Day2
翌朝になったけど父ちゃんたちは帰って来てなかった。
いてもたってもいられなくなって、おじさんが止めるのも聞かずに門まで走った。
門が開いてたので外に出たら、そこはひどい有様だった。
多くの兵士さんが地べたに寝かされて呻いてる。
村の人が介抱して廻ってるけど、ポーションが足りないみたいだ。
「おい、ポーション残ってないか?腕が折れてるやつがいるんだ!」
「もっと重症な奴らにみんな使っちまった。住人が持ってる分まで提供してもらったが、それも無くなった」
みんなは無言で悔しそうにしてる。
あ、作業小屋には私が昨日一次処理した材料があるはずだ。
「作業小屋に行けば、ポーション作れるよ!私、行って作ってくる!」
駆け出そうとした私の腕を隊長さんが掴んで止めた。
隊長さん、手も顔も真っ赤になって腫れてる。
「本当に作れるのか?」
「うん、いつも半分くらいは私が作ってるから。多分10本分くらいは材料有ったはず」
「…一人じゃだめだ。まだ溢れた残りが結構いるはずだ」
「でも、みんなが…」
みんな痛そうなのに私の事を心配して首を横に振ってる。
自分が痛いのに私の事を心配してくれる人たち。
私はみんなを助けたいのに、私のせいでポーションが作れない。
苦しくって涙が出てきちゃった。
「俺、足と片腕は大丈夫だから、俺が着いてくわ」
まだ若手の兵士さんが立ち上がった。
「俺も槍くらい振れるぞ」
やや年配の兵士さんも立ってくれるけど、おっちゃん、片目開いてないじゃん。
「…二人着けば何とかなるか。くっ、…すまんが頼む」
隊長さん、あんたも行きたそうにしてるけど、片足に添え木してるやん。
「私に槍、貸してください。何度も倒した経験あるから」
結局、両腕が折れてる人の槍を借り受けて、三人で作業小屋に向かった。
作業小屋近くになると何匹かスライムが出てきた。
兵士さんたちをあんなにぼろぼろにしたスライムだ!父ちゃんたちが帰ってこられないのもこいつらのせいだ!
昨日はあんなに怖かったのに、今日はものすごく腹が立つ。
ケガしてる兵士さんたちを働かせたくなくて、私一人で倒してしまった。
「マジか…、俺よりうまくね!?」
「…ああ、信じられんが隊長並みだぞ」
兵士さんたちが何か話してるけど、ケガ人働かせたくなくて頑張ってるんだよ!
ちょっとだけ頭にきてるかもだけど…。
それに、詳細な魔力制御使うと、なぜか身体が思い通り動くんだよ。
やがて小屋に辿り着いたけど、父ちゃんたちは帰ってきてなかったよ…。
でも、今はやることやらなくちゃ。
小屋の屋根裏部屋まで上がり、緊急用に隠してあった五本のポーションから三本を持ち出して、一本は自分用に、残りは兵士さんに渡した。
二本は父ちゃんと母ちゃんがケガして戻ってきたときの為に残しておかないとね。
兵士さんたちは最初遠慮してたけど、ポーション作りに魔力使ってヘロヘロになるから、帰りは守ってとお願いして飲んでもらった。
実際、ポーション作り始めたころは数本でヘロヘロになってたからね。
『以前は』って言葉が抜けただけだよ。
さて、ポーション作らねば!
