つるのおんがえし弐ノ舞

池田蕉陽

つるのおんがし弐ノ舞



 むかしむかし、あるところに、貧しいおじいさんがいました。


 寒い冬の日、おじいさんは町へたきぎを売りに出かけました。その道中、おじいさんは一羽のツルがワナにかかってもがいているのを見つけたのです。


「おお、おお、可愛そうに」


 おじいさんはそういって、ツルを逃がしてやりました。


 するとツルは、おじいさんの頭の上を三ベん回って「カウ、カウ、カウ」と、さもうれしそうに鳴いて、飛んで行きました。


 その夜、日暮れ頃から降り始めた雪が、コンコンと積もって大雪になりました。


 おじいさんが、火をつけた薪で温まっていると、トントン、トントンと叩く音がします。


「ごめんください。開けてくださいまし」


 若い女の人の声です。


 おじいさんが戸を開けると、頭から雪をかぶった娘が立っていました。おじいさんは驚いて、

「おお、おお、寒かったじゃろう。さあ、早くお入りなさい」と、娘を家に入れてやりました。


「わたしは、この辺りに人を訪ねて来ましたが、どこを探しても見当たらず、雪は降るし、日は暮れるし、やっとの事でここまでまいりました。ご迷惑でしょうが、どうか一晩泊めてくださいまし」


 娘はていねいに、手をついて頼みました。


「それはそれは、さぞ、お困りじゃろう。こんなところでよかったら、どうぞ、お泊まりなさい」


「ありがとうございます」


 娘は喜んで、食事の手伝いや掃除などをしておじいさんに楽をさせました。


 用事がひと通り終わって、寝る時間がやってきます。


 娘はびょうぶを立てて、こういいました。


「変なことをお願いするようですが、世が明けるまで、決してのぞかないでいただけますか」


 すると、おじいさんは「おお、ちょうどいい。わしもそうお願いするところだったのじゃ。絶対にのぞいてはならぬぞ」と、いって布団にもぐりました。


 キコバタトン、キコバタトン……。


 夜な夜な、部屋ではそのような音がひびいてました。ツルが長いくちばしで自分の羽毛を引き抜いては、持ってきた糸にはさんで機をおっているのです。実は娘、おじいさんに助けてもらったツルで、恩返しをするために人間の姿でやってきたのです。


 ところが、ツルは機をおる作業がなかなかはかどらないでいました。さっきおじいさんがいったことが気になっているのです。


 ツルはとうとう我慢ができなくなって、びょうぶのすきまからのぞいてみました。すると、そこにはおじいさんがいなくて、笑顔の青年がツルを見ていたのです。


「もう、隠していても仕方あるまい。わたしは、いつかあなたを助けた男でございます。あの日わたしが勝手にのぞいたばかりに、あなたに恥をかかせたことは許してください。ですがあれは、わたしがあなたを愛して心配してのことです。それなのに、あなたは突然飛び出してしまって、あんまりではありませんか。だからわたしは、あなたと再会するためにワナまではって、わたしだと気づかれないようにおじいさんとしてやってきたのです。そうすれば、またあのような幸せな日々を送れると思ったからです」


 ツルは怖くなりました。もうその恋は終わったはずだからです。


 ツルがだまっていると、青年は「けれど、もうお別れなのですよね。また、どこかへ飛んで行くのでしょ。どうぞ、いつまでもおたっしゃでいてください」と、あきらめた様子でした。


 ところが、最後に青年はこういいました。


「ですが、忘れないでくださいね。わたしはまた、必ずあなたの前に現れます。それがおじいさんなのか、おばあさんなのかは分かりませんけどね」





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つるのおんがえし弐ノ舞 池田蕉陽 @haruya5370

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