程度の言葉で揺らいだりしない。


 どれだけ不安で怖くても、三月は自分の愛情を信じ続ける。だって自分の愛情は、永遠に真昼だけのものだから、だから彼女は真昼だけを愛し続ける。



 そうして三月は、公園のベンチに腰掛ける真昼を見つけた。



 ◇



 笹谷ささたに 摩夜まやは、1人でいるのが好きだ。



 彼女は昔から人見知りで引っ込み思案で、人と関わるのが好きではなかった。


 だから摩夜は、1人でいるのが好きだった。


「…………」


 でも真昼といる時だけは、例外だった。真昼の掌の温かさが、好きだった。寂しい時にいつも側に居てくれるのが、好きだった。ずっとずっと真昼のことだけが、好きだった。


「……お兄ちゃん……」


 顔を思い出すだけで、胸が熱くなる。側にいるだけで、ドキドキが止まらない。そして触れると、我慢できなくなる。


「お兄ちゃんは、私だけのものだ。絶対にどんな手段を使っても、お兄ちゃんは私が守ってあげる。そうじゃないと……ダメなの……」


 摩夜はずっと真昼が好きだった。物心ついた時から、真昼のことだけを考えて生きてきた。そんな真昼が、自分の以外の誰かのものになるなんて、そんなこと考えられない。


 真昼が自分以外の女の手を引いて、何処かに出かける。そしてもう2度と、自分の手を引いてくれない。そう考えただけで、摩夜の胸にどうしようもない痛みが走る。


「……ふふっ、でもそんなのあり得ない。お兄ちゃんは絶対に、私を選んでくれる。そうじゃないと……おかしいもん……」


 摩夜は大きく息を吐いて、前を見る。恐怖や不安では、摩夜の足を止めることはできない。だって摩夜は信じているから。真昼が自分を選んでくれると、摩夜は心の底から信じている。



 そうして摩夜は、公園のベンチに腰掛ける真昼を見つけた。



 ◇



 笹谷ささたに 朝音あさねは好きなものなんて何もなかった。



 朝音は何でも簡単にこなせるから、ずっと何にも興味が持てなかった。


 だから朝音は、何も好きでは無かった。


「…………」


 でも、真昼だけは特別だった。理由なんて無い。きっかけなんて何も無い。彼女はただ、真昼だけしか愛せなかった。だから彼女は、何の掛け値もなしに真昼だけを追い求め続ける。


「真昼……。ふふっ、真昼が告白してくれたら、ギュってしてあげよう。それでよく頑張ったねって、頭を撫でてあげるの。真昼はいっぱい頑張ってくれたから、お姉ちゃんの全てをあげないとね……。ふふっ、楽しみ……」


 朝音はるんるんと楽しげに、道を歩く。彼女は信じていた。真昼が絶対に自分を選んでくれると、そう信じ続けてきた。


「これからは、ずっと一緒……。もう何の我慢もせず、真昼に愛してもらえる。永遠に2人だけで、愛し合える……」


 朝音はそう言って、蕩けるような笑みを浮かべる。彼女に恐れるものなんて、何もない。彼女は邪魔だと思えば、自分の感情すら捨てられる。だからただ、求め続ける。だからただ、愛し続ける。


 愛情以外の全てを捨てて、朝音は前に進み続ける。


「私の全ては、真昼の為だけにあるの。だからずっと、側にいるよ……」


 そうして朝音は、公園のベンチに腰掛ける真昼を見つけた。



 ◇



 そうして、5人の少女たちが真昼の元に集まった。ドキドキと胸を高鳴らせて、彼女たちは真昼の言葉だけを待つ。



 そしてそこに、1つの言葉が響く。



 赤い夕暮れが、街を照らす。それでもまだ、今日は終わらない。


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