製造方法は秘密があるから、兵士さんには小屋の周りを警備してもらって、せっせとポーション作ります。
一時間ほどで出来たポーションは12本。これで材料は使い切った。
さっさと戻らないと、待ってるケガ人がいるからね。
外に出ると、兵士さんたちが一匹のスライムを倒してた。
来る時よりだいぶ動きが良くなってるから、ポーション効いてきたみたい。良かった。
帰りは兵士さんが三匹スライム倒してたけど、私は見てただけ。
だって私、ヘロヘロ(のはず)だもん。
だけどかなり多くなってるね。いつもなら小屋の近くでは見かけないからね。
でも、森と村の中間くらいまで来るとスライムを見かけなくなったので、若い兵士さんに作ったポーション渡して走ってもらいました。
もう一人の兵士さんと歩いて帰る途中、岩陰に隠れたスライムに気付いたので、倒してもらいました。
見えないのによくわかるなって言われたので、森の中での採取には、この感知能力無いと大変だよって言ったら、すごい感心された。
村に辿り着いたら寝かされてた兵士さんたちも起き上がれるようになってたけど、手や顔のやけどみたいな腫れはそのままだった。
私も一度やられたことあるけど、あれ、ひりひしてものすごく痛いのに…。
まだポーション足りなそうだし、これからの討伐にも必要だよね。
だから、思い切って頼んでみた。
「隊長さん、もうポーションの材料が無いので明日から採取に行きたいんだけど、一人兵士さん着いてきてもらえないかな?」
本当は私一人でも大丈夫だと思うけど、みんなに心配かけるのは嫌だからね。
「ポーションの入手は急務だから職務として兵を着けるのは出来るが、何人か必要じゃないか?」
「ケガで療養が必要な兵士さんも多いでしょ。一人いれば十分だよ」
ポーションは病気や怪我の治りを早くするものだ。
骨折だと毎日飲んでも10日はかかるよ。
「いや、しかし…」
森の中のスライムも増えてるはずだから、私の安全の為に何人か着けたいんだろうけど、動ける兵士が少なくて困ってるみたい。
そんな時、一緒に帰ってきた兵士さんから助け船が出た。
あ、片目半分くらい開いてる。良かった。
「この嬢ちゃん、スライム狩りなら隊長並みだぜ。一人着けば十分だ」
「え?まじか?」
あれ?隊長さん、素が出てる?
「ああ、小屋へ行く途中5匹出たが、嬢ちゃんが一人で倒してた。二匹同時に出た時も、俺たちの出番は無かった」
「そうだぜ隊長。悔しいけど俺よか断然上手い」
「……まじ?」
「すごい事に隠れて見えないスライムまで感知してた」
「……おう。お前たちがそこまで言うならそうしよう。だが嬢ちゃん、絶対に無理はするなよ。ちょっとでもきついと思ったらすぐに逃げろ。絶対だぞ」
あはは、『絶対』が二度付いた。心配性だなぁ…
でも、心配かけるわけにはいかないからね。
「うん。安全第一で採取するよ。ありがとう」
話がまとまって明日の朝一番で兵士さんが家まで迎えに来てくれることになったけど、おうち入れないんだよね。
結局、療養予定の兵士さんが大工さんちまで同行してくれて、カギを外してもらうことになった。
やっと入れた家。
だけど、しんとして誰もいない家。
大工さんがカギを替えるか聞いてきたけど、断った。
カギ替えたら父ちゃんたちが入れなくなっちゃうもん。
大工さんがカギを付け直して帰るまでは我慢してたんだけど、一人になったらぼろぼろと涙が出てきた。
ねえ、父ちゃん、母ちゃん、早く帰って来てよ。寂しいよ。
どうやら泣き疲れて寝てしまったみたいで、気付いたら夜になってた。
おなかもぐーぐー鳴ってる。
そういえば今日は何も食べてないや。
魔法で小さな炎を出してオイルランプに火を付け、買い置きしてあったパンをかじる。
両親の事を考えるとまた泣きそうになるので、こんなことになった原因を恨むことにした。
くそう、スライムめ。見つけたら絶対殺してやる。
そう考えたら、少しやる気が出てきた。
よし、槍を磨こう。
明日は、惨殺しまくってやる。
磨き終えた槍をベッドの横に置き、スライム惨殺祭りを夢想してたら、知らないうちに眠ってた。夢でも惨殺祭りだった。
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