わたくしの学び舎
今日はわたくしの通う高校を紹介いたしますわね。
と言いますの。
そしてなんと、共学なのですよ。
ふふふ、素敵でしょう?
わたくしは幼稚園の頃から中学校まではある大学の附属女子校に通っていたんですけれども、お師匠がこうおっしゃいましたの。
「オトコを観察しなさい」
お師匠はお年を召しておられるけれどもなかなかのモダン・ガールでおられたようですよ。
あら、言い回しがモダンじゃありませんかしらね。
けれども男性のことを『殿方』と呼ばわるわたしに比べたら『オトコ』などとずいぶんとくだけた物言いをされるお師匠はやっぱりモダンですわ。
だから附属のコースを少し逸れて共学の高校を受験しましたの。
それに苔無数高校の制服はモスグリーンの更に深い緑の、女子も男子もブレザーで、とても文学的で素敵なのですよ。そんなに背が高くなくて高校一年生の癖に際立って童顔のわたくしは幼稚園の頃からずっとおかっぱで前髪は切りそろえていて、ただひとつ自慢があるとすればその襟足の髪の毛が外側にナチュラルに、ツン、とはねていて、それをかわいらしいと表現してくださる女子の方たちが何人かいてくださることですかしらね。
さあ、わたくしの高校生としての朝の風景がこちらですわ。
「おはよう、ソナタさん」
「おはようございます」
「おはよう、ソナタさん!元気!?」
「おはようございます。元気ですわ。ありがとうございます」
女子の皆さんとひととおり挨拶を交わした後、ここ最近、何人かの殿方からお声を掛けていただいていて、今朝もお一人、朝のご挨拶をしてくださいましたわ。
「ソ、ソナタさん・・・」
「あら。おはようございます、
「う、うん、元気だよ。ねえ、ソナタさん」
「はい」
「あ、あのさ・・・」
「はい」
「あのね」
「なんでしょうか?」
にこ、とわたくしは首を傾げましたの。
そうしたら、籠球部の一年生のリーダー役をやっておられる長身の道標さんがこうおっしゃんたんですのよ。
「ソナタさん。ずっと前から好きだったんだ。僕と付き合ってもらえませんか」
周囲には他の生徒さんは少し距離を離れてしかおられませんでしたので、道標さんのそのお声はおそらく誰にも聞かれていなかったと思います。
わたし以外には。
『好きです』というのはとても真摯な言葉ですよね。
そして、文学における恋愛の、特に純愛と呼ばれるジャンルの根幹をなすような言葉ですよね。
おそらくお師匠はこういうやりとりを経ることを期待もなさって、「オトコを観察しなさい」とおっしゃられ、共学の高校への進学を望まれたのでしょうね。
ならばわたくしの答えは、こうでした。
「すみません。お付き合いはできません」
「えっ」
辛いですわ。
「道標さん。わたくしたちは高校生です」
「う、うん・・・」
「高校生の本分は、学業です」
「そ、そうだね・・・」
「そして道標さんはもうひとつ、籠球という、なすべきことをお持ちです」
「ロウキュウ?あ、
「はい。わたくしのようなやや時代を錯誤した女子に対してはっきりと好きだと言ってくださった道標さんはとても男性らしい殿方だと思いますし、わたくし自身とても光栄です。ただ、わたくしたちの青春は、恋愛をイチにするには余りにも時間の制約がございますわ。ですので、実際のメンタルとフィジカルを現実生活の中で使う恋愛に日々を費やすことは得策ではありません。その代わり」
「う、うん・・・」
「道標さんとの恋愛小説を書きますわ」
「・・・えっ?」
「道標さんと、わたくしを投影した主人公たちの恋愛小説を書かせていただきますわ」
「そ、それって・・・」
「ご安心ください。道標さんのことをきちんと取材させていただきます。籠球部の練習も多分見学させて頂くことになりますわ。もしかしたら、道標さんにLINEか何かで趣味ですとかお好きな小説ですとか好みのタイプの女性についてですとか、小説の基本設定について質問させて頂くかもしれませんわ」
「だ、だから、好みのタイプは、ソナタさん・・・」
「ありがとうございます!きっと素晴らしい作品にしてみせますわ!」
お師匠、これでよろしいんですわよね?
これが、わたくしの小説修行のために「オトコを観察しなさい」ということの意図でございますよね?
ああ、それにしても、こういう形で書く恋愛小説がこれで10作品目になってしまいましたわ・・・
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