《西暦21517年 誠2》その三


「あたしたちもする?」というノーラに、

「なんで? 君はおれのとなりで戦ってくれるんだろ?」


 うそぶくと、ノーラは誠の胸に軽いジャブを放ってきた。軽めでも、けっこう痛い。本気のパンチならかなりの威力だ。へたにケンカはできない。


「もういいか? マコ。ハッチあけるぞ」


 自分が待たせていたくせに、修士は平然と言う。

 そう言えば、修士は監獄星での性格テストで、サイコパスだという診断が出ていた。こんなの信頼できないと不機嫌そうに文句を言っていたが、結果は当たっていると、誠は思う。

 言い争うのもバカバカしいので、うなずいておいた。


 輸送船のハッチが静かにひらく。

 センターの職員二人はすぐ外で待機していた。帽子を軽くあげて、あいさつをよこしてくる。


「今日はまた、とつぜんですね。予定にはなかったはずですが」


 職員のグレーの制服を見て、誠は急に考えが変わった。銃を向けようとする仲間に目くばせを送り、後退させる。


「上の命令で、こっちも事情は知らないんだ。とにかく、なかに入って物資の確認をしてほしい」


 手招きすると、職員は疑うことなく輸送船に入ってくる。

 監獄星の存在じたいが一般には知られていないから、職員たちは囚人服を見たことがないのだろう。ブルーグレーの同一の服を着た誠たちを見て、どこかの部署の制服だと勘違いしたようだ。安易に背中を見せ、積荷のチェックを始める。

 こっちはもともと輸送船をハイジャックしたのだから、積荷は本物だ。そこを怪しまれる心配はない。


 職員が仕事に集中しているすきをうかがい、背後から撃った。服が傷つかないよう、後頭部を狙って。

 一人を誠がやると、すぐにトムがマネをした。もう一人も床に伏す。


「わあっ。やっぱり、マコ、残忍王」


 修士の軽口につきあっている気分ではない。

 誠は端的に告げた。


「制服をちょうだいするんだ。おれたちは秘密兵器がなんなのか知らない。情報が必要だ。二手にわかれよう。二人はコイツらの制服を着て、職員のふりをする」

「なるほど」


「それなら、あたしとマコが職員になりましょ」と、ノーラは言うが、誠は心配だ。

 そうなると、残る三人は修士、トム、コリンだ。修士はなんだかさっきから異様にハイテンションだし、人間借りに目覚めたトムと、何を考えているかイマイチわからない寡黙すぎるコリンの組みあわせはマズイ。暴走するかもしれない。


「いや、制服は二組みとも男物だ。修士とトムが着てくれ」


 制服を着ていれば、まず疑われることはない。撃ちあいになる可能性は低いと考えた。


「いいけど、すっかりマコがリーダーだな。なんか、シャク」

「じゃあ、修士。おまえ、リーダーやるか?」

「めんどくせぇよ。いい」

「なら、言うとおりにしてくれ」

「ラジャー」


 修士とトムが制服に着替えた。二人は帽子を目深にかぶり、職員になりすます。

 ベスを船に残し、誠たちは輸送船を降りた。


「修士たちは右へ行ってくれ。おれたちは左の廊下へ行く。連絡はトランシーバーでとりあう。とりあえず、これと言った情報がなくても三十分に一度は連絡をつけよう」


 うなずく修士たちと最初のわかれ道で逆方向へ向かった。

 廊下のかどごとに壁に張りついて立ち止まり、ようすを見る。が、どういうわけか、センター内に人影はない。


 なんだか無気味だ。なぜ、誰も見あたらないのだろう。さきほどの職員殺しは輸送船のなかで行われたから、防犯カメラには映っていないはずだ。誠たちの侵入に気づかれているわけもないのに。


「妙だな。ほんとに人がいるのか?」


 いや、職員がいたのだから、ほかにも人間がいるのは間違いない。監獄星の囚人のひと月ぶんの食料と同量を消費するだけの人数が。


「秘密を守るために、最低限の人しか置いてないんじゃない?」と、ノーラは不思議に思っていないようだ。


「まあそうかもな」


 用心しつつ、無人の廊下を歩いていく。ドアにはすべてロックがかかっていた。職員用のパスワードかICカードのようなものがいるのだろう。


 これじゃ調べにならない。

 そう言えば、さっき奪った職員の制服をポケットのなかまで調べなかったのは、うかつだった。きっと鍵を持っていたはず。


 修士たちに連絡しようとしたとき、廊下のつきあたりに窓が見えた。宇宙空間が丸い枠の向こうに見える。その窓外を、たった今、宇宙船がよこぎっていった。ひじょうに小さな宇宙船——ボートだ。


 誠は走って窓にとびついた。

 ボートはこの旧医療センターの発着場へと吸いこまれた。

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