Day3
翌朝、採取用の背負い籠やポーション用の瓶、非常食と水筒なんかを用意してたら、兵士さんが来た。
この兵士さん、近所の兄ちゃんじゃん。
今年、15歳の成人を迎え、兵士になったそうな。
私の朝食用のホットドッグもどきを持たされて、悲壮な顔で戸口に立ってた。
「お、お、俺が死んでもお前を守るから、安心して採取してくれ!」
なんかちょっと変なテンションになってるよ。
これは、隊長さんあたりに相当おどされたかな。
まあ、さらっと流して出かけることにした。
門の兵士さんにもくれぐれも安全にと念押しされて、若干うざくなったのは内緒だ。
さて、気を取り直して、今日は森に直行です。
本当は東の森に行きたいけど、結構遠いしダンジョンの近くも通るので泣く泣く我慢し、近場の森に来ました。
森に着くまでにスライム3匹。昨日より少し少ないか?
もう他の兵士さんたちが頑張ってるのかも。
でも、お兄ちゃん、私を見て引きつった顔するのは止めておくれ。
女の子としてはちょっとショックだよ。
まあ、原因は昨日の夢だな。
スライム見た瞬間、お兄ちゃんを追い越して一足飛びに一刺しだもんね。
睡眠学習かよ。
スライムは中心部にある小さな核を傷つけないと倒せなから、普通は刺して地面や木に擦りつけながら核を壊すんだけど、うまく核を突ければ一刺しです。
三連続一刺し。
あはは、絶好調!
結局、午前中に20匹倒しました。ほとんど一刺しで!
私の感知圏内(薬草探すための薬師の技で、今は半径5mほど)に入ったスライムは、全て倒しました。
ええ、薬草そっちのけで!
でも、感知圏内にいなければ、仕方がないので薬草摘んでます。
あ、スライムは薬草よりも魔力が高いのか、薬草が感知できるならスライム感知は楽勝です。
お昼には一旦小屋に戻って一次処理です。
少しでも効き目が高い方がいいからね。
一次処理にも秘密が有るので、お兄ちゃんはお外です。
え、何お兄ちゃん?
「なあ、小屋の裏にある焼き物みたいな像、あれ何?」
おっと、気付かれてしまったか。
まあ、隠してないんだけど。
「あれは小屋で待ってる時、暇だから遊びで粘土捏ねて作ったんだよ」
「…うさぎやシカ、狐とリスは、まあ分かるけど、何でスライム?」
「奴は敵だよ。だから槍刺してあるでしょ」
「お、おう。そうか…」
む、お兄ちゃんは私の芸術的センスがわからないようだ。
ボヘっと私の力作たちを眺めてる。
まあ、そんなお兄ちゃんは放っておいて、小屋で作業だ。
む、何気に薬草の量が多い。
スライム討伐主体のはずなのに、何で?
ああ、感知全開にしてたからスライムと一緒に薬草も見つかるのか。
よし、これからも討伐主体でいこう。
一時間ほどで処理が終わり、休憩してたら外で槍を振るう音がしだした。
ぬおっ!スライム来たか!
と思って槍を引っ掴んで外に出たら、お兄ちゃんが素振りしてたよ。
ちっ、残念。
じゃなくて、突然どうしたのかと思って聞いてみたら、私のジェノサイドっぷりに思うところが有ったらしく、もっと強くなりたいんだと。男の子やねぇ…。
でも、よく考えたら、私が全部倒しちゃってるから、彼の成長チャンスを取っちゃってるよね。
私としてはスライムがいなくなればいいわけで、自分で倒す必要はないかも。
よし、実け…げふんげふん、育成しちゃおう。
実は以前から不思議に思ってたことがあるんだよね。
『神の祝福』
スライムを倒すとちょっとした熱風みたいなのが来るんだよ。
それが体の中にまで来る感じ。
それで、スライムを倒し続けてると、ある日突然、夜中に筋肉痛に似た何かに襲われることがある。
で、翌日になると力や魔法が強くなってたりするんだよ。
辺境に生きる者たちへの神様からの祝福なんだそうな。
私、7回ほど経験があるんだよね。
父ちゃんに聞いたら、最初は数匹で、次は6、7匹、その次は15匹くらいで起きるらしい。
で、自分の場合を気にしてたら、3匹、6匹、12匹、24匹ってなってた。
ん?二回足りないって?
