Day4
自宅は両親といるのが当たり前だったから、朝、家族におはようを言えないのが結構辛いです。
いっそのこと、作業小屋に住もうかな。
あそこなら私一人で待って時間が多かったから、ここまで辛くはないかも。
作業小屋だけど、吹雪いた時のために一応寝泊まりできるようになってるし、近くには水量は少ないけど湧き水もあるし。
食料はポーション届けるついでに買えばいいし、何より村の中の土地は領主様のものだから全て借地だし、住む人数で家の大きさも決められてるからなぁ…。
ああ、一人で家にいるとどんどん暗くなってくな。
よし、今日は作業小屋改修計画でも立てて気を紛らわせよう。
まずは足りないものを書き出して、小屋の使い方も考えよう。
あ、ちょっと一人暮らししてみたいとか思えてくる。
これは実家暮らしだった前世の私の影響かな。
うん、ちょっとだけ気分が上向いた。今日も頑張ろう。
気を紛らわせるために故意にはしゃいで購入予定リストや間取り図を描いてたら、隊長さんとお兄ちゃんが来た。
隊長さんが少し話がしたいというので、家に上がってもらった。
例によってお兄ちゃんが3人分の朝食を持たされていたので、お茶を入れてテーブルに着いた。
昨日出来たポーション(劣化品だって言ったのに足りないからと買い取られた)や、スタンピードの時に提供したポーションの買い取りをしてもらったり、お兄ちゃん育成計画の話をしていたが、ふっと会話が途切れた。
ああ、隊長さん。その顔は前世の私が覚えてるよ。
母が交通事故で亡くなったと話す父が私に向けた顔だよ。
「…ひょっとして父ちゃんたち、見つかったの?」
二人は言葉を無くして驚いている。
「今日で3日目、家にも小屋にも戻ってないから…、その可能性もあるなって思ってた」
隊長さん、すごい痛そうな顔だよ。スタンピードの時でもそんな痛そうにしてなかったよ。隊長さんのせいじゃないんだから、そんな顔、しないでよ。
「………東の森の中で見つかった。ケガをした奥さんを庇いながら、必死に戦ってたようだ。付近には核が大量に転がってた」
「…そう。父ちゃんらしいな。身体が残ってたってことは、周りにいたスライムを全部倒し切ったってことでしょう」
何だろう…。悲しいのに、苦しくはない。
意地でも母ちゃんを守るって、母ちゃん大好きな父ちゃんらしくて、娘の前でいちゃいちゃする父ちゃんと母ちゃんを思い出しちゃった。
涙は勝手にどんどんと流れてるのに、少し頬が緩んじゃった。
「習わし通り、その場で火葬して埋めた…」
この世界では、町や村の外で亡くなった場合、スライムや野獣の餌にならないように、形見だけ除けてその場で火葬するのだ。
見送るのはその場に居合わせた人だけで、葬儀は無い。
平民はお墓を作らずに、形見を家に置いておくのが一般的だ。
「隊長さんが見送ってくれたの?」
「ああ、俺と隊の奴ら5人で見送った」
「ありがとう。父ちゃんも母ちゃんも友達に見送ってもらえたんだね」
小さな村で、ケガの多い兵士と治療する薬師は何度も会う。
友人付き合いになるのも当然だ。
「嬢ちゃんを呼ぼうと思ったんだが、居場所がわからなくて…。すまん」
「ううん。私がその場にいたら、父ちゃんも母ちゃんも旅立てなくなっちゃうよ。そういう人たちだもん」
『一番辛いのは旅立つ人たち。だから安心させなきゃいけない。でないと旅人が迷ってしまうから』辺境の教えの一つだよ。
私、その場にいたら絶対大泣きしちゃうもん。
「そうか…、そうだな。二人ならそうなるな」
「うん。だからきちんと送ってくれてありがとう」
「ああ、安心してくれ。しっかりと友人として見送った。それで、形見なんだが、奥さんは翡翠のネックレスを持ってきたんだが、旦那は装飾品嫌いだったから何も無くて…」
「父ちゃんの槍は残ってる?」
「…折れてはいたが、残ってた」
