2 卒業写真

 ルナの目覚めの一報を聞き、ビアンカもルナの部屋を訪れた。

「ルナちゃん、目が覚めて本当によかった。私とアルミス君はゴードン君を見ていなくちゃいけなかったからルナちゃんのそばにはいられなかったんだけど、代わりにエンデル君がずっとルナちゃんを見ててくれたのよ」

「そうか。面倒を掛けたな」

「ルナちゃんが無事ならそれでいいのよ」

「大分頭もしっかりしてきたよ。手足も動くようになった」

「本当によかったわ」

 ビアンカはルナの膝に掛かる布団を丁寧に整えると、ベッド脇の椅子に腰掛けた。

「ねぇ、ルナちゃん、これを見て」

 ビアンカは机の上から一枚の写真を取り、ルナに見せた。大きな本棚の前にたくさんの子供たちが並んでいる集合写真だった。ルナはぱっと笑顔になった。

「懐かしいな。卒業写真か」

「そうよ。みんな写ってるわ。ゴードン君は一番前の列のど真ん中。エンデル君は一番後ろの列の右端。ルナちゃんとアルミス君は二人一緒に右側の真ん中辺り。私はゴードン君の後ろ。みんな何も変わってないわ」

「本当にそうだな」

 写真は僅かに色褪せて古かったが、子供時代のみんなの笑顔は永遠だった。ただし、エンデルだけは不貞腐れた顔をして何も笑っていない。あの頃からエンデルは笑わない人だったなと、ルナは幼いエンデルをじっと眺めた。

「――みんな、帰ってしまうのよね」

 いつも穏やかに仲間のみんなを見守るビアンカが珍しく気弱になって、ぽつりと呟いた。

「せっかくまた会えたのに、みんな、帰ってしまうのね」

 ビアンカは滲んでくる涙を指で拭った。ルナは身を乗り出して、ビアンカの背中を撫でた。ビアンカは感極まってルナに抱きついた。

「またみんなとお別れになっちゃう。私、いや。寂しいよ、ルナちゃん」

 ビアンカはルナの肩で涙を流した。ルナは言葉もなく、ビアンカの背中を撫で続けた。こうして何度、人の寂しさに触れてきただろう。ルナにはもう、分からなかった。みんな孤独で心細く、寂しいと言って泣いた。ルナにも孤独の心細さはよく分かった。分かっていても、相手を慰める言葉は何も出てこなかった。自分の小ささと無力さを感じながら、こうして無言で受け止めるしかなかった。

「あの頃に戻りたい。みんながいた、あの頃に――」

 ビアンカが耳元で零す言葉に、ルナも胸がいっぱいになった。

「私もあの頃に帰りたいよ、ビアンカ。お別れは寂しい」

 ビアンカはルナから体を離すと、涙を拭って、いつも通り笑った。

「ごめんね、私ったら。みんなに会えたことが嬉しくて、つい、名残惜しくなっちゃって」

「私も同じだよ、ビアンカ。ビアンカに会えて嬉しかったし、このまま、別れたくない」

「ありがとう、ルナちゃん。向こうへ帰っても、元気でいてね」

「ビアンカも、体を大事にするんだよ。ヴァジエーニ様があんなことになって、王邸もこれから大変だろうから」

 ビアンカはこくりと頷いた。

「給仕係として頑張るわ。ルナちゃんたちを見送ったら、もうめそめそしていられない」

 涙を拭い終えると、ビアンカは思い出したように言い足した。

「そうそう。ノクス君とエクラちゃんにも今回のこと、軽く説明しておいたからね。二人が心配しないように余計なことは書かなかったのだけれど」

「ありがとう。助かるよ」

「みんなそれぞれ、生活があるものね……」

 ビアンカは遠くを見るように目線を上げた。

 ルナの体も次第によくなり、王都を離れるときが近づいていた。

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