いや多すぎて何匹か忘れちゃったんだよ。
でも、7回目はスタンピードの前日にあったばかりだよ。
で、考えてみました。
倍々で次に起きるまでが増えてるけど、これって、経験値によるレベルアップなんじゃないの?
そして昨日、一人で倒した時に感じた熱風?は今までよりかなり強かった。
後ろに二人いたけど離れてたから単独討伐になるのかな?
今までは両親に左右から押さえててもらって倒したり、私が抑え役になったりしてたけど、必ず三人で倒してた。
今までは経験値的な何かが分配されてた?
じゃあ、単独討伐なら、祝福に必要な討伐数は3分の1?
こうなると気になって実験したくなるわけですよ。
当然、自分の次の祝福(レベルアップ)までの討伐数はカウントするけど、予想だと単独討伐でも128匹要るんだよ。
でも、もしこの兄ちゃんの祝福回数が少なかったら、結果がもっと早くわかるし仮説の裏付けにもなるじゃん。
よし、まずは聞き取りだ。
なるべく正確に彼の状況を把握せねば。
強くなるためだからとごまか…説明して根掘り葉掘り聞きだした結果、5回目が有ってから討伐したのは3人一組で10匹、スタンピードでは2人1組で20匹ほどらしい。
兵士さん、30人くらいだから15x20で…300匹もいたの?
スタンピード、かがり火焚いて一晩中交代で討伐してたらしいよ。
兵士の皆さんご苦労様です。
おっと、計算しなきゃ。
三人で10匹ってことは、一人当たり3.3匹。
二人で20匹ってことは、一人当たり10匹。
単独討伐換算でおおよそ13匹。
6段階目までの必要討伐数は、予想では32匹。
差し引き19匹。
よし、午後は19匹狩らせよう。
むふふふふふ…。
あ、何かまた引きつった顔してる。
でも、決定事項だからね。
さてさて、やって来ました森の中。
でも単独で19匹だとケガする可能性が高い。
だからせっせとサポートしまっせ旦那。
やり方は簡単。
まず、私がスライムを見つけて核を傷つけないようにぶっ刺します。
次にそのまま近くの木に槍を刺します。
これで張り付けスライムの出来上がり。
あとは私が離れて、兄ちゃんが核をぶっ刺せば終了です。
これだと私が武器無しになるのでダメだって言われたけど、私、スライムの居場所わかるし、突進されても簡単に避けられるもん。
隠れたスライムを指摘しまくってたら、渋々納得してくれました。
「…なあ、スタンピードでは交代で8時間ほど戦って、死にそうな目にあって、二人で20匹。今日は小一時間で無傷で19匹。すげぇ納得いかねえ!」
「そんな叫ばれても…。午後は薬草無視してスライムだけに絞ってたからね。スタンピードじゃ四方八方から来るけど、ここじゃ動かないの一匹ずつだもん。そんなもんだよ」
ほんとはぶっ刺したあと、離れて近場の薬草を採ってるけどね。
「…そうかもだけど、スタンピードとの落差がひどい!」
「スタンピードの時はスライムの動き異常に早いけど、今日は普通だからね。そんなどうでもいいことより、私の予想だと今晩祝福があるはずだから明日教えてね」
「……おう」
「さて、午後も半分過ぎたころだから、そろそろ帰ろうよ」
「……おう」
あれ?急に無口になったけど、疲れたのかな。
「帰りは私が討伐するから、後ろから歩いてくるだけでいいよ」
帰りは違う方向に歩いて16匹の成果でした。
「……おう」
日暮れ前には村に到着し、お兄ちゃんとは門で別れ、食堂で夕食食べてから明日用のパンを買って帰りました。
おうちに入ると、どっと襲ってくる孤独感。
やばい、ポーション造って気を紛らわせよう。
時間経ってるから効きはいまいちかもだけど…。
結局、スライムサーチアンドデストロイ祭りを夢に見て、翌朝目が覚めました。
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