「じゃあ、それがいい。母ちゃんを守った証だから家に飾るの。きっと私も守ってくれるから」
「そうだな、今度持ってくる」
「はい、お願いします」
「それで、今日はどうする?家に居るか?」
「ううん。この家に一人で居ると、両親が居ない事を思い知らされて、すごく辛いんだ。だからポーション造りに小屋へ行くよ。それに、一人じゃこの家に住めないから、作業小屋に住もうかと思ってるの」
「おいおい、さすがに村の外に一人住まいは危ないだろう。養護院とかなら同年代もいるし、安全じゃないか?」
「でも、養護院じゃポーション造れないよ。小屋に通うにしても、養護院で一人だけ毎日外出するなんて勝手は出来ないよ」
「…じゃあ、誰かの家に引き取ってもらうとか」
「この村、一人住まいの人ってほとんどいないでしょ。そうなると引き取ってもらった家の家族が仲良さそうにしてるのを見ることになって、すごく辛そうなんだけど。だから今はこの家以外で一人でいることの方が楽なんだ。それに、小屋に毎日通うのも、私の足じゃ往復3時間かかるし」
「……………い、今すぐ結論出すんじゃなくて、しばらく色々試して見てからでも、いいんじゃないか?」
「うん、そのつもり。どうせ一か月以内にこの家出なきゃいけないでしょ。それまでは考えるよ」
「…ああ、そうしてくれ」
「うん、心配してくれてありがとう。じゃあ、小屋へ行こうか」
「ああ、俺は仕事で村にいなきゃいけないから、今日も二人で行ってくれ」
「うん、行ってきます」
「ああ、気を付けてな」
家にカギをかけ小屋に向かう途中、お兄ちゃんが気を使ってか、祝福の話を切り出してきた。
私も何かを考えていた方が楽なので、喜んで乗ることにした。
「昨日は本当に祝福があった。あの仮説は正しいのかもしれない」
「おお、やっぱり!そうなると次は単独討伐換算で64匹だ」
「げ!そんなにかよ。無理じゃん!!」
「そんな事無いよ。昨日は1時間で19匹でしょう。4時間以内に達成しちゃうよ」
「ちょっ!?一日でやる気かよ!!」
「当然じゃん。あと何日私と回れるか分かんないでしょう?」
「いや、もっとゆっくりでもいいんじゃ…」
「ほれほれ、あそこの草むらの中に一匹いるよ。とっとと倒して来てよ、護衛さん」
「あ、そうか。俺、護衛だった」
「そうだよ。私に倒してもらったら、護衛失格だよ!」
「お、おう、そうだな」
護衛に着く前の隊長の言を思い出したのか、やる気になったお兄ちゃん。
でもね、薬草採ってるのを護衛するのと、スライムめがけて突っ込んで行くついでに薬草採るのでは、大分違うけど気付かないでね。
「単独討伐なのにすげー楽。昨日よりスライムがゆっくりに見えた。身体も楽に動く」
「でしょ?もう5回に1回くらいは核を一突きに出来るんじゃない?」
「なっ!まじか!?隊長がやってるの見て、すげーかっこいいって思ってたんだ!」
「明日には確実に一撃撃破だよ」
「うおー!やるぞ!!」
お兄ちゃん、そんな簡単に乗せられちゃっていいの?将来が心配だよ。
さてさて、昨日とは打って変わってやる気のお兄ちゃんを引き連れ、やって来ました森の中。
今日は西の森の奥を中心に走り回ります。
簡単そうに言ったけど、さすがに一日で64匹だからね。
お兄ちゃんのレベルが上がったことで、走破スピードが上がってます。
私も面ど…いや、効率重視です。
発見即投槍して地面や木に張り付け。
お兄ちゃんも慣れてきて、私の槍を追いかけてぶすり。
で、私の槍を投げ返してもらっいつつ、移動。
今日はお昼も小屋に戻らないつもりなので、午前中は薬草ガン無視です。
回復力も上がってるから、ちょこちょこ休憩入れるだけでペースを維持できます。
で、ふと気づいたら、知らない場所まで来てました。
調子に乗りすぎた、反省せねば。
まあ、森のどこからでも高い山脈は見えるから、方向を見失うことは無いんだけど、自然をなめちゃいけないよね。
