大丈夫ですか?
「さて、挨拶もすんだようだし、そろそろ真昼の家にお邪魔させてもらおうか」
「待つっス。病人のお見舞いにこんなに大勢で押しかけるのは、迷惑っス。ここは代表してあたしが行くんで、2人はもう帰っていいっスよ?」
が、まるで桃花の動きを止めるように、三月がそう口を挟む。
「くふっ。なら三月くん、君が帰ればいいじゃないか。大勢で行くのが迷惑なのは分かるけど、だからって別に君が行く必要はないだろ?」
「……どうやらバカには、通じてないみたいっスね。あたしは、風邪で弱ってるお兄さんに貴女みたいな変態は会わせられないって、そう言ってるんス。……どうせ貴女のことだから、弱ってるお兄さんに……とか、考えてる筈っス」
「君は妄想がたくましいね、三月くん。でも生憎と、ボクは真昼が本気で嫌がることはしないんだ。……それに、君だって何か腹に一物あるんだろう? ボクの目は……誤魔化せないよ?」
「…………」
「…………」
2人は冷たい視線で、睨み合う。場に重い沈黙がおりる。……けど、そんな重い空気を吹き飛ばずように、芽衣子が口を開く。
「お2人とも、喧嘩ならよそでやって下さいませんか。ここは真昼さんの家の前ですよ? あまり騒ぐと、真昼さんに迷惑がかかります」
芽衣子のその言葉を聞いて、桃花は諦めるように息を吐く。
「……ふふっ、確かに芽衣子くんの言う通りだね。こんな所で言い合いをしても、埒があかない。……だからとりあえずは、休戦としておこうか。……いいよね? 芽衣子くん」
「…………そうっスね。ここで言い合いをしても仕方ないってとこだけは、同意してあげるっス」
そして三月も、とりあえずは納得したと言うように、軽く息を吐く。芽衣子はそんな2人の様子を満足げに見つめてから、チャイムに指を伸ばす。
「では、押しますわよ?」
2人にそう確認してから、芽衣子はチャイムを押す。すると、ピンポーンと一度音が響く。
「…………」
「…………」
「…………出てこないっスね」
けれど、いくら待っても人が出てくる気配は無い。
「出かけてらっしゃるのかしら?……真昼さんの容体が思ったよりよろしくなくて、病院にでも行っているとか……」
「それは無いっスね。お兄さんはちゃんと、この家に居るっス。それは絶対に間違いないっス」
「……なぜ君にそれが分かるんだい? ……とは、聞かないでおいてあげるよ。……でもとなると、朝音さんと摩夜くんもこの家に居る筈だね。あの2人が風邪を引いた真昼をほおって外出……なんて、どう考えてあり得ないよ」
「なら、居留守っスかね? あの2人なら、あり得ないことじゃ無いっス」
そんな2人の会話を聞いて、芽衣子は驚いたように口を開く。
「貴女たち2人は、何を言ってるんですの? 真昼さんのご家族が居留守だなんて、そんなことするわけがありませんわ」
「……そうか。君はまだ、あの2人に会ったことがないんだね。なら今のうちに、覚悟を決めておいたほうがいい。君の真っ直ぐさが通じるほど、あの2人は優しくは無いからね」
「…………」
芽衣子は、分からない、と言った風に黙り込む。桃花はそんな芽衣子に、哀れむような視線を向ける……けど、それだけ。特に何か、声をかけたりはしない。彼女もそこまで、優しい人間では無い。そして三月は、そんな2人を無視して家の扉に手をかける。
「あ、開いてるってス。てことは、やっぱり家に居るんスね。……摩夜ー! お見舞いに来たっスよー!」
三月は勝手に扉を開けて、そう声を上げる。……けどやっぱり、返事は無い。
「ちょ、ちょっと何をしてるんですか、貴女は! 勝手にそんなことをしては……!」
「……これくらいのことで、何を言ってるんスか。……いやそんなことより、なんかきな臭いっスね。嫌な予感がするっス。もしかして、お兄さんは……」
三月はそう呟きながら、勝手に家の中に入ってしまう。
「ちょっ、会長さん? あの方、大丈夫なんですの? 勝手に家に、入ってしまわれましたよ?」
「………………まさか、真昼が弱っているのをいいことに、あの2人……。芽衣子くん、悪いがボクも行くよ。何か嫌な予感がするからね」
桃花も独り言のようにそう呟いて、三月を追って家に入る。
「…………正気ですの?」
消えていった2人を、芽衣子は唖然と見送る。……しかし、彼女もそのまま立ち止まってはいられないのか、
「……すみません。真昼さん、ご家族の皆さんも、後で沢山……謝らせて頂きますから……」
そう言葉をこぼして、2人の後を追うように家の中へと踏み入る。
「…………」
家の中は、冷たい雰囲気が漂っていた。かなり大きめの一軒家。掃除も行き届いていて、綺麗に片付けられている。でも何となく、少し寂しい雰囲気を感じる。
「……お2人は……2階ですか……」
2階へと続く階段を上っている2人の姿を見つけて、芽衣子は早足に2人の背を追いかける。
「……おや、芽衣子くん。やっぱり君も来たんだね。……ふふっ。悪い子だね、君も」
「別に、良い子だった覚えなんてありませんわ。……でもただ、お2人も後でしっかりお家の方と真昼さんに、頭を下げてくださいね」
「分かっているよ。真昼の無事が確認できたなら、それくらいお安い御用さ」
2人の会話を他所に、先頭を歩いていた三月が1つの部屋の前で足を止める。
「……ここがお兄さんの部屋っス。…………開けるっスけど、いいっスね?」
三月の言葉に、2人は無言で頷きを返す。3人はどこか、浮ついていた。心臓がドキドキと高鳴って、とりあえずドアをノックしてみる……なんて発想も思い浮かばない。
3人はただ、胸に棘が刺さったような嫌な予感に引きずられ、ごくりと生唾を飲み込んで、真昼の部屋に踏み入る。
──そして、3人は見た。
「…………」
真昼が寝息を立てている。普段と比べてどこか子供っぽい表情で、真昼は普通に眠っている。
「…………」
「…………」
けどその隣で、2人の少女が寝息を立てている。真昼を守るように、或いは捕食するように、彼女たちは真昼に絡みついまま眠っている。
しかも、
一糸まとわぬ姿で。
「────」
3人の少女は、思わず息を飲む。だって今の真昼たちの姿は、どうみても……そういうことをした後にしか見えない。
風邪を引いた真昼を心配してやって来た。しかし少女たちが見たのは、眠っている真昼に絡みつく2人の裸の女。
「な、何をやってるんスか!」
恐怖するように、或いは心底から怒ったように、三月が声を響かせる。それはもう、叫び声と言っていいほどの声量。だから眠っていた少女が目を覚ますのは、至極当然のことだろう。
「…………うるさいなー。せっかく真昼と気持ちよく寝てたのに……。………………って、なんだ。やっと来たんだね、皆んな。でも、残念。ちょっとだけ、遅かったね……?」
困惑する3人に、朝音は笑みを向ける。全ては自分の掌の上だと言うように、彼女は余裕の笑みを浮かべる。
楽しい楽しいお見舞いは、まだまだ続く。そして真昼はまだ、目を覚まさない。
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