中編 密談
王邸の客人棟でエンデルが呑気に眠っていると、ルナたちの到着を聞き付けたリーダーが無遠慮にずかずかと部屋に入り込んできた。
「よぉ、エンデル、早い到着だな」
騒々しい濁声に耳を突っつかれ、エンデルは眠気で重い体を仕方なく起こした。
「アルミスとルナはどうした?」
「アルミスは知らないが、ルナは墓参りに行くとか言ってたよ」
「お前は行かないのか」
「行くわけないだろ」
機嫌の悪い虫にあちこち掻き乱されるように、エンデルは無愛想だった。リーダーは、かかかと笑って、ソファーにどっかりと座り込んだ。
「不敬だが、ヴァジエーニ様はもう長く生きては下さらない。近頃は面会謝絶で俺の旅も書面での報告になった。色々お伺いしたかったこともあったが、もう何も教えては下さらないだろう。ご本人に生きるお気持ちがあっても、お体の方が持たんらしい」
「即位された頃から病に掛かっていらっしゃったからな。仕方ないだろ」
「王族は守護の対象としてこちら側へ避難させられたのだろうという仮説もあるが、確証は得られなかった」
「仮にヴァジエーニ様がそのことをご存知だったとしても、俺たちに口外はしなかっただろ」
「まぁ、手掛かりくらいは欲しかったな」
「そんなに上手く行くわけないだろ」
エンデルは呆れ果ててまた寝転がった。
「俺たちの目的は事象の解決ではないんだぞ。リーダーも忘れたわけじゃないんだろ?」
リーダーは耳を掻きながら、かかかと笑った。
「ああ、そうだったな。すっかり忘れてたぜ」
エンデルは馬鹿馬鹿しくなってリーダーの相手をするのを止め、また目を閉じた。これでまた寝息を立てられると思った矢先、今度はアルミスが帰ってきた。
「あれ? リーダーじゃないですか! お久しぶりです!」
アルミスは目を輝かせて旧友との再会を喜んだ。
「おお、アルミス。元気そうだな。この前はお前さんのところに寄れなくて悪かったな」
「そうですよ! エンデルさんとルナさんのところには行ったのに、どうして僕のところには――」
アルミスが喚き始めたのをリーダーは手で制した。
「悪かったよ。旅の報告をヴァジエーニ様にしなきゃならなかったからお前のところには寄れなかったんだ。あいつら二人のところに寄ったのは、ルナが襲われたって聞いたからだよ。元々あいつらのところにも寄る予定はなかったんだ」
「……僕もルナさんのところにお見舞いに行きたかったな。幽霊が恐くて行けなかったけれど」
リーダーは思わず吹き出した。
「お前、まだあの幽霊に好かれてんのか。せっかくだから結婚してやれ」
「何てこと言うんですか。僕は興味ありませんよ。幽霊にも結婚にも。ところでエンデルさん、ここは僕の部屋ですよ。いつまで寝転がってるんですか」
「ああ、悪かったよ」
エンデルはまた重い体をのっそりと起こした。
「お二人とも、僕は疲れたので少し休みます。六時には夕食なので時間厳守でお願いしますとビアンカさんが言ってましたよ」
「帰ってきたのか、あいつら」
「いいえ、まだです。もう少し町を見て回ってから帰ると言ってました」
エンデルは眉を潜めた。
「……お前、墓地に行ったのか?」
「ええ。ルナさんたちの姿が見えたので。でも、お参りはしてませんよ。僕にとっては何の意味もありませんからね」
アルミスは眼鏡を外して欠伸をした。
「お二人とも、悪いんですが、しばらく一人にして下さい。眠くてたまんないや」
アルミスはベッドにばったり倒れると、それきり何も言わなくなった。
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