既に討伐数は45匹。よし、ゆっくり採取しながら戻ろう。
結局、帰りの途中で64匹になったので、お兄ちゃんに薬草の摘み方だけ教え、私が生えてる場所を指示しつつ、私が討伐しながら帰りました。
同じ道を帰ったつもりだったのにちょっとズレてたらしく、スライムの溜まった窪地を見つけてしまった。
反省したはずが、大量のスライム見たら冷静じゃいられなかった。
思わず突っ込んじゃったけど、囲まれたので、石突側の隠し槍も出してしのぎました。
40匹単独討伐です。二人合わせて104匹…。
「すまん。俺、調子に乗りすぎた」
「私もだよ。反省してる」
小屋に戻ったころには興奮も冷め、二人してしょんぼりしちゃった。
「親や先輩たちから森での注意事項を言い聞かされて育ったはずなのに、言いつけ守れてなかったね」
「ああ、そうだな。でもこれ以上破るわけにはいかないから、気持ち、切り替えるぞ」
『気持ちを引きずったまま作業をしてはいけない』
これも厳しい自然の中で生きるための教えだ。ちょっとしたミスが命取りに繋がる世界だからね。
「うん。ミスしないように集中してしっかり作業しなくちゃね」
「おう、俺も手伝えることあるか?」
「じゃあ湧き水汲んできてくれる?」
「この近くの湧水って、ちょろちょろのところ?」
「うん、時間かかるけど、その小さい水がめにお願いできる?」
「おう、行ってくる」
さて、一人になったところで、今日は一時作業からポーション完成まで一気にやっちゃうよ。
気持ちを切り替えて作業に集中してたら、ちょっと元気出てきた。
作業の待ち時間に、住むための小屋の備品チェックを始めた。
よし、チェックリスト作って壁に貼っておこう。
あ、薪が少ないや。今日、小屋に泊まると明日は薪拾いしなきゃ。
食料も非常食しか無いから食材ストック置かなきゃね。
着替えも増やさなきゃいけないし、ポーションの瓶やコルクも欲しいな。
今朝書いてた欲しいものリストに追加しておこう。
両親の死を聞いちゃったから、今日は自宅じゃ耐えられそうにない。
小屋を住めるように改造してれば、少しは寂しさを忘れられるよね。
何だかんだと動いてたら、お兄ちゃんが水がめ持って帰ってきた。
「おお、いっぱいにしてくれたんだ。ありがとう」
「おう、薪が少ないみたいだったから、溜まるの待つ間に拾ってきた。だけど湿ってるから暖炉のそばに置いた方がいい」
かめを置くと、外から薪束を運び込んでくれるお兄ちゃん。
おお!4束もある。枝が多いから一束2時間として8時間はもつよ。
「ありがとう。助かるよ」
「でも、その小型暖炉だと煮炊き出来ないだろう。本当にここに住む気なのか?」
「一人分だから小さなフライパンで何とかなるよ。ここで休憩する時にも前から使ってるのあるから」
「そうか、小さけりゃいけるか。…あと、何が足りないんだ?」
「おろ?反対しないの?」
「俺、大好きだったばあちゃんが死んだ時、家に帰るのが嫌になったから…。帰ってもばあちゃんのイスや普段居た場所、見ないようにしてた」
「だよね。居るはずの場所に居ないのって、きついよね。この小屋は私が一人で待ってるための場所みたいなもんだから、辛くなりにくいんだ」
「…家から持ってくるものがあったら言ってくれ。手伝うから」
「うん。私用のクローゼットやベッド、お願いするよ」
「おい、いきなり大物だな!」
「途中まで荷車で来て、そこから兵士さんたちに担いで来てもらえば大丈夫!」
「先輩たちまで使う気か!?少しは遠慮しろ!」
「だってぇ…、両親亡くしたいたいけな少女だよ。手伝ってくれるでしょ」
「おまっ!自分で言うな!」
「えへへ?」
「…ひでぇ…」
無理に明るく振る舞ってちょっとお馬鹿なやり取りになったけど、明日は採取籠背負って村に不足品採取だね。
今日中にリスト完成させなきゃ!
