わたくし、せんべい売りますわ
我が
なんて文化的なのでしょう!
そしてお師匠もわたくしがアルバイトをすることを強くお勧めくださったんですの。
『ソナタさん、ソナタさん。せんべい売りなされ』
「奥様、こんばんは」
「あー。ソナタさん、今日は6限目までだったわね。じゃあ、閉店までよろしくね」
「はい。お願いいたします」
わたくしは売り子さん用の前掛けの紐を腰の辺りできゅっ、と締めます。
それから三角巾を髪にまといましたわ。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー。本日は七味お煎餅がお買い得でございます」
店頭に立って商店街を行き交う方々にお声掛けしますのよ。
わたくしの声に反応してくださって、ちらりと商品を眺めてくださったらしめたもの。
「お客様、いかがですか?当店のお煎餅はすべて手焼きでございます。お若い方には厚みがあって硬い王道の醤油煎餅やスパイシー・カレー煎餅などがございます」
「わたしゃ、柔らかくてあまりしつこくない味のがいいわいね」
お店の前を通りかかられたおばあさまにお声掛けしましたところ、こういうリクエストがありましたので、わたくしは更にご提案いたしました。
「ではこの薄焼きの塩煎餅はいかがでしょうか?」
「あら、それいいねえー」
早速お買い上げいただきましたわ。おばあさまはわたくしと少し話されたいご様子でしたので、他にお客様もおいでにならなかったものですから少しだけ言葉を交わしましたわ。
「おやおやあなたさま。お父さんお母さんのお手伝いかね?」
「いいえ、わたくしは社長と奥様の娘ではありません。アルバイトでございます」
「ふうん。どこの小学校かね?あら、それよりも小学生がアルバイトなんてしていいのかい?」
「わたくしは小学生ではありませんのよ。これでも一応高校生でございます」
「あら、これは失礼したわいの。じゃが、なんでせんべいなど売ってるんだね?」
「お師匠がそうおっしゃいましたの。わたくしはお師匠のおっしゃることには必ず意味や理由があると思っていますので素直にしたがったまでですわ。今はわたくし自身にはわからずともその内に『ああ、そうでしたわ』と悟る時もあるでしょう」
「ほおう。お師匠さんのことを随分と尊敬しているんですね」
「はい。深夜に目覚めた時など、お師匠の言葉のひとことひとことを思い起こして一番純粋な文字列を書くことに専念しておりますわ。お客様、本日はお買い上げ誠にありがとうございました」
わたくしは、売りますわ。
売って売って、売りに売りますわ。
そして、お師匠がわたしにそう促すままに、小説を書きに書きますわ。
ほら、今日も月がわたくしの足元をそっと明るく照らしてくださっていますわ。
だから言ってみますね。
「いらっしゃいませ。そして、おやすみなさい」
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