明日は私が村の兵士詰め所までお兄ちゃんを迎えに行き、不足品を持って小屋に来ることになった。
お兄ちゃんは納得いかない顔をしながら、ポーション持って帰って行った。
一人になった私は、せっせと小屋のリフォームを始めました。
作業台や私のお昼寝用の長椅子なんかの配置を変え、使い勝手を考えて小物類を配置。
…終わった。何せ物が少ない6畳間だからね。
身体は小さいけど、レベルアップのおかげで力はあるし。
でもね、実はこれからが本番なんだよ。
6畳一間に暖炉とキッチンと寝床と作業場。
はっきり言って狭すぎる。
2階は板切れ一枚の壁だから、寒すぎて使えないよ。
物置確定だよ。
で、私考えました。
地下室を作ろう。
地下ならあったかいし、掘って固めれば建材いらずだし。
そして何より、魔法で掘れる!!
私ってレベルアップのおかげか、魔法いっぱい使えるんだよね。
村の人たちは薪に火を付けたり飲み水をコップに出したり洗濯物じゃぶじゃぶしたり程度しか使ってないんだけど、土を固めて素焼きレンガみたいなの作れるんだよ。
5歳のころ、粘土遊びしててレンガが作れるのに気づいたんだけど、最初はレンガもどき(落とすと割れる)1個作るのが限界だったんだけど、祝福(レベルアップ)の度に、作れる量が増えてた。
しかも、練習してたらどんどん固くできるようになったし。
これでおうち作ってみたかったんだよ。
前世でやってた世界的に有名な某サンドボックスゲーム。
あれでおうち作るの好きだったんだよ。
今までも、雨の日や地面がぬかるんだ日なんかは小屋でお留守番だったから暇だったんだよ。
でも、地上にレンガ造りの家なんか作ったら、さすがに異常だよね。
両親の元では可愛い娘でいたかったから、家の横側、すぐそばの崖っぽい急傾斜地に、こっそり洞窟掘って練習してたんだよ。
見つからないように入口は毎回埋めて、壁面を崖っぽく偽装してたからね。
では、洞窟拡張してみよう。
ランタン持って、いざ出陣。
現在の洞窟は奥行き20mほど。幅1m、高さ1.5m。壁と天井は土を思いっきり圧縮してレンガにしてあります。天井はアーチ式。
落盤怖いからね。
じゃあ、洞窟を廊下にして横に部屋を作っていこう。
完成予想図は旗みたいな感じ。竿が廊下で、布部分が部屋ね。
ズゴゴゴゴゴ
上下左右の土を圧縮して押し固めながら進みます。
まずは口の字状に通路を作り、真ん中に残った土はレンガにして天井を補強しよう。
うん、口の字の一筆目で力尽きました。
魔力が無くなるとすごく身体が重いんだよね。
長い事プールに入ってて出た時の感じ?きついっす。
へろへろになりながら入口を偽装して小屋へ戻りました。
沸かしてたお湯でお茶を淹れて、パンをかじります。
残ったお湯で身体を拭いて…。
暖炉前でまっぱ少女です。うう、気化熱取られて寒い。
暖炉に太めの薪を数本追加し、布団に包まって就寝です。
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